一匹の蟻がいた。その蟻は、必死に毎日を生きていた。
今日もその蟻は、女王の産んだこの餌となるものを探すべく、巣から外界へと飛び出した。そこにはいつもの光景が広がっていた。これが日常なのだと、蟻は気にせず進んだ。
道を歩いてしばらく。ようやく餌を見つけた。この大きさなら一匹でも運べると思った蟻は、これを一匹で運ぶことにした。しかしそこに、雨という壁が立ちはだかったのだ。
雨。それは蟻にとって時に致命的となる大きな壁である。濡れた蟻は自身の匂いを付けて記憶していた道を雨によって匂いがかき消され、巣まで帰れなくなってしまう事がある。
案の定雨に濡れてしまった蟻は、帰り道を失ってしまう。そしてその場でしばらく立ち往生したのだが、そこに通りかかったのが一人の人間。人間の子供だった。
その子供は蟻を見つめると、こう言ったのだ。
「ありさん、迷子?」
そう、蟻は今絶賛迷子中なのだ。それを悟ったのだろうか、一人の人間は自身の指を蟻に向けて伸ばした。
「おうちまで送ってあげる!」
その声は優しさと純情に満ちていた。一匹の蟻は餌のことも忘れてその指に乗り、巣へと帰ったのだ。
「はい! ありさん!」
何故巣が分かったのだろうか、そんな事を考える暇すらなく、蟻は巣へと入った。
巣に入るや否やすぐさま蟻を見つけた。その瞬間、巣にいた蟻が襲ってきたのだ。
そのまま応援も到着し、あっという間に数の暴力で殺されてしまった蟻は餌になることもなく、巣の中のゴミ箱に捨てられるのであった。