Sightsong

自縄自縛日記

マレウレウ『cikapuni』、『もっといて、ひっそりね。』

2016-04-09 10:13:42 | 北海道

マレウレウ『cikapuni』(Chikar Studio、2016年)を聴く。

MAREWREW:
Rekpo
Kawamura Hisae
Mayun Kiki
Rim Rim

マレウレウは、アイヌの伝統歌ウポポを歌う女性コーラスグループ。このアルバムは、2010年に出したアルバムの曲を中心に再録したものだということだ。わたしは去年マレウレウの存在を知ったばかりなので、こうして聴くチャンスが増えるのはとても嬉しい。

彼女たちは、自ら同じリズムでの手拍子を取りながら、シンプルでいて複雑なコーラスを聴かせてくれる。ひとりが基底音となりながら、別の者が他の文脈を持ち込んできて、その複層的な歌を展開する。歌詞はまったく解らないながら、朦朧とする。

『もっといて、ひっそりね。』(Chikar Studio、2012年)は、この4人に加え、OKIがトンコリやムックリの演奏も行い、よりカラフルな音楽だった。歌は、舟漕ぎとか、再会とか、雪解けとか、鯨やシャチとか、物語性が具体的で、聴いていると想像が膨らんでいく。

プリミティヴで聴いているとどこかに連れていかれる『cikapuni』と、親しみやすい『もっといて、ひっそりね。』のどちらも好きである。

●参照
MAREWREW, IKABE & OKI@錦糸公園(2015年)
OKI DUB AINU BAND『UTARHYTHM』(2016年)
OKI meets 大城美佐子『北と南』(2012年)
新大久保のアイヌ料理店「ハルコロ」
上原善広『被差別のグルメ』
モンゴルの口琴 


エヴァン・パーカー@スーパーデラックス

2016-04-09 08:05:04 | アヴァンギャルド・ジャズ

昨年に続きエヴァン・パーカーの来日。六本木のスーパーデラックスに足を運んだ(2016/4/8)。大阪や金沢でのパフォーマンスの評判をSNSで見て、期待が高まっていた。

Evan Parker (ss, ts)
Joel Ryan (sample and signal processing)
Mari Kimura 木村まり (vln)
Ko Ishikawa 石川高 (笙)

ファーストセット(エヴァン・パーカー+ジョエル・ライアン)。パーカーがややかすれた音でソプラノの循環呼吸奏法をはじめる。やがてジョエル・ライアンが参入、過ぎ去ったばかりの、あるいはリアルタイムのパーカーの音を用いて別の存在を産み出す。パーカーはふたりとなり、3人となり、分身したパーカーたちがまるで天使のように飛翔し、ハコは鳥小屋となった。分身はさまざまな声を生み出し、また、電気的なイマージュとも化し、オーヴァーヒートさえもした。

セカンドセット、その1(石川高+ジョエル・ライアン)。石川高の笙が透き通ったオルガンのように美しい音を発し、同時に、ライアンがニューエイジかと言いたくなるようなアウラをハコ全体に発生させる。何がどの音か、それは隙間でわかる。

セカンドセット、その2(木村まり+ジョエル・ライアン)。木村まりのヴァイオリンは遊ぶように、咳でもするように短い擦音を発し、ライアンがそれを受けて、時にハウルも生成。木村まりは驚いた顔を見せるが、ふたりとも明らかに愉しんでいる。死を予感させるようなヴァイオリンの旋律も印象的だった。

サードセット(カルテット)。パーカーはテナーで参加し、ソプラノとは違い重力を感じさせる微分的な音は、木村まりのヴァイオリンと驚くほどの親和性を示した。かれらの音が途絶えた時どきに、その残響の中で、ライアンと石川高の存在がまた浮かび上がる。やがて全員による音の波濤が来る。それは荒々しく、ハコを震わせるほどの轟音でありながら、まったく濁っておらず、やはり残響に石川高の立ちのぼるあまりにも美しい音。

サードセット、アンコール(カルテット)。パーカーはソプラノに持ち替えた。木村まりのヴァイオリンが、ドアがきしみながら開くような音を発し、パーカー、石川高、ライアンが透明な多数の層を積み重ねてゆく。そして会場が音に呑まれてきたとたんに演奏が終わった。

パーカーのギグを観るのはこれで8回目だが、これまでに体験したことのない鮮烈なセッションだった。ライアンをキーマンとした、地下空間との共犯的な音の群れでもあった。

●エヴァン・パーカー
エヴァン・パーカー、イクエ・モリ、シルヴィー・クルボアジェ、マーク・フェルドマン@Roulette(2015年)
Rocket Science変形版@The Stone(2015年)
エヴァン・パーカー US Electro-Acoustic Ensemble@The Stone(2015年)
エヴァン・パーカー+土取利行+ウィリアム・パーカー(超フリージャズコンサートツアー)@草月ホール(2015年)
エヴァン・パーカー ElectroAcoustic Septet『Seven』(2014年)
ジョン・エスクリート『Sound, Space and Structures』(2013年)
『Rocket Science』(2012年)
ペーター・ブロッツマンの映像『Soldier of the Road』(2011年)
ブッチ・モリス『Possible Universe / Conduction 192』(2010年)
エヴァン・パーカー+オッキュン・リー+ピーター・エヴァンス『The Bleeding Edge』(2010年)
ハン・ベニンク『Hazentijd』(2009年)
アレクサンダー・フォン・シュリッペンバッハ『ライヴ・イン・ベルリン』(2008年)
シュリッペンバッハ・トリオ『Gold is Where You Find It』(2008年)
エヴァン・パーカー+ネッド・ローゼンバーグ『Monkey Puzzle』(1997年)
エヴァン・パーカー+吉沢元治『Two Chaps』(1996年)
ペーター・コヴァルトのソロ、デュオ(1981-98年)
スティーヴ・レイシー+エヴァン・パーカー『Chirps』
シュリッペンバッハ・トリオ『Detto Fra Di Noi / Live in Pisa 1981』(1981年)
シュリッペンバッハ・トリオ『First Recordings』(1972年)