Sightsong

自縄自縛日記

ネッド・ローゼンバーグの音って無機質だよな

2011-01-08 14:52:01 | アヴァンギャルド・ジャズ

徐京植『ディアスポラ紀行 ―追放された者のまなざし―』を読んだときに、ネッド・ローゼンバーグ『Inner Diaspora』(TZADIK、2007年)のことを思い出して棚から出した。ダジャレではない。ネッドもユダヤ人、その彼がジョン・ゾーンに声をかけられて、クレズマー音階などの作品に取り組んだ記録である。

「Sync」というグループは、ネッドのクラリネット、バスクラリネット、尺八、アルトサックスに、ジェローム・ハリスのベースギター、さらにはタブラ、ヴァイオリン、チェロが入る、変則「ウィズ・ストリングス」である。

ネッドもかなり「内的なディアスポラ」、すなわちユダヤ性という閉鎖性からの脱出を意識していて、ここに寄せられた文章にも、仏教との融合だのクロスボーダーだのといったことが書かれている。実際に音楽は平板なものではなく、弦楽器による哀愁としか言いようのないクレズマーに、ネッドの自在な管楽器が絡んでいく。ジェローム・ハリスの存在がかなり効いていて、現代の音楽であることを示し続ける。

それにしても、前から思っていたことではあるが、ネッドの音色は人工的ではないのだが無機質というか、音を奏でる甲殻類を思わせるものがある。つまりそれだけではあまり魅力的ではなく、他の盤をあらためて聴いてみても印象は変わらないのだ。

たとえば、サックスの循環呼吸奏法を用いる者同士のデュオ、エヴァン・パーカー+ネッド・ローゼンバーグ『Monkey Puzzle』(Leo Records、1997年)。エヴァンはソプラノとテナー、ネッドはバスクラとアルトであり、どれを聴いても違いが明らかだ。エヴァンはテナーでもソプラノでも、クリシェと言っても手癖と言ってもいいかも知れないが、ロマンチックな音がそこかしこに現れ、こちらをドキドキさせる。無機質なネッドはここでは引き立て役だ。

ところで、このジャケットのクロスワードパズルの問題が裏面にあって、解いてLeo Recordsに送ったら未収録CD-Rをプレゼントなどと書いてあった。当時送ろうかと思って面倒になってやめた。勿論〆切はとうに過ぎてしまっている。出せばよかった。

サインホ+ネッド・ローゼンバーグ『Amulet』(Leo Records、1996年)は素晴らしい共演の記録ではあるが、サインホ・ナムチラックとサックスとのデュオという点で比べれば、姜泰煥との作品(『LIVE』)や、エヴァン・パーカーとの作品(『Mars Song』)の方が情念に溢れ、ウェットである。この盤の中では、12曲目の「Low & Away」におけるサインホの倍音、甲高い音が凄まじい。

発表当時、六本木にあったロマニシェス・カフェにサインホとネッドとのデュオを聴きに行った。サインを貰おうとジャケットを見せたところ、これは印刷が悪くて新しいものにした、取りかえるが?と言われ、何となくそのままにした。現行版はイラストがこんなピクセルの集合体ではなく、もっとなめらかである。従って少しレアである。


ネッドとサインホのサイン

●参照
サインホ・ナムチラックの映像(大友良英+サインホ)
TriO+サインホ・ナムチラック『Forgotton Streets of St. Petersburg』
姜泰煥+サインホ・ナムチラック『Live』


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2 コメント

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Unknown (ballroom_five)
2011-01-09 00:48:08
ネッド・ローゼンバーグをはじめてCDで聴いたのは佐藤允彦、高田みどり、カン・テーファンのトンクラミとの共演盤でした。そのときはローゼンバーグよりはむしろカンの演奏がとても気になりその後カンのCDを集めたりライヴにも2度ですが足を運びました。一度はサインホとのデュオでした。サインホのアルバムはいくつか聴きましたがカンとのデュオが一番好きです。ネッド・ローゼンバーグをあらためて見直したのはトーマス・チェイピン(この人の早逝は本当に惜しい)とのDouble Bandの「Overlays」です。やはりジェローム・ハリスを含むエレクトリック・ダブル・サックストリオ(ドラム二台にエレクトリックベース二本)はある意味でポップですらあるのですがとても楽しく聴きました。Tzadikでのアルバムも聴いてみたいと思います。
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Unknown (Sightsong)
2011-01-09 06:37:29
ballroom_fiveさん
そうでした、『トン・クラミ』がありました。自分にとっても姜泰煥が衝撃でした。
チェイピンとの双頭バンドがあったのですか、エレクトリックベース2本でポップというのも興味津津です。探します。
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