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第526回 フランスの蒐集マニアたち 

2023-06-02 | エッセイ
 世の中には、いろいろなモノの蒐集に大変な情熱を傾ける人たちがいます。作曲家ワグナーは、婦人靴の蒐集にことのほか力を入れていたようで、死後、ベッドの下から数百の婦人靴が見つかったと伝えられています。こうなると、コレクターというより、フェチの気配が濃厚ですが・・・・
 演劇集団「天井桟敷」の主宰者であった寺山修司氏が、蒐集マニアだったというのを、彼のエッセイ「蒐集狂たちの謎めいた情報交換誌」(「幻想図書館」(河出文庫)所収)で知りました。
 ホテルのドアノブにかけておく「Don't disturb(起こさないでください)」の札を蒐集していると明かしています。また、以前は、馬の切手を数百種(そういえば大変な競馬ファンでしたから)とか、消しゴムの蒐集にも取り組んでいたそう。
 そんな彼が、フランスの蒐集家たちの情報交換誌
「Le Collectionneur français」(まんま「フランスの蒐集家」というタイトルです)のバックナンバーを集めてみた、と書いています。ここでもしっかり蒐集癖が出てるな、と頬が緩みました。氏のガイドで、フランスの蒐集家たちのマニアックな世界を垣間見てみようという趣向です。よろしくお付き合いください。

 当の雑誌は、月刊で24ページの小冊子です。当然のことながら、「売りたし」、「買いたし」の情報交換がメインです。こちらはその表紙(本エッセイから拝借しました)。

 「売りたし」で一番多いのは古銭です。時代、発行国などマニアそれぞれにこだわりがあります。ほかに、フランス植民地の切符類、フレデリック3世の兜(珍品)、1925年以前の電話機、グラモフォンのレコード針350個ひとまとめ、メヌリク2世とハイレ・セラシエ皇帝のエチオピア貨幣、中国式天蓋(9つの花を散らした象牙色のサテン製)などが例として挙げられていて、蒐集への情熱、奥の深さを感じさせます。
 一方、「買いたし」で一番多いのは、絵葉書です。こちらも、絵柄、時代、地域など、こだわりがあります。気球操縦術に関する情報、古い電車の部品、第1回サハラ横断に関する写真・記事、18~19世紀にかけての古いボタン、世界の体温計、汽車に関するビラ、日本の武器など、こちらもマニアックぶりでは負けていません。

 当情報交換誌は、小冊子ながら特集ページがあり、例として、こんな記事を紹介しています。「電気音響学の博物館友の会」という団体は、離れたところで人の声を伝えあうことに関する資料の蒐集をおこなっているというのです。例えば、かのマケドニアのアレキサンダー大王(前356-前323年)は、18キロ離れた兵士たちに命令を伝えるために、三脚につるした楽器のようなものを作らせた、との記述がある古い写本を所蔵しています。
 また、同会によれば、レオナルド・ダヴィンチは城の内外で交信できる音響チューブを考え出したともいいます。電気以前の「遠距離遠話」の起源と歴史を探る・・・・アカデミックな「情報」の蒐集もなかなかハイソな活動ですね。

 さて、先ほど、絵葉書が人気アイテムだと紹介しました。氏によれば、そのコレクターの中でも、ファンが多いのが「犬の引く荷車(馬車ならぬ「犬車」というべきでしょうか)」の絵柄だというのです。ネットから、絵葉書らしきこんな画像を見つけました。

 もちろん今では姿を消していますが、イギリスやイタリアでは、19世紀の中頃に禁止されるまで、ごく普通の運搬手段だったといいます。フランスでは、1824年、パリの警視総監が、動物愛護の観点から、禁止し、多くの県知事も追随しました。その結果、「犬が車を引いている絵柄の絵葉書はフランスの特定の地方(アルデンス、ノール、ロワレ、ラ・セーヌ・マルチヌ)にしか出まわらなかったのである。」(同エッセイから)
 ドイツ、ベルギーでは、もう少し続きました。いずれにしても、地域、時代が限定される希少性がコレクターたちの心を刺激するようです。より珍奇なもの、ニッチなモノを求めるコレクター心理は普遍だな、と感じました。

 で、私はといえば、イギリスの鉄道に関する本、DVD、時刻表などを、ささやかに蒐集している程度です。そうそう、このブログを書くためのネタを、本から「蒐集」して、記事にするのが、趣味といえば趣味。コレクターではありませんから、「見せびらかさず」、「楽しくご覧いただく」のを旨としています。これからも末永くご愛読ください。

 いかがでしたか?それでは次回をお楽しみに。
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