虫たちがうごめく様や、何かがもぞもぞと動くことを蠢動(しゅんどう)と言うようですが、
「もぞもぞと動く」という語感がぴったしなのがこの虫です。
蟻だか蜂だか、はたまたハネカクシの仲間なのか判らないような姿をしていますが、その何れでもありません。
名前はツチハンミョウ(土斑猫)で、甲虫目・ツチハンミョウ科に属する昆虫です。
名前にハンミョウと付きますが、あの「道教え」と呼ばれる美しいハンミョウ(ナミハンミョウ)や、敏捷な
動きで狩りをするニワハンミョウとはかなり縁遠い種類の昆虫です。
春になると、広葉樹林の積もった落葉の間から姿を現わしますが、見かけは光沢があって固そうに見えているものの
ぶよぶよの柔らかい体、それに体とは不釣り合いな貧弱で細い脚、ハンミョウとは似ても似つかぬ鈍重な
動きで辺りを這いずりまわっています。
まあよくもこんなに鈍い動作で、弱肉強食の昆虫界の中で生き延びられるものだと思われますが、こんな種類の
昆虫の防御策と言えば、先ず第一に考えられるのが「死んだふり」です。
昔の話ですが、営業会議などで、自分に攻撃の矛先が向けられそうになった時などの防御手段として?
私もよく使った手ですが(笑)
ツチハンミョウも敵に襲われるとこの手を使いますが、この際に脚の付け根あたりの分泌腺から
致死量、僅か30mgという有毒物質カンタリジンを含む体液を分泌します。
もちろん、人がこの虫を食べる訳ではありませんが皮膚の柔らかい部分に、この体液が付着すると
水疱などの症状を伴った激しい皮膚炎を起こすので不用意に素手で捕まえるのは
避けたほうがいいでしょう。君子、危うきに近寄らずです。
ツチハンミョウの雌は、この時期に昆虫としては桁外れとも思える大量の産卵を行い、その数が
4,000~6,000個とも言われます。
羽化した1齢幼虫はアザミなどの花によじ登って、吸蜜に訪れる雌のハナバチを待機し、体毛などに取り付いて
巣への侵入を果たします。
侵入に成功した1齢幼虫は、ハナバチの卵や花粉などを食べながら、何度か変態を繰り返して
成虫に育ちますが、これほど多くの産卵をしながらも個体数がそれほど多くないのは、この特殊な
繁殖形態によるものでしょう。
首尾よく、ハナバチの雌に取り付ければいいのですが、他の昆虫に間違って取り付いた者は
死ぬより他に道はありません。
のんびりと地面を這っているようでも、生きることの厳しさは、ここでも変わりなさそうですね。