しろくま日記

読んだ本の感想を記録してみたいと思います。
なんだか忘れてしまうので。

広重殺人事件 高橋克彦著 講談社文庫

2017-04-02 | 日本ミステリ
写楽殺人事件」「北斎殺人事件」に続く浮世絵三部作完結編です。
「北斎殺人事件」の三年後1989年6月発刊、私が大学2年生の時に発刊されています。

これまた単行本が出てすぐに買って読んだ記憶があります。
後述しますがいきなり「びっくりな展開」でその上での「まさかの展開」のため若干引いたような記憶はあります…。

今回も携帯性を考え文庫で買いなおしたものを読みました。(ブックオフ)


余談ですが「広重」私が学生の頃までは(この本でも)「安藤広重」が一般的だった気がしますが今は「歌川広重」が一般的なんですね。
永谷園のお茶漬けの付録に「東海道五十三次カード」が復活していたので、眺めていたら気づきました。

中学生の息子に確認したら教科書も「歌川広重」ということになっているようです。
時代時代で呼び名も変わるんですね….。
「安藤」は本名「広重」は浮世絵師としての号なので浮世絵師としては歌川広重が正しいことから来ているようです。

「歌川」だと本書にちらっとでていた「安藤広重、天童広重まぎらわしい」というような話が通らないので何やらさびしい...。(笑)

内容紹介(裏表紙記載)
広重は幕府に暗殺された? 若い浮世絵学者津田良平が“天童広重”発見をもとに立てた説は、ある画商を通して世に出た。だが津田は、愛妻冴子のあとを追って崖下に身を投げてしまう。彼の死に謎を感じた塔馬双太郎が、調べてたどりついた意外な哀しい真相とは? 深い感動の中で浮世絵推理三部作ついに完結!


「北斎殺人事件」でも書きましたが、「高橋克彦」は基本的に「推理小説家」じゃないんだろうなぁというのをあらためて感じました。

「北斎殺人事件」は伝奇小説が入っていましたが今回はホラー・ファンタジー…というか民話的運命論のような要素が入っています。

いきなり主人公津田良平の妻冴子が自殺してしまう場面から入るわけですが、自殺の場面も冴子の亡兄国分が呼びに来ています…。
もはや推理小説ではないような…。

主人公津田良平の方も自殺してしまうわけですが、これまたどんなものかという理由(自殺の理由はわかりますが、自殺に至ることをやった動機がどうも…)ですし….。
「運命論」やらなにやら独特な倫理論で作中人物を殺してしまうのもどうかと…。

ただ推理小説としてはどうかなぁと思いますが小説としてはこなれていて楽しめます。
偽画を見破る場面などは「なるほどー」と思わせるもので、天童あたりが紅花の産地だったことも併せて「うまいなー」と思いました。

探偵役としては前作から登場の塔馬双太郎がこれまた「マッチョ」に解決していくわけですが、「弱い」ながらも繊細な津田良平の「才気」を立てる発言を書いてはいますが、結局マッチョじゃなければ問題は解決できないし生きていけないという展開に感じてしまい「こんな一面的世界観はどんなもんかなぁ…」との思ってしまいました。

これまた前作でも登場していた敵役の画商 島崎もマッチョなキャラで悪役ながらも抜け目なくどこかにくめなく「タフな男」という感じのキャラに書かれていて、より津田良平の弱さが目立つ展開でした。

まじめで繊細な人間はマッチョな人間にかなわないんでしょうかねぇ…。
本作の世界観どうにも受け入れにくかったです。

あくまで推測ですが著者は処女作で出した「津田良平」のことを作家歴が進むにつれて扱いに困っていたのではないでしょうか?

繊細な人間が活躍する作風ではなくなっているような気がしますし(それほど多く高橋克彦作品読んだわけではないですが)邪魔になって本作で「殺し」てしまったのではなどと思わせるほど可哀想な扱いです…。

とけなしているようですが、前述のとおり「小説」としては処女作と比べこなれていてく楽しく読める作品ではあり、本作でも天童での広重の謎探索行なかなか楽しめました。
「写楽殺人事件」での秋田蘭画探索行、「北斎殺人事件」での小布施探索行と併せこの三部作共通で地方での探索行の描写、秀逸です。

塔馬双太郎、編集者の杉原、津田のいとこの真蒼女史との珍道中ぶり楽しめました。
本来主人公であるはずの津田良平がかわいそうなのがどうもですが…、

私は「天童広重」のことは本作で初めて知ったわけですし、「天童広重」の存在はこの作品で有名になった部分もかなりあるんじゃないかと思います。

作中で役所の人が「広重の美術館を建てたい」というようなことを語っていましたが、天童の広重美術館は1997年に開館です。
開館できたのにも本作の寄与あったんじゃないかなぁなどと感じます。
(天童は用事があり毎年行くのですが広重美術館にはなかなか行けていないのでこれまたいつか行きたい場所のひとつです)

本作のもう一つの側面、歴史ミステリーですが広重=勤王思想の持ち主の方はまぁ天童藩に肉筆画を大量に描いてあげているわけで、天童藩が「勤王思想」の強い藩なのであれば「ありかなー」とも思います。
広重は武士ですし時代的にも勤王思想が盛り上がりだしたころでしょうし。

ただ道目木の絵から「天童藩にいったはず」という推理(というか推測?)はかなり強引な気がしますし、広重が甲府行のとき酒折宮によったから「勤王」というのはちょっと強引なような….。
(酒折宮には「連歌発祥の地」という位置づけもあるようです。)

同様に遺書などから「広重が殺された」というのもちょっと強引かなーとは感じましたが、まぁ歴史ミステリーは証明はかなり難しいので楽しい説ならありなのかもしれません。

浮世絵三部作、高橋克彦の作家としての成長・変遷含めて楽しめました。
今回読んでみての私的感想ですが、初々しい「写楽殺人事件」が一番好みでした。
浮世絵師の謎の解決の納得感は「北斎」、偽画を見破る場面の印象深さは「広重」という感じでした。

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