満月に聴く音楽

宮本隆の音楽活動(エレクトリックベース、時弦プロダクションなど)及び、新譜批評のサイト

   DAEDELUS 『LOVE TO MAKE MUSIC TO』

2008-08-06 | 新規投稿

ロックやポップミュージックに対してハードエッジなスタイル革新を求めてしまう傾向はデイダラスの新作でライナーを書いている小野島大氏だけに留まらず、ニューウェーブ世代に共通する性のようなものか。私がプレフューズ73の新譜を毎回、買っているのも、そんな‘革新’を期待している事と無関係ではない。しかし買ったその新譜を毎回、売っているのはどういう事か。他にもトータスやバトルスといったポストロック勢への大いなる関心と、聴いた後にいつも感じる醒めた感慨とのギャップを私は自分で上手く、言い表すことができない。何回も繰り返し聴くまで至らない、その一時体験的な感覚はもしかしたら音楽ではなく、自分の聴き方の変化にこそ要因がある気もするのだが。

ロックのフォーマットが喪失した‘ロック的’革新が、多くのエレクトロニカに残存する事が、私のプレフューズ73等へのチェックにつながっているのだが、そのラディカリズムに全面的に感覚移入できないのは、年のせいや、感性の鈍化ではなく、ラディカリズムに対する飽食のせいかもしれない。デイダラスを初めて聴いたのは前作『denies the day’s demise』(05)だが、プレフューズに類似するエッジの効いたロック的音響の中に印象的なメロディが散りばめられている独自性に注目した。

デイダラスの音楽には独特のハッピー感覚がある。そんな‘多幸感’が爆発しているのが新作『LOVE TO MAKE MUSIC TO』だ。90年代初頭のイギリスでのレイブに影響を受けたというデイダラスは、その音楽様式以上に、レイブのナチュラルヴァイブレーションこそに感化されているのだと思うが、最も認められるべきは、そのソングライティングの才能だろう。このアメリカ西海岸のヒップホップ/サンプリングアーティストは、DJカルチャー以前の時期なら間違いなく作曲に対する才能を発揮したはずで、サンプリングを要しない楽曲本位の力を提示できることをイメージさせる音楽を創造している。一つ一つの曲を熟考し、練り込み、作り上げる、その職人気質からは音楽への愛情が感じられるし、楽曲の開放的な響きは他者との連帯願望を想起させるものだ。

『LOVE TO MAKE MUSIC TO』の各曲は、それぞれがコンパクトに編集されたものだが、その短さが惜しいほどのアイデアに満ちており、一つのモチーフからもっと長大な展開に発展させてもいいと感じさせる。そして全編に貫かれたハッピー感覚に私は、あの幸福教の教祖、キャプテンセンシブルと同類の世界を思い出した。

2008.8.6






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