迷宮映画館

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エレニの帰郷

2014年03月19日 | あ行 外国映画
エレニの旅」の悲しすぎる壮大な絵巻物を突きつけられ、いったいあの後、エレニは、どうやって生きていくのか?いや、どんな過酷な目にあっても、人は生きていかねばならない。生き続ける・・・と言うことを刻んだ。

そして、しばらく音沙汰ないところに飛び込んできたいきなりの訃報。それも新作を撮っていたところでの事故での出来事ということで、かなりのショックを受けた。アンゲロプロスと若松監督の訃報には、ほんとに神も仏もいないのか(いない!)と憤ってしまった。

というショックの中、「エレニの帰郷」の完成の報。亡くなったのは3作目の途中だったということ。もう一作、見れる!でも、当地での上映はなし。これまた利府への遠出ということになりました。こればっかりは、居住まいを正して見ねばならない作品でございました。前置きが長くなりました。


物語は、チネチッタで映画製作に取り組んでいる監督の様子から始まる。監督の名前はA。アンゲロプロスの投影か。歴史的な事象と両親の激動の生きざまを描こうとしているのだが、とんとうまくいかず、完全に行き詰っていた。ちょうど、両親がやってくることになっていたが、ちょっと奔放な幼い娘の行方が分からなくなっていた。眉間のしわが、どんどんと深くなる。

Aの母親・エレニは、ギリシャ難民としてロシアに抑留されていた。彼女の恋人はスピロス。離れ離れになっていた二人は、1953年、ソ連の歴史が変わった日に再会した。スターリンが亡くなった日。町の人々は、広場に黙々と集まってくる。人の波は幾重にも重なっていく。スピーカーから流される訃報を愕然として聞くもの、喜びに満ちながらもそれは押しとどめないならない。いろんな感情が渦巻いている混乱の中、エレニとスピロスは、別々にまた逮捕されてしまう。

エレニの後を追うように、彼女と一緒にシベリアに送られたのは、ユダヤ人のヤコブ。ただユダヤ人であるというだけ、ギリシャ人であるというだけで、強制収容所に送り込まれている時代だった。エレニを愛するヤコブは、彼女の支えとなり、影のように彼女を守っていた。その時、エレニはスピロスの子を宿していた。

シベリアで子供を育てることはできない。生まれた子供は、ヤコブの姉に助けられ、そこで育ててもらうこととなった。いつか息子に会えると信じて、息子を手放すエレニ。

時は流れ、ようやくロシアから出国できることになったエレニとヤコブ。オーストリアとの国境で、エレニはアメリカに、ヤコブは故国イスラエルに、、、。二人はここで別れるはずだった。しかし、どうしてもエレニと離れがたいヤコブは、彼女と一緒にアメリカに行って、スピロスを探すことを手伝うことにする。ヤコブが故国に帰る日はまた遠ざかった。

アメリカに行き、NYでスピロスを探し当てたエレニは、別の女性と暮らしている彼を見つけ、愕然とする。しかし、スピロスもまたエレニの影をずっと追っていたが、現実の世界がある。スピロスのもとを去ったエレニは、息子のいるカナダへと向かい、数十年ぶりに息子と再会する。一日も忘れたことのない息子との夢にまで見た再会。

やはりスピロスはエレニを追ってきた。トロントのバーで働くエレニのもとにやってきたスピロス・・・。

念願の再会を果たし、幸せな生活を営むことができるようになった・・・・では終わらない。エレニにとって、故国とは何か。難民となりソ連で抑留され、シベリアに流される。苦難の中でアメリカにわたり、そしてカナダで暮らしても、そこが安住の地にはならない。人生の終末にローマにいる息子を訪ね、故国に帰ろうとするものの、それは果たされない。


自分と同じ名前を持つ孫娘のエレニの混乱した精神と自殺願望に遭遇し、エレニの平安はまた遠ざかって行く。


現代と言っても20世紀の終り。混乱と混沌と激動の20世紀を振り返るように約50年の時の流れが綴られていく。ギリシャに根っこを持ちながら、生涯帰ることができなかったエレニ。彼女に降りかかる悲劇はギリシャそのものを表している。ようやく愛する人と再会し、新たに二人で歩もうとしても、ま立ちはだかる困難は、今のギリシャの苦難を表そうとしているのだろうか。

ヤコブもまた同じ。故国を持てず、故国を作ることを夢見ていた人々。その国はできた。念願がかなった、しかし、故国に足を踏み入れることなく、彼は自分の人生を絶つ。エレニのために生きた人生だった。なんだか、エレニに愛されたスピロスの気軽さ(失礼?)に、若干の違和感を感じたのだが、愛された男の幸せもあってもいい。

現代を撮るアンゲロプロスの映像にどこか居心地の悪さを感じながら、一切ギリシャを表さずに、ギリシャの苦難と悲劇が表される。全編に流れる音楽が素晴らしく、心地よさと、悲哀が満ちている。「悲愴」がエレニの思いをすべて背負ったように朗々と流れるのが、突き刺さった。音楽だけで涙が出てくる。

相変わらず難解で、説明もなく、時代もあっちに飛んだり、こっちに戻ったりと、なかなかついて行くのが大変なのだが、とにかく惹き込まれてしまう。一つのカメラで写していく時間の流れ。いつものアンゲロプロスのしつこいまでの追い方は健在だった。心地いい陶酔感と、ケムに巻かれたような不思議感を堪能できた。

これで終わるのは、どうしても悔しい。監督自身が一番悔しいだろうな。

◎◎◎◎

「エレニの帰郷」

監督 テオ・アンゲロプロス
出演 ウィレム・デフォー ブルーノ・ガンツ ミシェル・ピッコリ イレーヌ・ジャコブ クリスティアーネ・パウル


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