思い出の釣り・これからの釣り

欧州の釣り、竹竿、その他、その時々の徒然の思いを綴るつもりです

米国竿の意匠を採用したパラコナ

2023-03-27 00:37:59 | Hardy Palakona

以前も軽量化に重きを置く米国竿と耐久性と趣味性に重きを置く英国竿の違いや、戦前のDe Luxeを始めとしたパラコナ竿に対する米国竿の影響(飾り巻き等)について述べさせてもらっておりますが、米国竿の影響を受けたパラコナ竿が手元にあることに気付きましたので以下徒然までに。

北アフリカの西端、モロッコはカサブランカの寓居にある竿の中から米国竿とパラコナ竿を並べてみます。下からPayneの206L 9'、次はLeonardのTournament Rod No.51 9'、その上はF.E. ThomasのSpecial Rod 8'、一番上にあるのがHardy Palakona Marvel 7'6''(1938年製)

ここで米国竿の特徴と言っているのは、竿尻のキャップに刻印された六角形の枠に刻み込まれたメーカー名やモデル名のこと。Hardyの場合はGold Medal、Perfection等の英国の釣り場を念頭に置いた通常モデルでは竿尻にゴム製のボタンやスピアがつけられているのでこの六角形の刻印を持つモデルはありませんが、軽量モデルとして開発された戦前のモデルにはこの六角形の刻印を持つものがあります。
上はPayneの刻印。「E.F.PAYNE ROD E.F.PAYNE ROD CO. MAKERS」とあり、これはジム・ペインとフランク・オラムの双頭体制がスタートした1925年から法人化されシンプルに「PAYNE」という刻印に移行した1930年までの間に使われた刻印。

次はLeonard Tournament Rodの竿尻の刻印。「THE LEONARD ROD HL. LEONARD ROD CO. MAKERS」とあり、その下に「REG. U.S. PAT. OFF.」との刻印も入ります。REG...の刻印が入り始めたのが1927年、この竿はフェルールにもREG...の刻印が入りますが、フェルールの刻印は1930年頃に廃止されたとされますので1920年台の終わり頃の製造とみられます。上のPayneとほぼ同じ頃に製造された様です。

続くのはF.E.ThomasのSpecial Rod 8'の刻印。「F.E.THOMAS SPECIAL BANGOR MAINE」とあり、1938年のフレッド・トーマスの死後どこかの時点で社名がThomas Rod Co.に変更されたことからそれ以前のものかと思われます。

最後に、冒頭の写真と同様にHardy Marvelの刻印。「MADE BY HARDY BROS. LTD. ALNWICK ENGLAND」と刻印されており上述の米国竿の特徴をそのまま使っております。

横から見た姿。

一方、上は1953年製のHardy Marvelの竿尻のキャップにある刻印。米国竿の様なフレームの中に記載を刻印するスタイルでは既にありません。

横から見た姿。リングには製造番号E87715が刻印されております。尚、1938年製のMarvelと1953年製のMarvelのリングは同じ様な太さのものが使われております。

最後は1967年製のMarvel。刻印は1953年製のものと同様です。

横から見た姿。1967年製のものはリングがかなり幅狭のものになっており重量軽減を図ったのかどうなのかデザインの変化が1953年以降有ったことを示しております。
戦後になると、軽量クラスのHardy Palakonaで竿尻にシンプルなキャップ等を採用するものにおいて、米国メーカーの様な刻印を採用したものがあるとは寡聞にして存じません。米国流の刻印が認められるものは戦前のものに限られているのではないかというのが現時点の私の推測です。
1910年代から始まったHardyの米国市場進出のための軽量モデルの開発・投入、米国竿の意匠の取り込み、といった活動も第二次世界大戦と共に一旦終了し、Hardy Palakonaは1950年代のプラスチック製フライラインの登場によるデザインの変更も行いつつ、伝統的な英国竿の世界へ戻っていったのでしょうか。

尚、米国各メーカーの情報は錦織氏著の「The History of Bamboo Fly Rods」に準拠致しました。


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7 コメント

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Unknown (budsek)
2023-04-08 00:30:00
nori様
暖かいお言葉大変ありがとうございます。
中国山地のアマゴ釣りを堪能されますこと地の果てよりお祈り致しております。
今週、無事モロッコの釣りライセンスの2023年分の更新が出来ましたが、今はラマダンの真っ最中でとても釣りに行けるような状況ではなく今月末のラマダン終了後に釣りを企画したいと思っております。
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Unknown (nori)
2023-04-06 21:49:30
budsekさま

英米どちらも愛用されている貴殿のご報告を、本当に愉しく読まさせて頂いております。
今後ともbudsek様の心の赴くままに、興味深い物語をお書き連ねて頂けますことを、心より祈念申し上げます。
実は、私もこの春は釣友と中国山地にアマゴを求めて彷徨おうかと計画中です。

nori 拝
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釣り場色々、竿色々 (budsek)
2023-04-03 00:25:20
nori様
コメントを頂き大変ありがとうございました。
少し米国竿に対する懸念の様なコメントをしましたこと自分でも忸怩たるものはありますが、やはり釣り場環境、そこで何を一番釣り人が優先して愉しむのか、更にその地域が培ってきた釣り文化、という要素が釣竿の多様な地域性の背景にあるのだと考えます。米国竿でもLeonardのTournament竿はHardyの強竿に負けずに大鱒を寄せられるトップを持っておりますし、F.E.ThomasのSpecial 9'も同様です。
ただ、私の持つPayneの9' 206LはButter Smoothな惚れ惚れする調子の竿でありますが、トップが華奢で、とても柔らかいF.E.Thomas 8'のトップよりも細いもので、尺以下の鱒でも取り込みに緊張致します。
オーストリアはGebetsroither流のスパルタンな竿が重宝される等、大きな鱒とグレイリングが急流で釣れるところでありますので、トップはやはり太くないと安心出来ないな、というのが今の心境です。
日本で繊細な鱒釣りを行う場合は、伝統的な欧州流の竿ですとゲーム感が大味になるかも知れません。
今シーズンも欧州とモロッコの釣りで手持ちの竿を味わっていきたいと思います。
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多謝 (nori)
2023-04-02 22:01:21
budsekさま

面白いマーベルをお持ちですね。
英国竿も米国竿も、どちらもじっくり使って釣ってみるというのは、とても豊かな愉しみですね。
それぞれが、固有の経緯や環境差によって分化・発達してきた釣魚文化の実りです。
「みんな違ってみんな良い」ホント、そう想う次第です。
また色んなお考えを拝聴させて下さいね。

nori 拝
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工作の精度 (budsek)
2023-03-31 03:56:46
yugawaski様
追記致しますが、Hardy Marvelの六角形の刻印の両脇の丁度先端部分がキャップを固定するピンの打つ場所になっておるのです。シャフトを貫通して打たれるピンの入口出口がぴたりと先端に合うように刻印するHardyの技術には脱帽致します。
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米国仕様竿 (budsek)
2023-03-31 03:49:20
yugawaski様
コメントを頂き大変ありがとうございました。
おっしゃられる通り、段巻きがなく、リールシートもポケット・スライドリングのモデルで、米国市場を意識した様な竿の戦前に作られた竿にこの刻印が打たれている様に思われます。そう考えると戦前のFairchild等にもこの刻印が打たれているのかも知れません。
日本に居る時分には米国竿にも手を出しましたが、欧州での釣りを再開してみると、タフに使っても安心出来る耐久性に優れたHardy竿にやっぱり回帰する自分に気付きます。軽量化のためにシンプルにスッキリ纏めるのは私も好きなのですが、ティップの細さがやっぱり腫れ物に触るような感じがして怖いのです。
日本の渓流でしたら鱒もそこそこのサイズなので良いのですが、重量感のある尺以上の鱒が上がる場所ではGold Medal 10'とかの安心感には勝てない感がしております。
余談ですが、他にもFred Buller Drifter 11' #5という趣味性の塊のような竿もありますし。
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あまり見かけないですね。 (yugawaski)
2023-03-30 18:32:50
こんばんは。
私が所有するパラコナ竿の中では、1936年製のKeith Rolloだけにこの刻印が打たれています。
この刻印が打たれたのは、一定の時期というより一定の時期の特定のモデルだったのではと想像しています。
Keith Rolloは戦前の竿なのにインターミディエイトラップがなくて、リールシートもすっきりしたポケット&スライドリングで、アメリカの竿のようです。
カーボン竿まで使われた戦後の刻印にも味がありますよね。
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