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自縄自縛日記

鳥羽耕史『安部公房 消しゴムで書く』

2024-08-29 23:44:30 | 思想・文学

鳥羽耕史『安部公房 消しゴムで書く』(ミネルヴァ書房、2024年)。

著者の『運動体・安部公房』(一葉社、2007年)は、安部が共産党と相容れなかったこと、かれの写真にも共通する小説世界の展開は外の政治状況にコミットしないという決意表明でもあったことをあぶり出し、とてもおもしろいものだった。「運動体」ということばを拙著のサブタイトルに使ったほどだ。

本書は包括的な評伝だからそのように特定の視点でのみ分析したものではない。だが、やはりあちこちに発見がある。細かいことでいえば、たとえば、歌舞伎町のナルシスに安部や勅使河原宏や開高健も訪れていたということ(夕子ママのお母さんの時代だろうな)。それから堤清二を通じて西武・セゾンから支援をずっと受けていたということ。セゾン文化と安部公房とのつながりなんて考えなかった。

そして、前からちょっと気になっていたことだけれど、他者の想像力に作品を委ねないこと。新潮文庫版『笑う月』の尾辻克彦(赤瀬川原平)による解説が気に入らず、再版からは解説を外したそうである。自分の作品が触手を伸ばす領域は自分以外に決められたくなかったということか。それは安部公房の価値をいささかも減じるものではなく、むしろ安部らしいように思える。

●安部公房
『「前衛」写真の精神:なんでもないものの変容 瀧口修造・阿部展也・大辻清司・牛腸茂雄』@松濤美術館
鳥羽耕史『運動体・安部公房』
2014年2月15日、安部公房邸
安部公房『(霊媒の話より)題未定』
安部公房『方舟さくら丸』再読
安部公房『密会』再読
安部公房の写真集
友田義行『戦後前衛映画と文学 安部公房×勅使河原宏』
山口果林『安部公房とわたし』
安部ヨリミ『スフィンクスは笑う』
勅使河原宏『燃えつきた地図』
勅使河原宏『おとし穴』


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