満月に聴く音楽

宮本隆の音楽活動(エレクトリックベース、時弦プロダクションなど)及び、新譜批評のサイト

              GONG 『2032』

2010-03-04 | 新規投稿


鳩山‘バーチュアル’由紀夫首相が「世界の人の命を救いたい」と宣った時、この人のアーティストとしての将来は約束された。このおよそ政治家とは思えない夢幻気質こそは、あらゆるアーティストのアーティストたる内的条件であり、夢幻気質の強弱は、表現のレベルを左右する最たる要素と言って良いのだから。更に「この世界から足を洗ったら農業をやりたい」というお言葉も、農業の過酷さを充分、判っていながら、敢えて軽口をたたく、そのシニカルなヒネリに於いて、また、‘足を洗う’という言葉は何か疾しい仕事やヤクザな生業などを辞める時に使うものであり、誉れ高くもあるが、汚い稼業でもある政治を示すにぴったりの言葉だという事を暗に主張する、その‘諧謔精神’に於いて、更に言えば、今現在、国内外の危機的な諸問題に対峙すべく‘強さ’が求められるはずの一国のリーダーが無防備にも引退後の身の処し方を呑気に談話するというその‘超現実性’に於いても、やはり、この人物は一級のアーティスト気質を持った‘選ばれた人’であろう事を感じずにはおられないのである。従って本人にとっては大金持ちの贅沢な道楽なのであろう政事(まつりごと)に飽きがくるのを待つのではなく、一刻も早く政界から引退していただき、何かしらの表現をその友愛の詩歌を持って始められん事を願うばかりである。私は鑑賞してみたい。この人の表現を。

さて、ロック界きっての夢幻3人衆と言えばジョンレノン、ジェリーガルシア、そしてデビッドアレンであろうか。アレンは今なお、サイケデリックやテクノシーンにも多大な影響を与え続ける現役アーティストでもある。

90年のGONG再結成時のまるでロンパールームのようなふざけたステージングを見た時、強力なサウンドと一体化した遊戯性とB級ファンタジーのような夢幻性の開放を思い知った。そこにヒッピーカルチャーの生き残りによる筋金入りのロックを見たのは事実である。その一見、安物くさいビジュアルが、思想、コンセプトの成熟や落ち着きを回避し、永遠のカウンターカルチャーたる精神に満ちている事、そして平和思想、そのメッセージが高踏的なスタンスではなく、ポップフィールドに於ける感覚的伝播、定着の方向性を持っている事も充分にイメージさせるものだった。あれはデビッドアレンの夢幻性がもはや、一つのリアリティを勝ち得て、この世に居場所を確保した勝利のプレゼンスだったであろう。サウンド面に於けるスティーブヒレッジ(g)の不在だけが惜しいなと感じた事を覚えている。

そのスティーブヒレッジ(g)が参加した『2032』はラジオグノーム3部作のラスト『YOU』(74)から連なる物語であり、これが本当の最終章となるのであろうか。ライナーに掲載された全曲の訳詞には戦争や環境というテーマにSFやファンタジーを交差させた夢幻世界、その現実へのまたしても強いメッセージがこめられている。ジャズロック愛好の性ゆえか、私にとって最初の1、2回、聴いた当初の印象、即ち、ドラムのタイトでシンプルな垂直8ビートが物足らないのと歌の比重が過多であるというマイナスの印象も5回、6回と聴くうちに段々、好転してきたのは、やはり、アレンの歌の魅力がインストウルメンタルの環境に左右される事なく、存在感が増してくる為か。思えばこのような印象の変化はこの何年かのGONG作品に共通のものだ。アレンの作るソングは聴けば聴くほど味が出る奥深さを持っている。しかも今回はヒレッジの参加によってサウンド、音響面での宇宙ぶりが増し、嘗ての70年代GONGを彷彿とさせる局面が多い。中でも10曲目「guitar zero」で聴かれるドローンミニマルフレーズにテクノに移行する以前の‘ギタリスト’ヒレッジの本領を見るし、‘never fight another war(もう戦争をするな)’というワンフレーズを延々と繰り返すミケットジローディのボイスにGONGの最良部分をアレンとともに補完する共同体的創作の復活を感じる。

デビッドアレンは奥深い歌を今作でも散りばめた。
夢幻性がネガティブの象徴として力感を伴わないなら、そこにジャズロックのテクニカルな外形をドッキングさせる事で、夢幻の物語性を強度ある娯楽作品に昇華できるはずだ。傑作『YOU』(74)とはそんなGONGミュージックの真髄であると感じていたのだが。しかし私はずっと以前、アレンが「みんな、上手くなりすぎた」と言ってグループを脱退、GONGは分裂し、ピエールモエルラン(ds)を軸としたピエールモエルランズゴングというインストバンドに変貌した経緯も知っている。私のような‘ジャズロック’のフォーマットに歓喜するリスナーはついつい、そんなインストサウンドのスリリングさを期待してしまうが、嘗て、そんな私も結局、フェイバリットは『YOU』ではなく、その前作である『angels egg』(73)であるという結論に至るまでに時間はかからなかった。『angels egg』の歌と器楽アンサンブルの配分、言葉の強調こそが、GONG=デビッドアレンの本領である。

回想すれば高校時代に発見して熱中した‘一大宇宙ジャズロック’アルバム『YOU』は同じヴァージンレーベルのtangerine dreamの『phaedra』(73)やMike oldfieldと同列に聴いた言わば幻想と瞑想のバックミュージックであり、その方向をベースにしながらロック/ポップのダイナミズムをも持ち合わせている特異性が私にとってのGONG理解だった気がする。従ってそのスペースサウンドの要たるティムブレイク(synthe)こそが重要なキーであった。そこでアレンはバンドの一ボーカリストであったか。そんな私がアレンの本領を認識したのはソロアルバム『now is the happiest time of your life』(77)を聴いた時である。このジョンレノンばりのlove & peaceの歌集はアレンの夢幻思想の中核的作品であり、自らをエイリアン的異邦人としながら、地球の崩壊、愛の不滅をメッセージするGONGのスタンスを端的に表わしていた。

アレンの夢幻性は独自のファンタジーソングを紡ぎだす。プログレッシブロックの構築性やサウンド志向はその夢幻を綾どり、生かす為の環境的背景であった。そしてそれはバランスが一方に傾けば、その夢幻性が損なわれる。果たしてハイテクドラマー、ピエールモエルラン亡き今、クリステイラーによるタイトなドラムサウンドがアレンの夢幻ワールドを際立たせるGONGのボトムとなっている。『2032』はその未来志向をも併せ持つGONG神話の不滅性を約束する新たな出発点となるアルバムであろう。デビッドアレン71歳、ジリスマイス(昔はギリスミスと訳されてたね)75歳。GONGはGONGであり続ける。74年も、2010年もGONGは何も変わっていないかのように存在した。恐らく2032年も。加えて私の感慨とは、時代や世界の変わりようの無さの方なのだ。GNOGはその変わらぬ世界の現実と共に、やはり、変わらず在り続けているのだ。

2010.3.4



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