満月に聴く音楽

宮本隆の音楽活動(エレクトリックベース、時弦プロダクションなど)及び、新譜批評のサイト

山本精一 『ギンガ』

2009-03-06 | 新規投稿

‘ヤバイきのこが車道の両サイドにあんなに生きてていいのか’
というタイトルの一項を読み進めても遂にキノコの話はでてこない。その内容は自らの日課だという‘素振り’についての口話である。「今となっては、なんでこんなことを始めたのか、そもそもなんのためにバットを振っているのか、そういうことも最早、まったくわからなくなっている」という文章がミュージシャンによって書かれる面白さ、意外さを私達は山本精一の数多の音楽や演奏から受ける感動と等しく納得できるのだと思う。

もう、12年ほど前の事だが、あるライブの打ち上げの席に、フリルやレースのついた乙女チックなコスプレのような格好をした太った女の子がいて、喋りまくっている。私は「この子は何なんや。誰の連れやねん。」と訝しがっていたのだが「そうや。山本に電話しよ」と言って電話をかけ始めたので、「山本?」と聞き返すと、それがあの我らのカリスマ、山本精一の事なのであった。その子は恐らく、ベアーズに出入りしているただの女の子だろうが、こんな変ちくりんな子の話し相手になるという山本精一という人は随分、気さくな性格の人なのかなと思った。
確かに山本精一氏はこれもだいぶ昔、見も知らずの私に対しても、ベアーズの階段で気さくに会話をしてくれた事があった。その時は、ある外国ミュージシャンとの競演の感想で、日本、ユダヤ同祖論がどうだとか、あれこれ話をトバしながら熱く面白く語っていた。そして羅針盤の事に話題が移ると、「そう、今日も練習やねん。あっ、もう、始まってるわ」と言って、出て行った事を覚えている。

そんな気さくな人柄を想起させるに充分な内容の『ギンガ』が出版されてもう10年も経つ。私はあまりの面白さに一気に読んだ事を思い出す。今回、そのオリジナルに48ページが増補された形でリニューアルされ、また、買ってしまった。

この人はフォローするのが面倒な位、たくさんのバンドをやっている。思い出波止場、ボアダムズはいずれも最強バンドと名高いが、うたモノの羅針盤を初めて観た時の意外性も、その後の拡散し続ける活動の幅広さを思えば、そんなものは序の口であった。今ではROVOのブレイクやMOSTやらPARAやら、もうきりがない。チャンネルの使い分けと言うよりも、最早、山本精一とは複数いるんじゃないかと思わせるほどだ。

『ギンガ』は山本精一の音楽観に通底するタイトルを戴いた銀河系読本。数多のバンドの共通点もやはり宇宙。この人はいつでもスペイシーだった。思い出波止場の全タイトルも再発だという。久しぶりに『金星』が聴きたくなった。

2009.3.6

コメント
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