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第294回 昨今の「本の街」

2018-11-16 | エッセイ

 飲みに出たついでに時々立ち寄る本の街、神保町。

 ある古書店(画像とは関係ありません)の棚を見ていると、こんな張り紙がしてあるのに気がつきました。

 「店内でのスマホの利用はご遠慮ください」

 店の人に確かめた訳じゃないので想像ですが、大規模ネット書店なんかの売値との比較を店内で堂々とする人がいるんじゃないでしょうか。
 店の外でチェックするのまでは、どうこう出来ませんけど、店主さんの気持ちを忖度するに「この値段は、私のその本に対する知識、経験に基づく評価を集大成したもので、自信を持っています。それがあなたの評価と合えばお買い求めください」みたいなことになるでしょうか。

 古書店にとって、今やネットは、販促につながる間口であり、ツールです。
 一方で、例えば、値段の比較が簡単にできてしまうなどお店にとっては痛し痒しの存在でもあります。

 かれこれ10数年くらい前でしょうか。靖国通りに面している「本と街の案内所」(今も、看板だけは出ていますが、現在は、活動休止中のようです)で、ボランティアをやっていたことがあります。
 こんな分野に強い書店は?文庫が充実してるのは?この本はどこで?などのほか、美味しいカレー屋は?など種々雑多な問い合わせに対応してました。

 神保町の古書店を網羅した立派なパンフがあり、自分の足で調べてきた店の特徴なんかも思い浮かべながら案内するのですが、具体的に書名などが分かっている本を調べる時は、案内所内にあるパソコンで、「BOOK TOWN じんぼう」にアクセスするのが常でした。

 そのサイトですが、「書店を探す」のと、「古書データベース」が柱です。

 「書店を探す」には、50音別に各古書店の概要、専門分野などの紹介のほか、お店のホームページへのリンクも張ってあり、コンパクトで使いやすい作りです。現在、約150の古書店が登録されていますが、各お店のホームページでは、そこの在庫が検索できる仕組みを採用しているところがほとんどです(お店により、登録件数の多い少ないはありますが)。

 「古書データベース」では、書名、著者名、キーワードのいずれかで、このシステムに加盟の「各店舗横断」で、検索できるのが大きな特徴です。ただし、在庫本の登録・管理は、各お店に任されているようで、単価の安い文庫本、新書などは登録が少ないのが、やむを得ないとは思いつつ、ちょっと残念です。

 店売り中心(今でもほとんどのお店がそうだと思いますが)と思われがちですが、神保町にお店を構える古書店が、力を合わせて、「本の街」として、ネットへの対応に比較的早い時期から取り組んでいた訳です。

 少し前のこと、このシステムのお世話になったことがあります。

 たまたま映画関係のある本を探していたのですが、この分野なら、Y書店にあるかも、と思いながら、「古書データベース」を検索したら、見事、その書店に在庫があることが分かりました。
 そこで働いているMさんは、私の行きつけのスタンドバーを時々手伝っているとても気のきく美女です。

 さっそく書店に寄ってみると、折よく、彼女が帳場にいます。スタンドでは軽口をたたく間柄ですが、ほかのお客さんとかの手前もありますから、柄にもなくタメ口は封印して、神妙に切り出しました。

 「あの~、神保町のデータベースで見ましたら、この本がお店にあると出たんですが・・・・」
 「はいはい、ちょっと棚を調べてみますね」とにこやかに応えて、探してくれます。
 ややあって、「あっ、ありました。これですか?」
 「そうそう、それです。よかったぁ。しっかり登録、管理していただいていているんですね。助かりました」
 言葉は他人行儀ながら、お互いに顔はニコニコ。私もいい歳して、久しぶりに、胸がときめいてしまいました。

 普段は、大規模ネット通販書店に頼りがちな私。でも、入口はネットでも、購入の段階では、リアルなお店の人とのヒューマンな触れ合いがある、こんな古書の買い方も悪くないなと感じました。

 いかがでしたか?次回をお楽しみに。