Sightsong

自縄自縛日記

エヴァン・パーカー+土取利行+ウィリアム・パーカー『The Flow of Spirit』

2018-11-03 10:55:28 | アヴァンギャルド・ジャズ

エヴァン・パーカー+土取利行+ウィリアム・パーカー『The Flow of Spirit』(立光学舎、2015年)を聴く。

Evan Parker (ts, ss)
Toshi Tsuchitori 土取利行 (ds, perc)
William Parker (b, gumbri)

2015年7月22日に草月ホールで行われたコンサートのCD化である。

このときウィリアム・パーカーの音があまり聴こえなかったことを不満に感じる人が少なくなかった。それは事実だが、エヴァン・パーカーに耳が吸い寄せられて聴き取る力が小さくなったこと、またウィリアム・パーカーの音を重戦車的にのみとらえる人がわりに多いことも、別の理由として挙げられる。後者についていえば、アフリカの弦楽器・グンブリよりもコントラバスを弾いてほしいという気持ちも観客の中にはあっただろう。しかし、ウィリアム・パーカーは単なる剛腕コントラバス奏者ではないし、本盤の2曲目におけるグンブリ演奏にも味わいがあるのだ。

1曲目はテナー、パーカッション、コントラバス。あらためて、三者一体となったサウンドに興奮を覚える。エヴァン・パーカーの突破力は若い日のものには及ばないのだが、その代わりに、ブルージーでもある味わいが得られている。そして2曲目が、グンブリとパーカッション、ソプラノ。ここでは土取さんの柔軟極まりないパルスがグンブリと混淆し、さらに広くて高い空間に大きな裂け目を入れるソプラノ。

とは言え、3曲目のコントラバスには脳がぐらぐらと揺さぶられ、やはりこれが聴きたいのだと思わせてくれる。パーカッションの推進力、テナーという太い筆によって描かれる絵。三者いずれかの音に気を取られていると、別の音が主役を奪いに攻めてくる。

4曲目は抑制気味にテナー、コントラバス、パーカッション。ここでもさまざまな音の貌を聴き取ることができる。

出してくれて良かった。

●エヴァン・パーカー
エヴァン・パーカー@稲毛Candy(2016年)
エヴァン・パーカー+高橋悠治@ホール・エッグファーム(2016年)
エヴァン・パーカー@スーパーデラックス(2016年)
エヴァン・パーカー、イクエ・モリ、シルヴィー・クルボアジェ、マーク・フェルドマン@Roulette(2015年)

Rocket Science変形版@The Stone(2015年)
エヴァン・パーカー US Electro-Acoustic Ensemble@The Stone(2015年)
シルヴィー・クルボアジェ+マーク・フェルドマン+エヴァン・パーカー+イクエ・モリ『Miller's Tale』、エヴァン・パーカー+シルヴィー・クルボアジェ『Either Or End』(2015年)
エヴァン・パーカー+土取利行+ウィリアム・パーカー(超フリージャズコンサートツアー)@草月ホール(2015年)
マット・マネリ+エヴァン・パーカー+ルシアン・バン『Sounding Tears』(2014年)
エヴァン・パーカー ElectroAcoustic Septet『Seven』(2014年)
エヴァン・パーカー+ジョン・エドワーズ+クリス・コルサーノ『The Hurrah』(2014年)
ジョン・エスクリート『Sound, Space and Structures』(2013年)
『Rocket Science』(2012年)
ペーター・ブロッツマンの映像『Soldier of the Road』(2011年)
ブッチ・モリス『Possible Universe / Conduction 192』(2010年)
エヴァン・パーカー+オッキュン・リー+ピーター・エヴァンス『The Bleeding Edge』(2010年)
ハン・ベニンク『Hazentijd』(2009年)
アレクサンダー・フォン・シュリッペンバッハ『ライヴ・イン・ベルリン』(2008年)
シュリッペンバッハ・トリオ『Gold is Where You Find It』(2008年)
エヴァン・パーカー+ノエル・アクショテ+ポール・ロジャース+マーク・サンダース『Somewhere Bi-Lingual』、『Paris 1997』(1997年)
エヴァン・パーカー+ネッド・ローゼンバーグ『Monkey Puzzle』(1997年)
エヴァン・パーカー+吉沢元治『Two Chaps』(1996年)
サインホ・ナムチラックとサックスとのデュオ(1992-96年)
ペーター・コヴァルトのソロ、デュオ(1981-98年)
スティーヴ・レイシー+エヴァン・パーカー『Chirps』(1985年)
エヴァン・パーカー『残像』(1982年)
シュリッペンバッハ・トリオ『Detto Fra Di Noi / Live in Pisa 1981』(1981年)
カンパニー『Fables』(1980年)
シュリッペンバッハ・トリオ『First Recordings』(1972年)

●土取利行
エヴァン・パーカー+土取利行+ウィリアム・パーカー(超フリージャズコンサートツアー)@草月ホール(2015年)

●ウィリアム・パーカー
ウィリアム・パーカー@スーパーデラックス(2018年)
ダニエル・カーター+ウィリアム・パーカー+マシュー・シップ『Seraphic Light』(JazzTokyo)(2017年)
スティーヴ・スウェル・トリオ@Children's Magical Garden(2017年)
ウィリアム・パーカー+クーパー・ムーア@Children's Magical Garden(2017年)
スティーヴ・スウェル『Soul Travelers』(2016年)
エヴァン・パーカー+土取利行+ウィリアム・パーカー(超フリージャズコンサートツアー)@草月ホール(2015年)
イロウピング・ウィズ・ザ・サン『Counteract This Turmoil Like Trees And Birds』(2015年)
トニー・マラビー『Adobe』、『Somos Agua』(2003、2013年)
ウィリアム・パーカー『Live in Wroclove』(2012年)
ウィリアム・パーカー『Essence of Ellington / Live in Milano』(2012年)
Farmers by Nature『Love and Ghosts』(2011年)
ウィリアム・パーカー『Uncle Joe's Spirit House』(2010年)
DJスプーキー+マシュー・シップの映像(2009年)
アンダース・ガーノルド『Live at Glenn Miller Cafe』(2008年)
ブラクストン、グレイヴス、パーカー『Beyond Quantum』(2008年)
ウィリアム・パーカー『Alphaville Suite』(2007年)
ウィリアム・パーカーのカーティス・メイフィールド集(2007年)
ロブ・ブラウン『Crown Trunk Root Funk』(2007年)
ダニエル・カーター『The Dream』、ウィリアム・パーカー『Fractured Dimensions』(2006、2003年)
ウィリアム・パーカー、オルイェミ・トーマス、ジョー・マクフィーら『Spiritworld』(2005年)
ウィリアム・パーカー『Luc's Lantern』(2005年)
By Any Means『Live at Crescendo』、チャールズ・ゲイル『Kingdom Come』(1994、2007年)
ウィリアム・パーカーのベースの多様な色(1994、2004年)
Vision Festivalの映像『Vision Vol.3』(2003年)
ESPの映像、『INSIDE OUT IN THE OPEN』(2001年)
ペーター・コヴァルト+ローレンス・プティ・ジューヴェ『Off The Road』(2000年)
アレン/ドレイク/ジョーダン/パーカー/シルヴァ『The All-Star Game』(2000年)
ウィリアム・パーカー『... and William Danced』(2000年)
ザ・フィール・トリオ『Looking (Berlin Version)』
エバ・ヤーン『Rising Tones Cross』(1985年)
ウェイン・ホーヴィッツ+ブッチ・モリス+ウィリアム・パーカー『Some Order, Long Understood』(1982年)
『生活向上委員会ニューヨーク支部』(1975年) 


高田ひろ子+安ヵ川大樹@川崎ぴあにしも

2018-11-03 09:15:12 | アヴァンギャルド・ジャズ

川崎のぴあにしも(2018/11/2)。

Hiroko Takada 高田ひろ子 (p)
Daiki Yasukagawa 安ヵ川大樹 (b)

このふたりのデュオを観るのは2度目である。本八幡のcooljojoでは気持ちよく広い空間を活かしての響きが印象的であったのに対し、今回は、狭い空間での親密な音を愉しむことができた。

ファーストセット。「The Deep Valley」(安ヵ川)では、ふわりと空中に浮かんで鍵盤に触るような繊細さがあった。単に軽いということではなく、音符間が相互に柔らかく引き寄せられている。続くグレゴリオ聖歌では、ジャズとは異なるテンポを演奏の中で自在にまたがる鮮やかさがあった。

3曲目は、何と、ミラン・クンデラ『存在の耐えられない軽さ』をモチーフにした「Es Muss Sein」(それはそうでなければならない)。ヴォーカルのNORiCO.sさんと米国のTaroさんが作詞し、高田さんが作曲するコラボレーション作品だという。クンデラの作品が常にそうであるように、ピアノとベースという登場人物がくるくると円舞のような物語を繰り広げた。互いの音の出し引きと絡み合いが不思議で気持ちいい。

「青紫陽花」(高田)では、色を積み重ねるがごとき雰囲気。そして「カケロマ」(安ヵ川)ではアルコが美しくも転調を繰り返し、それに力をもらったようにピアノも歌をうたう。安ヵ川さんのピチカートでは、裏声のような高音も聴こえてきた。これを聴くと加計呂麻島に行ってみたくなる。

セカンドセットはリラックスした「A Tree of Life」(安ヵ川)から始まった。「赤紫陽花」(高田)は「青」と同様に音風景が色として見えてくる新曲であり、これから演奏によって赤くもなっていくのかと思った。続いては聖歌「やすかれわがこころよ」、ここでも安寧感が得られる。

ここからスタンダードが2曲。「Stella by Starlight」では、ピアノのイントロのあとに安ヵ川さんが入り、しばらくためたあとにノリに持っていく展開が見事。「The Nearness of You」では、ここにきて野太いアルコに驚かされる。ピアノがその中に光を撒いていった。アンコールは、文字取り愉しい「Joy」(安ヵ川)。

一音一音の迫力や突破力で攻めるのではなく、細やかで柔らかい音の並びで独特の世界を作っていくデュオといったところだろうか。録音したばかりだというCDを聴くのが楽しみである。

Fuji X-E2、7artisans 12mmF2.8、XF60mmF2.4

●高田ひろ子
有明のぶ子+高田ひろ子+桜井郁雄@本八幡cooljojo(2018年)
高田ひろ子+廣木光一@本八幡cooljojo(2017年)
安ヵ川大樹+高田ひろ子@本八幡Cooljojo(2016年)
高田ひろ子+津村和彦『Blue in Green』(2008年)

●安ヵ川大樹
安ヵ川大樹+高田ひろ子@本八幡Cooljojo(2016年)
安ヵ川大樹+廣木光一@本八幡Cooljojo(2016年)
安ヵ川大樹『神舞』(2012年)