小学校の同級生で、姓が「一筆(ひとふで)」という男の子がいました。ちょっとおとなしい子でしたけど、私が、これまで出会った中では、一番珍しい姓ですね。
あと、中学時代、友だちに、姓が「有巣(ありす)」というのがいました。響きが外人みたいで、得な名前だなあ、と羨ましかったことを思い出します。
社会人では、「井」という一字姓の人がいました。名刺には「いい」とフリガナが振ってあって、当然「いいさん」と呼んでました。読み方が珍しい例でしょうか。皆さん元気にしてるんでしょうか。
さて、以前、世界の国々の人名を巡る話題をお届けしました(第165回 人名いろいろ)。名付けのルール、珍しい名前などを、「世界の名前」(岩波書店辞典編集部編 岩波新書)をネタ元にご紹介しましたが、その第2弾をお届けします。
<トルコ>
この国で、国民全員が姓を持つことを義務づけられたのは、比較的新しく1934年のことです。
名家などを除けば、それまでは、通り名だけで通用してましたから、姓を付けるよう強制されて、だいぶ混乱もあったようです。
その結果、「クッル(毛むくじゃら)」、「サラクオール(うすのろの息子)、「オルドゥルジュ(殺し屋)」、「ギョベキ(へそ)」、「シャプシャル(だらしのない)」、「ブダラ(馬鹿)」など、差別的で、常軌を逸した姓が付けられた例があります。
極め付きは、こんなケースです。
姓を貰うため、役場に赴いた男が、山、知者、博学などを提示するのだが、既に使われているからと、戸籍係に登録を拒否されます。何か別の姓を挙げるようしつこく求められた男が「なんて時代になったんだ(ネ・ギュネ・カルドゥク・ヤー」と叫んだところ、「それいけますね!」と言われて、「ネギュネカルドゥク」という姓が与えられた、という次第。この姓を代々受け継いでいる一家に同情します。
<ビルマ(ミャンマー)>
なんといっても「アウンサンスーチー」女史が、一番の有名人です。父親が「アウンサン」将軍なので、「アウンサン」家の「スーチー」さん、と思いがちですが、そうじゃないんですね。
一部の少数民族を除いて、ビルマには、姓がありません。ですから、彼女も「アウンサンスーチー」で、ワンセットなんですね。ご存知、こちらの方。
多数派を占めるビルマ族の場合、生まれた曜日によって、使える文字が決まっていました。そして、かつては、1音節か2音節の名前が普通でした。
国連の事務総長を務めた「ウ・タン」(日本では、「ウ・タント」)の「ウ」は敬称なので、名前は「タン」だけの1音節で、意味は「清らか」というのだそうです。
日本と同じように、名前にもハヤリスタリがあるようで、ビルマでも、1970年代から、4音節とかそれ以上の長い名前が増えてきたといいます。
「アウンサンスーチー」女史もその典型で、父親から「アウンサン(特別な勝利)」、祖母から「スー(集める)」、母親から「チー(澄む)」をとったものです。由来はそうなりますが、先ほども言いましたように、あくまで、これで、ひとつの名前です。
<オランダ>
名前のユニークさでは、オランダもなかなかのものです。
パン屋(バッカー)さん、東インド(オーストインディ)さん、爪(ナーヘルス)さんのほか、魚、鳥、ライオンなど動物名も。「悲しい(トゥリースト)」や「生き生き(レーヴェンダッハ)」さんのような形容詞もあります。
フエット(脂肪、脂っこい)さんと、スペック(ベーコン)さんという姓の人同士の夫婦もあるそうで、さぞかし「べたべた」夫婦なんでしょう。いずれも、電話帳に数十人の掲載があるそうで、そう珍奇な名前でもない、とのことです。
<アフリカ諸国>
親の願いや、子供が生まれた時の状況などメッセージ性が十分な名前を付けるケースがアフリカ諸国では多いようです。
コンゴに「私は知らなかった」という名の女の子がいました。結婚してみると、亭主がヒドい人物で「(亭主が、そんな男だとは)私は知らなかった」というわけです。
誕生時の状況から、「難産」、「夜の子」、「飢餓」、「貧乏」などの例が揚げられています。
ガーナ人の場合、生まれた曜日、何番目の子供かにちなむ名付けも多いとのことです。
初代大統領クワメ・ンクルマは、「土曜日・第9子」、元国連事務総長コフィ・アッタ・アナンは、「金曜日・双子・第4子」というのが、名前から分かる仕組みです。
名前に託す親の思いも、お国柄、様々だなと、あらためて感じます。
いかがでしたか?それでは次回をお楽しみに。