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ファミリー・ツリー

2012年05月20日 | は行 外国映画
ジョージ・クルーニー娘に振り回されるがごく普通の親父をやると言うんで、個人的に興味があった作品。どうにもバタ臭いジョージが苦手で、これでもかっという押し出しの役がどうも駄目なのだが、こういう情けない役だとなぜかOKなわたし。まさにそう言う感じ。これだったら、ほぼ全編出ずっぱりでも大丈夫。

原題は「THE DESCENDANTS」。さっぱり知らない単語。子孫という意味だそうな。なるほど。先祖はカメハメハ大王までさかのぼるハワイでは名門の家柄なわけ。その関係から、広大な領地を受け継ぎ、未来の子孫にこの地をどう託すのか・・・と言うことも課せられている。

それが弁護士のマット。ごく普通の冴えない中年親父。家のことは妻にまかせっきりで、仕事をしてきた。それをあんたが悪いからよ!と言われても釈然としないだろうが、妻は浮気をしていた。なのに今は、事故で意識不明の植物状態。10歳の娘と相対するが何をどうしたらいかさっぱりわからない。

困ったマットは寮に入っている姉を呼び戻し、もう助からないと宣告された母親を看とり、これからの処し方を相談しようとする。なんとも情けない親父。だから浮気されるんでしょ!ともいえるが、なかなか難しいとこだ。その時に長女から妻が浮気をしていたことを聞かせられた。娘と妻が疎遠だったのは、そのせいだった。もう妻になぜ?どうして?何も聞くことはできない。刻々と近づく妻の最期。

マットにはもう一つ、抱えていたものがあった。先祖から託された広大な土地を処分する役割。一族郎党に莫大な資産が入る。それは歴史の流れで処分することはごく当たり前のことだったはず。でも、その自然にあふれた原野を処分することは、もしかしたら人類の宝を手放して、なくすことかもしれない。そして意外な人物が、この土地の売買に関与していたことが分かってくる。

意識のない妻のことを気遣ってくれる友人たち。「きっとよくなるさ!」「彼女は強い!」「元気に元通りなるよ」・・・・。そのたびに笑顔で「そうだね」と返すマット。そんなことはない。誰だって、「もう駄目だ」「あきらめろ」なんて言うはずなどない。でも気休めのように掛けてくれる言葉が重い。そして、いよいよ妻の最期の時がやってくる・・・。

まるで「エンディング・ノート」のようだった。ただし、そのエンディングは自分で行うのではなく、家族がやってくれるエンディング。もう回復の見込みのない妻をどう看取ったらいいのか。そのために生きているもの、残されたものが、どうやって決別し、気持ちに整理をつけ、どう見送るのか・・・。娘の立場から、夫の立場、親の立場、友人に愛人、その妻・・・。それぞれが何らかの折り合いをつけて、その人を見送る。当の本人は何も知らずに、ゆっくりと静かに去って行こうとする。そのなんとも言えない対比が不謹慎ながら、とっても面白かった。

もやもやした人たちの心情を表すかのように、ハワイの空はまったく鮮やかでなく、どんよりと曇り、行ったこともないのだけど、ハワイの空って、こんなのなの?と思わせるまるで梅雨空のような天気だった。

ハワイ?いいなあ~。サーフィンしまくり?リゾートでのんびり過ごしてるんでしょうねえ・・・の無責任な勝手な思い込みは外野は誰でも思う。でもそんなことはなく、どこの世でも通じる問題はここでもあり、病気をし、看取り、看取られ、子供は問題を起こし、夫婦はけんかをする。曇り空のハワイって言うのが、さすがこの監督の目だ・・・とつくづく思った。

とっても素敵な作品。全般流れるハワイアンがなんとも言えずに、寂しく、暖かく、素敵だった。

お姉ちゃん役がとってもうまかった。と、味わい深かったのが、その謎の友人のシド。若い子がとっても光った映画だった。

◎◎◎◎

「ファミリー・ツリー」

監督 アレクサンダー・ペイン
出演 ジョージ・クルーニー シャイリーン・ウッドリー アマラ・ミラー ニック・クラウス ボー・ブリッジズ


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14 コメント

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Unknown (KLY)
2012-05-22 20:10:24
何かハリウッド映画じゃないみたいです。
例えば普通なら訴訟モノの浮気なのに、相手の男に見舞いに来させようとするなんてこの監督とハワイという土地柄でなかったら違和感あったと思うんですよ。
それにしてもコツコツと丁寧に人物像を積み重ねながら進みますよね。だから彼らという人間がとても良く見えて、だからこそラストのソファーのシーンがとても嬉しいというか気持ちよいというか。
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>KLYさま (sakurai)
2012-05-24 08:56:52
そうですねえ。ハリウッドの風情とは一線を画してました。
別にハワイであるという必要性はあったのかなあと、最初は思ってたんですが、じわじわとその必要性と、空気感と、途中からはハワイじゃないと!と思ってきました。
いろいろと絶妙な人々がいいケミストリーを見せてましたが、絶品だったのはやっぱ子供たちとシドでした。
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ハワイは楽じゃなかった。 (KON)
2012-05-25 09:29:30
大抵の人と同じく、私もハワイは別世界だと勝手に思ってました。
そこに目を付けた監督さんの眼差しがよかった。
けっこうドロドロしたお話なんですよね。
奥さんの事故、親戚とのゴタゴタ、浮気、娘との不和、うまくいかない
マットの地味な日々を優しく丁寧にじっくり描いていて、いいなあ。
それにしてもあのシドくんは何者なんだろう。
アレックスに対して微妙に距離を置いている感じが不思議でした。
途中マット父さんに少し頼られていたし。
ただのチャラい兄ちゃんではないあの雰囲気・・。

ついでに、浮気相手の家の垣根から除く狂兄の眼力に大笑い。濃すてぎ気付かれそう^^。
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曇り空 (ノルウェーまだ~む)
2012-05-25 14:21:24
sakuraiさん☆
私も同じこと思いマシた。
常夏のハワイにおいても曇り空だったり、心が曇る時があるのですね。
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Unknown (オリーブリー)
2012-05-27 15:10:42
泣き笑いだったんですけどね、不倫ネタがしつこく(?苦笑)て、どちらの奥さんも気の毒になりましたよ。
特に相手の奥さんがね…。

この監督の作品は好きですが、考えてみれば「サイドウェイ」でも結婚式控えた花婿男の不誠実さにイラっとしたんだったわ(苦笑)

人間って不完全だけど、いつでもやり直せる、折り合いをつける、人生の教訓ですよね。
いつもはできる男なクルーニーの平凡でドン臭さがリアルで身近で、説得力があり、最高に良かったですよ。
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こんばんは (はらやん)
2012-05-27 20:53:00
sakuraiさん、こんばんは!

>曇り空のハワイって言うのが
確かに、常夏の島、楽園て言ってもそこで人の営みが変わるわけではなくて、人の生と死に関わる問題は普遍的なんですよね。
空模様はそれを表していたんですね、なるほどです。
そう考えるといつもはバタ臭いジョージー・クルーニーが、普通のおっさんを演じているってのも、曇り空のハワイになにか通じるところがある気がします。
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>KONさま (sakurai)
2012-05-29 08:32:29
ですよねえ。
勝手にここはパラダイス・・・みたいな。ないものに無用にあこがれる!って言うのは、「ミッド・ナイト・イン・パリ」にも、相通じるかもね。
ドロドロ具合は半端なかったですが、結構あのくらいの話は転がってそうな気がします。
軽重はありますが。
まあそういう問題山積を乗り越えて、私たちは進んでいるんでしょうね。
シド君、良かったです。
謎な雰囲気がまた妙と言うことで!
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>ノルウェーまだ~むさま (sakurai)
2012-05-29 08:37:01
どうもです。
私も冒頭から、「これハワイだよねえ」と首をかしげつつ、これだったら別にハワイが舞台じゃなくても・・と思ったのですが、いやだからこそハワイが舞台なんだ!!と納得してきました。
秀作でした。
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>オリーブリーさま (sakurai)
2012-05-29 10:41:53
ちょっとやりすぎな部分も否めませんでしたね。
あれじゃあ救われないもんね。
あの浮気相手がもうちっとまともな奴だったら、ジョージ父ちゃんも納得いくんでしょうが、あんな奴だと思うと、ますますやりきれない。でも人生なんて、んなもんかねえ。
だれでもいろいろと問題を抱えながらも、ジョージ兄さんが眉間にしわ寄せてる風情は良かったです!
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>はらやんさま (sakurai)
2012-05-29 10:48:54
とにかく見てて、全編思ったのが曇り空と雨上がりの天気だったんですよ。
これが象徴してるのか、たまたそういう天気だったのか・・・。
そりゃ、ハワイだって、いつもお天気なわけはなくいろいろありますよね。
すっきり綺麗な夕焼けのうみ・・・じゃなく、なんだかどよよーーんとして、風の強い海辺ってのも、印象深かったです。
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