Sightsong

自縄自縛日記

アレクサンダー・フォン・シュリッペンバッハ『ライヴ・イン・ベルリン』

2010-04-18 22:00:46 | アヴァンギャルド・ジャズ

アレクサンダー・フォン・シュリッペンバッハが、ピアノソロ、トリオ、グローブ・ユニティと3種類の編成で行ったライヴ(2008年、ベルリン)が、『ライヴ・イン・ベルリン』(jazzwerkstatt)と題された映像となって出ている。なかなか感涙ものである。

ピアノソロは4曲。抒情を排したようなインプロヴィゼーションが硬く響く。乗ってくると、口の中で舌を左右に高速で動かすのが彼の癖だ。

エヴァン・パーカー(サックス)、パウル・ローフェンス(ドラムス)とのトリオも4曲。これが観たかった。それぞれの演奏は観たことがあるものの、シュリッペンバッハ・トリオとしての演奏はまだ目の当たりにしたことがないのだ。90年代後半に来日したとき、いまはない六本木ロマーニッシェス・カフェに出かけたら、パーカーのかわりにバスクラを持ったルディ・マハールがいた。妻の手術で来られなくなったとのメッセージがあった。そして、サックス・ソロやエレクトロ・アコースティック・アンサンブル(これはあまり好きになれない)などでのパーカーを観たときは、唖然とさせられた。

この映像での演奏はやはり凄い。パーカーは得意の循環呼吸奏法のみならず、小鳥のような声から金属音までを音塊として吐き続ける。ローフェンスのドラミングはヴァイタルなだけではなくとても多彩で、「Amorpha」ではシンバルをパルスのように響かせるサニー・マレイのようなアプローチさえ見せる。ぜひいつか、この長寿グループを実際に観たいものだ。

最後に、47分強のグローブ・ユニティによる演奏がある。メンバーには、ゲルト・デュデック(サックス)、ポール・リットン(ドラムス)、マンフレッド・ショーフ(トランペット)らの古参も、ルディ・マハール(バスクラ)、アクセル・ドゥナー(トランペット)らの若手もいる。この総勢14名が、微妙に円を描くようにステージ中央を向き、コレクティヴ・インプロヴィゼーションを繰り広げる。

順次プレイヤーが前に出ると、各人がこれでもかと言わんばかりに吐きだした結果としての音圧が弱まり、ソロ演奏が聴こえるようになる。その間隙で、個々のプレイヤーが自分というものを提示する。やがて周囲の音圧は強まっていき、音は集団のものと化す。

最初はルディ・マハールである。長身をくねくねと曲げてはバスクラらしからぬハイテクな音を繰り出す。マンフレッド・ショーフは場違いに堂々とロングトーンを吹き始め、そこにマハールの奇妙な音が混じると笑ってしまう。ヨハネス・バウアーのトロンボーンは踊るようでも茶化すようでもある(いつだったか、ペーター・ブロッツマンとのデュオを観たが、奇妙にマッチするのだった)。アクセル・ドゥナーはトロンボーンのようなU字管が付いたトランペットで、異常なほどに存在感のある擦音を披露する。ゲルト・デュデックの魅力が何なのか未だに判然としないが、これはこれで良い。

個性と集団とがせめぎあい、かつ、矛盾するようだが、協調している。素晴らしいグループである。

DVDの解説には、シュリッペンバッハへのインタビューが掲載されていて、これがまた面白い。インタビュアーが「アドルノはジャズに否定的だった」などと挑発するのがヨーロッパ的(?)ではあるが、シュリッペンバッハの答えは一貫して「ジャズは自由だ」なのだ!

●参照
シュリッペンバッハ・トリオの新作、『黄金はあなたが見つけるところだ』
『失望』の新作(ルディ・マハール、アクセル・ドゥナー)
アクセル・ドゥナー + 今井和雄 + 井野信義 + 田中徳崇 『rostbeständige Zeit』
リー・コニッツ+ルディ・マハール『俳句』


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