満月に聴く音楽

宮本隆の音楽活動(エレクトリックベース、時弦プロダクションなど)及び、新譜批評のサイト

PAT METHENY TRIO 『DAY TRIP』

2008-07-23 | 新規投稿

旧友、浅野は私にコルトレーンを教えた人物として恩人と言えるが、学生時代はゴリゴリのフリージャズ派で、年がら年中、ジャズ喫茶に入り浸り、アイラーだ、テイラーだ、サンラーだと言っていた。私はそんな奴の硬派ぶりが好きであったが、後年、パットメセニーが好きだと言い、その意外さに驚きながらほっとしたのを覚えている。そしてこの偏屈な野郎をも虜にするパットメセニーの音楽性に改めて敬服した。

私にとってメセニーはギタリストではなく、歌手だった。彼のギターはあまりにも雄弁に歌っていた。そしてメセニーグループはプログレだった。その叙情性や構築美はPFMやバンコ、ニュートロルスなどのイタリアプログレと通底しており、パットメセニーを聴く時、私はジャズという背景を削除していたと思う。

広義のポピュラーミュージックを本質に持つパットメセニーとは、たまたまジャズギタリストだったのだ。彼はミュージシャンでありアーティストだ。従って彼の名曲や名演が、譜面を追う事や、器楽依存的な即興など、音楽範疇内の技術的表出によって生まれるのではなく、もっと内面の衝動や世界に対する感受性といった非―音楽なものが契機になっている事をその音楽に接していて常に感じる。私は以前、メセニーを‘ドラマ作家’と書いた。メセニーのフィンガリングに楽器と戯れるような意識は感じられない。そこが凡百の上手いギタリストとは違うところだ。外の事象に対する感情の揺れや安堵感が音楽化される。その姿は職業ミュージシャンと言うより、紛れもないメッセンジャーのものだ。

『DAY TRIP』はトリオ名義の新作。メセニーグループのアントニオサンチェス(ds)とクリスチャンマグブライド(b)がメンバー。以前、ビルスチュアート(ds)等と組んだトリオは即興のインタープレイによる緊張感を追求したスリリングなものだったが、今回は幾分、リラックスモードとなっている。パットメセニーの中にある平和志向、優しさの表現の一端のようだ。街のうごめきや自然の風景、人々の生活感を描くスケッチのような味わい。しかしメセニーの中では、ジャンルや傾向の棲み分けは存在しない。アコースティックな音色やメロウな曲調は表面的なカラーであり、音の細部に聴き入るや、そこにやはり、凄まじい演奏の応酬がある。大きな音で聴くや、その空気感ががらっと変わるのが、面白い。
アルバムジャケットは例によって表裏で12面にもなる長大な絵。描かれたのは、ある晴れた日の街の風景、そこの人々の営みといった感じだが、登場する人間の表情は描かれていない事に気づく。メセニーが音で描いたのは実はこの無表情な人達の内面であり、感情の動きを表現したに違いない。単なる風景の写実を超えた、内部への眼差しこそを強く感じる。

2008.7.23





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