満月に聴く音楽

宮本隆の音楽活動(エレクトリックベース、時弦プロダクションなど)及び、新譜批評のサイト

STEVE HILLAGE   『GREEN』

2007-12-04 | 新規投稿
      
LP で持っているものをCDで買い直す習慣は私にはない、と以前書いた。が、System7の新譜を買ったついでに手を出してしまったのは学生時代に聴き狂った大好きなLPのデジタルリマスターCD。ボーナス付きだし、LPは実家だしと自分に言い訳をする。紙ジャケ商売に荷担した己を悔いつつ久々に聴いたが、やはりSystem7よりインパクト強し。ああ。

70年代プログレ勢の中で90年代以降のシーンの中で特別な存在を示す事になったのはクリムゾンやマグマ、アレアではなく、GONGとCANだった。CANはパンク、ニューウェーブを経てクラウトロック、ポストロック等と称されるものを含んだ全ての先端的とされる音楽群に影を落とし、GONG はテクノやスペイシーな音響もの等の先祖と言うより、シーンの中核として現役の影響力を発信し続ける存在ですらある。
GONGの代表作『YOU』(74)を色んなテクノアーティストがリミックスした『you remixed』(97)から更に10年が経過し、レイブカルチャーはダンスからチルアウト、室内鑑賞エレクトロニカ、アンビエントへと拡散している。そこには確実に70年代プログレ、サイケデリックから連なる者としての意識があり、相変わらずGONGはその筆頭で崇拝を受けているようだ。<宇宙音響>を奏でた事でグループの未来は約束された。回顧の対象ではない普遍性を獲得したのだろう。その意味でGONGは今も現役である

GONGでその<宇宙音響>を担当したのは後にSystem7を始めるスティーブ・ヒレッジとミケット・ジローディではなくティムブレイク(synthesizer)だった。が、70年代中期以降、ヒレッジはソロ活動を活発化させ、『GREEN』(78)も一連のソロワークに位置される。これはSystem7によるテクノ期以前のプログレフォーマットでの活動期であり、ジャズロックやファンクの要素にギターシンセによる音響リフ、そしてティムブレイクの演奏の影響下にあると思われる<宇宙音響>を加味した作風であった。
ただ、ヒレッジ、ジローディのコンビが90年代以降の世代からリスペクトされる要因は、その<宇宙音響>の音楽技術的手法によるものではなく、人そのものが自由精神を備えた本物のサイケデリックカルチャーの持続的体現者である匂いを感知された本質が大きいと感じられる。ヒレッジはGONGのリーダー、デヴィッドアレン、ジリスミス(spacewhisper)に類似するアーティストだった。宇宙というイメージを表現するのではなく、存在自体が宇宙人のようであった。

<宇宙>を奏でる資質とは放浪精神やあらゆる引力に抗う自由の体現者だろうか。確かにデヴィッドアレンなどは故国を出てから無国籍の放浪者として世界を旅し、その徹底した自由主義を貫いている。アレンにあって音楽表現は瞑想に代わる自由獲得への秘儀であり、他者との連帯、友愛のシェアだ。サイケデリックは権力機構を拒み、或いはヒーピーイズムの敗北で現実には体制に組み込まれながらも、生活意識としての世界性、宇宙性が国籍や政府への帰属意識を勝ってはいるだろう。闘争ではなく時間軸への流浪を生き様にした旧ヒッピーの精神的自由度はその後のレイブカルチャーやインターネット時代になり、図らずも横の連帯志向として発露し、ゆっくりと社会変容へとつながっていると言えなくもない。<宇宙>を奏でる事は確かな変革、変容を用意したのだろう。
そこではやはり、強度が必要だ。本物が必要だ。アレンやヒレッジが演奏する<宇宙>はいわば内的宇宙と外的宇宙の合一性の表現だった。そこが安物SFまがいのプログレや疑似宇宙テクノなどとの違いだろう。

スティーブ・ヒレッジは『GREEN』でGONG時代の傑作『master builder(創造主)』をインストで再現している。これが素晴らしい。ジャズロックの熱さと現代的な中枢神経直結型の刺激快楽も既にある。テクノ感は充満していたのだ。早くから。サイケデリックの快楽を直角的なリズムと意識を攪乱させるような刺激音響、そしてフラワー思想溢れるメロディアスな優しさの均等的世界に求めていたのだろう。この時期、ヒレッジは見事なバランスなのではないか。

現在、ダンスのSystem7、チルアウトのMirror Systemとフォーマットを使い分け、もはやギターは70年代的象徴の遺物としか捉えないような姿勢のヒレッジ。と言えば悪く言い過ぎか。そんな事を考えてしまうほど、『GREEN』は懐かしく、しかも現在的な刺激、快楽に満ちていた。内袋も忠実に再現。ただしオリジナルLPには確か『緑反射』という意味不明だが、見事な邦題がついていた。それがこのCDではジャケ帯に『グリーン』と記されている。何とも味気ない。『緑反射』という奇妙なタイトルのサイケ感覚の方が音楽性を言い得て妙なのに。

2007.12.3

  
コメント
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