満月に聴く音楽

宮本隆の音楽活動(エレクトリックベース、時弦プロダクションなど)及び、新譜批評のサイト

小埜涼子(alto)+ 花輪嘉泰(tenor)+臼井康浩(gt) +宮本 隆(ba)+近藤久峰(ds)

2019-05-02 | 新規投稿
小埜涼子(alto)+ 花輪嘉泰(tenor)+臼井康浩(gt) +宮本 隆(ba)+近藤久峰(ds)



花輪嘉泰TRIO (花輪嘉泰tenor +宮本 隆ba+近藤久峰ds)で演奏した後、この日の対バンである小埜涼子(alto)+臼井康浩(gt)両氏と全員でセッションの運びとなる。私にとっては願ってもない小埜さんとの共演はスリリングな体験となった。実は私は小埜さんのソロアルバム「Undine」(2012)「Alternate Flash Heads」(2015)のコア・リスナーだった。
思い起こせば、それは私が時弦プロダクションとしてリリースを予定し大友良英氏をゲストに迎え録音を終えた磯端伸一氏のアルバム「existence」(2013)を制作中、磯端氏から「こんなジャケットにしてほしい」と言って見せられたのが小埜さんのCD「Undine」だった。磯端氏のリクエストはデザインの事ではなく「Undine」の紙ジャケデジパックというパッケージの仕様についての事だったのだが、予算の関係でプラケースを予定していた私は「えっ」と難色を示しながら、名前は知っていたが聴いたことがない小埜涼子氏「Undine」を何気にその場(カフェ、シェドューブル)で聴き始めた。
私は磯端氏と打ち合わせをしながら、流れてきた音楽に秘かに衝撃を受け、後日、「Undine」を購入して改めて聴き入り、その音楽に震撼したと言って大げさではなかった。高速に展開し場面が転換されていくジョン・ゾーンばりの演奏の断片化や、ELPのナンバーをテンポを上げて演奏する凄まじさもさることながら、私が最も関心を引いたのは、サックスそのものの音色であった。深みがあって美しい。そして強い中心性を感じさせる音の濃密さにテナーサックスの重量感に等しいものを感じていた。アルトサックス特有の浮遊感、不安感、切迫感(それが魅力の一つなのであろうが)を想起させるどこか天上の感覚とは違い、安定的な重心感覚こそを感知したのは、その目まぐるしく展開する音楽にも関わらず、聴いていて安心感の方が先行して感じられる事によっても示されていたと思う。それはよりフラグメント化されたセカンドアルバムである「Alternate Flash Heads」にも同様の感想を得たことでも判明する小埜さんの際立った特質なのかもしれない。音色に魅了される。この事程、演奏者にとって至高のことはないのではなかろうか。それは演奏するフォーマットやジャンルさえ、二義的なものにしてしまうだろう。

今回のセッションの冒頭からしばらく8分ほどの間、小埜さんはゆったりとした間隔をあけながら、一音、あるいは半音ずつ音を上昇させてゆく。即興演奏で私などは静から動へというある意味、常套パターンがまるで一つのスタイルのように想定しながら演奏するケースが多いような気がするが、あの時も初めての組み合わせになる5人はやはり、‘静かな場面’を最初、作っていたと思う。いきなり飛び出す者はおらず、手探りと相手を伺うという複数人数での即興演奏のファースト・シーンがあった。しかし、そんな見慣れた風景を鑑賞に堪えるものにしていたのは、小埜さんだったのではないか。一音ずつゆっくり上昇させてゆくフレーズに全体導かれ、テンポや激しさが徐々に増してゆく。従って無方向な混沌に陥るのを回避する事ができた。最後、近藤君の煽りに私が高速のリフで応え、小埜さんのフリーキートーンを中心に花輪、臼井両氏のノイズの断片が絡みつくようなオンビートな爆裂の場面となった。

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