しろくま日記

読んだ本の感想を記録してみたいと思います。
なんだか忘れてしまうので。

北斎殺人事件 高橋克彦著 講談社文庫

2017-03-27 | 日本ミステリ
高橋克彦氏の浮世絵長編3部作の第2作です。
写楽殺人事件」発刊3年後の1986年12月発刊、翌1987年の日本推理作家協会賞受賞作です。
本記事書くためにwikipediaで「高橋克彦」の項を眺めてみましたが、氏の著作はミステリーより歴史・時代小説やホラー・ファンタジー系の方が多いんですね。

「写楽殺人事件」の記事でも書きましたが、この浮世絵長編三部作もいわゆる謎解きミステリー小説としての要素は「本格」とい感じではないので「乱歩賞」「日本推理作家協会賞」とミステリー界の錚々たる賞を受賞している作家ではありますがミステリー作家としての要素は薄めの作家だったんでしょうね。

これまた前にも書きましたが本作私的にかなり好きな作品でした。
発刊当時高校2年生の私は単行本をほぼ発刊と同時に入手し初読から三回くらい繰り返し読んだ記憶があります。
その後も折に触れ20代の時まで頻繁に読んでいましたが最近はご無沙汰でした。

これも当時の単行本も持っているのですが携帯性により今回文庫で入手して読みました。

内容(裏表紙記載)
ボストン美術館で殺された老日本人画家とは何者か。
一方日本では、謎の生涯を送った浮世絵師葛飾北斎の正体に迫ろうと研究家たちが資料を追う。北斎は隠密だった?
 日本とアメリカを結ぶキイはどの辺にあるのか、またキイを握る人物とは?
浮世絵推理の第一人者の「写楽殺人事件」に続く傑作。日本推理作家協会賞受賞作。

「小説」としては処女作である「写楽殺人事件」よりこなれていて、さすが「推理作家協会賞受賞作」と感じます。

主人公津田良平が線の細いキャラのため「写楽」では先輩にあたる国府がマッチョな探偵役を担って物語を進めていたわけですが、本作では「国府と面識があった」という塔馬がマッチョな役柄を担います。

「写楽」の時はマッチョキャラの国府は途中退場するので適度な感じで冷静な展開でしたが、本作では塔馬が全編通して殺人事件やら偽画疑惑の方は探偵役として活躍する形になっているのでマッチョ感(ちょっと強引と言い換えてもいいかもしれない)強めになっていのが気になりました。

前記の通り著者に伝奇小説的ホラーやファンタジーを好きな傾向があるためか「マッチョな登場人物が出て解決させる展開が好きなんだろうなぁ」というのをしみじみ感じました。

ただ「浮世絵師の謎」の追求では今回の「北斎の謎」の推理が三部作中では一番納得感があるような気がしました。

「北斎」=「隠密」というところまでは信じきれないところもありますが、戒名やら御用鏡師の養子になった経緯やら、二男を旗本に養子に入れていることやら傍証考えると北斎=武士というところまでは相当に説得力がありした。

ここから見て北斎の実父(本作では仏清=川村清七説をとっていますが諸説あるようです、ここが崩れればすべて崩れる説なんですが…)死去後の北斎の行動は「確かに謎が多い気がするなー」と思わせられます。
wikipediaで御庭番のページ引くと確かに「川村家」が出てきてなにやら意味深です。
(余談ですがお庭番出で幕末に新潟奉行等歴任した「川村 修就」が川村家出のお庭番としては有名なようです、中公新書で「幕末遠国奉行の日記 --御庭番川村修就の生涯」という本が出ているようで気になります…。修就の孫の川村清雄は洋画家として明治期名を馳せたようです-勝海舟の画など有名-、川村「清」雄….北斎とつながりあるのか???など妄想すると面白い)

「川村家」=御庭番の家柄ということでなにかしら関係があって、川村家の家督を継いだ後にちょっとしたミッションを担当したというのもありかなーという気にはなります。

歴史ミステリーとしてはこんな程度の説得力で十分ではないでしょうか?
高木彬光の「成吉思汗の秘密」などはもっと強引な推理ですし….。

まぁそれはともかく純粋に「推理小説」として謎を解いていくのを楽しむのであれば津田的な「強引でない」キャラがたんたんと推理を進めてくれた方が楽しめた気がします。

魔女的な執印摩衣子が津田を巻き込むあたりは半村良の伝記小説っぽく感じてどうも推理小説臭が薄いです。

ただ私的にこの作品で一番好きな場面は執印摩衣子と津田良平が小布施を旅するあたりで、この辺の「北斎」や「当時」をいとおしむところは今回読み返しても魅力的でした。
小布施・北斎館・岩松院の天井絵...「いつかは行きたいなぁ」と今回もしみじみ感じました。(家族受けしなそうなのでもしかしたら一生いけないかも....)

まぁ良平が魔女的な存在に魅入られながらも、浮世絵やらなにやらへの「純粋」さが勝ち妻に回帰していくというかなりベタな展開なのですが、それを楽しむ作品なんだと思います。
40代後半の私には素直に感動するには少し無理のある展開ではありますが、10代から20代の自分はそれなりに素直に感動できた作品です、若い人にお勧めです。

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