満月に聴く音楽

宮本隆の音楽活動(エレクトリックベース、時弦プロダクションなど)及び、新譜批評のサイト

The Beatles - Now And Then (Official Music Video)

2023-11-09 | 新規投稿

The Beatles - Now And Then (Official Music Video)

後期ビートルズの個性を際立たせる決定的な要素にピアノサウンドがあったと思っています。少し籠りがちな音質で陰りがあり、それでいてボリュームがあり、ナチュラルなホール感に満ちたあのピアノの音。「let it be」や「hey jude」「day in the life」「sexy sadie」等のバッキングはその典型であり、「martha my dear」や「lady madonna」の流麗なフレーズにもどこかマイナーなムードが漂う事で曲に深みをもたらせ、Beatlesでしか表せない一つの'楽曲に与える環境"とでも言うべき個性を形作っていました。
極論すれば歌よりも全面に迫り出す位のパワーがピアノに有ったのです。グループ解散後の「imagine」や「tommorow」もそれぞれレノンとマッカートニーがピアノの名手であり、歌の背景であるピアノ伴奏が曲の深さを醸し出すそれはむしろメインの要素であった事を示す証左であると感じていました。
Beatles楽曲の背景を覆うアトモスフィアと言いますか、Beatlesの音楽がどこが特別な部屋で鳴っている。そのムードの形成はピアノのサウンドによってもたらされ、Beatlesの部屋を形作る重要なパートであった。
 その意味で90年代に発見された「real love」「free as a bird」は後期ビートルズのあの匂い、ビートルズでしかあり得ない独自の'部屋'を濃厚に持った、これぞビートルズ!というサウンドでした。
それに引き換え今般、リリースされた「now and then」はどうでしょう。
〈ピアノの音が大き過ぎてジョンの声が掻き消されたものをAI技術で分離することに成功した〉との事ですが、聴こえてくるのは殆どポールのオーバーダブした声です。分離の過程でピアノの音を変にイジったのか、あのマジックのようなピアノサウンドは聴かれません。ジョンの声が最初から聴こえにくいのであれば、分離せず敢えてそのまま生の形で残し、幸いにも歌メロはジョンによって明確に遺された訳ですから、ポールがリードを引き継いだと公表し、ピアノをそのままの形で残す制作の方が良い結果になったのではないかと思いました。「because」そっくりなコーラスワークの再現に見られるAI技術は否定しませんが、肝心のミックスがイマイチです。器楽間の分離過剰がエンジニアのピント外れな誇示に感じますし、リスナーに訴える楽曲の中心とはそんな"成果"にはないのです。リンゴのドラムも変ですね。本来、あんな音してないでしょう。違和感満載です。曲もBeatlesの歴代ナンバーと比較して、それ程、良い曲とは思えず、レノンの「double fantasy」に収められて然るべき佳曲程度のものだと感じました。今回、ジョージのなぞるだけに終始した感の強いアコギの演奏が象徴するのはコラボになり得ない作業の限界であり、"4人が揃った"という無理な設定に拘泥する必要は必ずしも無かったと思います。Beatlesはこれまでもジョンとポールだけで録音されたトラック等、全員参加でない録音は少なからずあります。
何より重要なのは"ビートルズサウンドの創造"であった事をジョージマーチンは肝に銘じていたと思います。
更に残念なのは「now and then」のプロモビデオです。くどい程のベタなCGは狙ったというより、グループの一体感を表現仕切れなかった諦観の現れと見ます。
以上、「now and then/ Beatles」の個人的見解でした。

 


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