満月に聴く音楽

宮本隆の音楽活動(エレクトリックベース、時弦プロダクションなど)及び、新譜批評のサイト

ROVO and System 7  「Phoenix Rising」

2014-05-09 | 新規投稿

 
system7の活動を軌道に乗せたスティーブヒレッジの再結成GONG(96年)への不参加に、当時、がっかりした記憶があったが、そんな<ギタリスト>を封印したスティーブヒレッジのテクノへの移行は音楽スタイルを現代に標準を併せ、GONGファミリーの中でその宇宙コンセプトをプログレッシブやサイケデリックという旧ジャンルに押しとどめる事なく、しなやかに変貌を遂げた唯一の姿であるとも思っていた。実際、体験したライブ(94年、orbitalとのジョイントライブ@心斎橋クアトロ)でも私はストレートに発汗したし、四つ打ちビートにあそこまで素直に身をゆだねるヒレッジの徹底ぶりに感動する始末で、確かにあの時、ギターは単なる発信器となっていた。左手のフィンガリングは殆どなかったと思う。ただ、ディレイのタイム感の気持ちよさは絶妙で音色もやたら美しく感じた事は覚えている。
対し、再結成GONGの物足りなさはスティーブヒレッジの不在によるボーカル過多というオーソドックスさ所以だったが、これは「YOU」的フォーマットである‘スペーシーなジャズロック’を期待しすぎる私の偏りが大きいとしても、やはりヒレッジがいるといないではバンドのトリップ的高揚感に差異が出ると思ったのは正直なところであり、新生GONGのいささか古風で中庸的なスタイルがヒレッジの変貌ぶりを肯定的に捉えていた私にとって鮮明な対比と映ったのである。

しかし、そんな私が想いを新たにしたのは99年に心斎橋クアトロで観たTrance Generationと命名されたジリスマイス、オーランドアレン、デビッドアレンのユニットのステージであった。文字通り、トランスなそのユニットはテクノビートにエレクトリックドラムを合体させたサウンドだったが、ジリスマイスの憑き物に囚われたかのようなハイテンションぶりに圧倒され、system7の専売特許を奪うようなそのハイビートな盛り上がりはすさまじかったのを覚えている。サウンドの鋭角な響きと老いたアレンとスミス両人のはしゃぎぶりはトランスの究極の姿だと思った。ここで‘トランス’とはヒレッジのみならずGONGファミリー全員の持つ従来の特質であったことが判明したのである。それはその日の前半アクトでクリスカトラー(ds)と硬派で従来型のジャズロックを演奏して、最後に「おおきに」と言って退場したヒューホッパー(b)ではとても追いつけない感性のなせる業であっただろう。
アレンを中心とするGONGファミリーにあってその音楽フォーマットは何か中心の核たるコンセプトを表現する文字通り、単なるジャンルなのであり、テクノもサイケロックもその内側に内包されるものでしかなかった。エレクトリックビートに乗って踊り狂いながらボイスを発すジリスマイスは正直、ヒレッジを超えたと思えるほどテクノを我が物にしていたのである。

そんなスティーブヒレッジが遂に参加したGONGのアルバム「2032」(09)には勝井祐二(vln)が参加していた。その経緯を私は詳しく知らないが、高音域で上昇する勝井サウンドはバンドのサウンドにマッチしていたと思う。そしてこの時期、既にROVOは80年代後半から開始された日本のプログレッシブシーン(勝手にそう呼んでいる)の完成形ともいえる音楽性と人気をも兼ねたスーパーグループであっただろう。その音楽性は同時代音楽の世界水準に於いても比するバンドが見当たらない程の実力だと思っている。そしておそらく「2032」が契機になったのであろう、スティーブSystem7と勝井ROVOが合体した。このマシンビートと人力テクノの融合はしかし何故かベストマッチのような形で現れたのだ。そうなのである。ROVOにおける2生ドラムとSystem7の打ちこみリズムの衝突という予想を持った私はもっと違和感を伴うような危うさやズレを生じるかのようなノリ、アクシデント的なグルーブをなかば期待したのも事実だったのだが、両者はもう最初から一緒にやっていたかのような、しなやかな一体感を出していたのである。芳垣安洋がROVOに於いてはダンスを前提とするビートの‘正確さ’を他のユニットでの演奏よりも強く意識してるのは間違いないと思われたが、それでもマシンに同期させる演奏を本当にやるのかという疑念も少なからず私にはあった。

アルバムを聴きこめば判明する事はROVOとSystem7がそれぞれを主体とした楽曲をセレクトし、リズムに関しては、主従の関係を持つ事によって、一体感を出しているのである。つまりSystem7のナンバーでは芳垣、岡部、両ドラマーはテクノビートに追随するような形態をとり、(ここでは特に岡部によるパーカッシブな演奏が効いているのだろう)ROVOナンバーに於いては従来のリズムを保持し、system7のバックビート的環境との融和を図る。あるいは場面転換によるリズムチェンジも行っている。そして‘なぜこれが!’と驚かされたジョンマクラフリン=マハヴィシュヌのカバーである「meeting of the spirits」ではもはやsystem7ではなく、ギタリスト、スティーブヒレッジとしてROVOに参加したような正統的ジャズロックフォーマットで原曲をリスペクトしたかのような忠実な再現をしているのである。正にギタリスト、スティーブヒレッジの復活と言ってもいいだろう。この曲ではROVOだけがリズムを担当する事によってかつてGONGが「YOU」で見せたような怒涛のリズムアプローチに近い感覚を有するトラックとなった。

個人的に一番、気に入ったのは初期からのナンバー「cisco」だが、オール新曲での次回作を望みたいところである。

2014.5.12

  
コメント
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