鮎川俊介の「幕末・明治の日本を歩く」

渡辺崋山や中江兆民を中心に、幕末・明治の日本を旅行記や古写真、研究書などをもとにして歩き、その取材旅行の報告を行います。

2013年・夏の取材旅行「水沢~気仙沼~宮古」  その11

2013-09-18 05:37:55 | Weblog
吉村さんは、津波による被害を受けた現場を直接見たわけではありません。たまたま友人の勧めで訪れた三陸海岸で、異様に高い防潮堤を目にしたり、その地に住む人たちから過去の大津波のことを聞いたりすることにより、三陸海岸を襲った大津波というものに関心を持ち、仙台方面から青森方面までの三陸沿岸を約一ヶ月間にわたる一人旅をして、津波の体験者の回想を求めて歩き回って、『海の壁』(後に『三陸海岸大津波』に改題)をまとめ上げていったのです。その時、吉村さんは46歳。吉村さんはその旅を回想して次のように記しています。「その調査の旅をした頃、私はまだ十分に若く、元気で、一カ月近く町から村へとたどる旅はいっこうに苦にならなかった。今あらためて読み返してみると、その調査の眼が四方八方に十分にのびていて、自分で言うのはおかしいが、満足すべきものだったという思いがある。」 「調査の旅」が満足すべきものであったということであるとともに、作品自体も満足すべきものである、ということでしょう。「調査の眼が四方八方に十分にのびて」いたからこそ、満足すべき作品に仕上がったということです。ここには「吉村記録文学」の真骨頂が示されています。1ヶ月近くに及んだ46歳の時の三陸沿岸調査旅行を中心に、この一つの作品が生みだされるのに、どれほどの聞き取り調査や資料探索が綿密・丹念に行われているか、ということです。 . . . 本文を読む