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第315回 路面電車がアツい

2019-04-19 | エッセイ

 路面電車が、便利な乗物だなぁと感じたのは、若い頃、広島市内で勤務したのがきっかけです。通勤のほか、出先機関とか客先への訪問など手軽に利用してました。

 なんでこんなに便利なのかなと考えた時、これは運営している広島電鉄(通称:ヒロデン)の方針でもあったようですが、とにかく本数を多く走らせているから、というのに気がつきました。
 どんな具合かと言うと、電停の前に立って、電車の来る方向を見た時、一つか二つ前の電停まで次の電車が来ているのが普通で、中心部(そうですねぇ、紙屋町とか流川(ながれかわ)あたり)だと、ざっと見渡して4~5台が、いつも視野に入る感じでした。

 8つの路線で市内をカバーしてますから、乗りたい路線の電車が来るとは限らないのですが、不思議なもので、車両が目に入るだけで、なぜか安心して「待とう」という気になるものです。まんまと「ヒロデン」の計略に乗せられていたことになりますが。

 バスもありますが、朝晩のラッシュ時は、何と言っても路面電車です。軌道の中には、一般の車は入って来られませんし、横断も出来ません(ただし、タクシーだけは、さすがにオッケーでした)。赤信号で止まるのは仕方ないですが、それ以外は、無人の野を行くごとく結構なスピードを出しますから、乗ってしまえばイライラとも無縁で、快適でした。

 さて、ヒロデンといえば、西日本を中心に、廃止となった路面電車の車体を積極的に払い下げを受けて、走らせているのが「売り」でもありました。
 小さい頃よく見かけた神戸とか大阪の車両が現役で活躍してるのが懐かしかったです。数えたことはなかったですが、自前の車両のほかに、10種類近くの払い下げ車両が走っていたんじゃないでしょうか。

 また、私が勤務していた時には、西ドイツから払い下げを受けた車両が数台登場して、随分話題になりました。流線型のスマートなデザインで、わざわざ待って乗ったりしました。多くの本数を走らせるための必要性とコストということもあったのでしょうが、鉄道ファン、観光客などへのアピールも考えた心憎い仕掛けでしたね。

 左から、最新の3連結車両、旧大阪市電、旧京都市電(両方ともたぶん現役)です。
 

 海外では、6年ほど前に夫婦で行ったアムステルダム(オランダ)の路面電車(トラム)を思い出します。

 市内を14の路線でカバーしていますが、その内、9路線が「アムステルダム中央駅」発着で、ほぼ放射線状に伸びています。中央駅が市の北の端に位置するという事情によるのですが、たまたま中央駅のすぐ近くのホテルに滞在していた私たちは大助かりでした。
 目的地が決まっている時は、路線と降りる駅名くらいはチェックしましたが、帰りは、どんどん来る「アムステルダム中央駅行き」に乗ればいいのですから安心です。本数も「広島並み」でしたかねぇ。

 シーボルトゆかりのライデン、画家フェルメールが暮らしたデルフトには、一般の鉄道を利用して、日帰り小旅行を楽しみましたが、市内観光はもっぱらトラムが頼りです。国立博物館、ゴッホ美術館など観光スポット巡りのため、毎日のように乗っていました。

 ある日、特に予定がなかったので、「いっぺん行けるとこまで行ってみよか」と思い立って、二人で、一番遠くまで行ってそうな路線を選んで乗ってみました。ほんの30分ほども乗ったでしょうか。運河を渡ると景観が一変しました。それまでの歴史的町並みが消えて、何の変哲もないアパートが建ち並ぶ「ごく普通の」エリアに入ったのです。

 「あれっあれっ」と驚く間もなく、終点に到着です。折り返し用の引き込み線があるだけで、特別な施設は何もありません。辺りを見回していると、庭でくつろいでいる中年夫婦と目が合いました。
「物好きな外国人が、な~んもない終点までやって来た」と顔に書いてあります。でも暖かい笑顔だったので、私たちも微笑み返しました。楽しい旅のハプニング、思い出です。

 アムステルダム中央駅前で出発を待っているトラムです。なかなかオシャレでしょ。
 

 かつては道路の邪魔者扱いされた路面電車ですが、北は札幌、函館から、南は、熊本、鹿児島まで、国内の多くの都市で公共交通機関として活躍しています。

 外国でも、特にヨーロッパなどでは、エコで便利な交通手段として、驚くほど多くの都市で市民の足となっています。中には、市内中心部への車の乗り入れを規制し、路面電車の利用促進、活用を図ったり、路線の新設や延長を計画している都市まであるようです。
 日本の場合、新たな路線の開発までは困難でしょうが、いろんな知恵と工夫で、せめて現在ある路線はずっと存続してほしいと願っています。

 いかがでしたか?次回をお楽しみに。