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第241回 アリをめぐる不思議話

2017-11-03 | エッセイ

 当ブログでは、時折、生き物の話題を取り上げています。ヒトにも興味は持ってますが、それ以外の動物や植物の世界にも関心があって、その種の本を手に取ることがあります。

 先日、その名も 「不思議の博物誌」(河合雅雄編 中公新書)という本を読んでいたら、アリにまつわる刺激的な話が2つ載っていましたので、ご紹介しようと思います。

<アリを食うアリ>
 普通のアリは、昆虫のような小動物とか、花蜜とかを食料にしています。

 しかし、ボルネオの熱帯雨林に生息しているヒメサスライアリは、アリだけを獲物にしています。他のアリの巣に押し入って、幼虫、さなぎ、成虫までもを餌食にしてしまうのです。

 どんなに獰猛で、ゴツいアリかと思えば、体長は、1mmほど。これが、体長2cmを超えるアリや体中にトゲを生やしたアリ、鋭い大顎を持ったアリなどを襲います。こんなアリです。



 とても勝ち目のなさそうな戦いに挑む彼らの戦略の第一は、とにかく数で勝負、ということ。

 女王アリと働きアリが形成するコロニー(家族集団)は、普通数十匹から、数千匹で、1万を超える事はほとんどありません。ところが、このアリは、なんと5万匹から30万匹が集団行動するといのですから、凄まじい。獲物のアリに、数十匹が取り憑いて、切り刻んでしまう。
 戦闘部隊が、巣口で戦っている間に、後続部隊が続々と押し寄せ、死体を運び出します。あっという間に、巣は空っぽにされてしまうというわけです。
 さて、数に頼るといっても、一糸乱れず、統制の取れた集団行動をしなければ、戦いに勝てません。

 そこで、彼らが、採用した第2の戦略が、「目をなくしてしまうこと」。

 ものが見えないから、お互いに、体をくっつけ合っていないと迷子になってしまう。先頭集団の動きが、ごく自然に集団全体に伝わって、統制の取れた行動が可能になるというわけで、実に過激な戦略だけど、理に適っている。

 そして、彼らは、巣も捨ててしまいました。

 物陰で野営しながらの集団放浪生活という道をあえて選んだのです。これだと、エサになるアリの巣を探しやすいという利点がある。さらに、帯状の隊列を作って移動しているから、獲物の巣を見つけた時、一斉に攻撃できる、という利点が加わります。

 かつてのモンゴルの軍隊を彷彿とさせる「生きる知恵」です。

<アリに化けるハチ>
 アリになりすまして、アリの巣の中に住み着き、まんまとエサを横取りしてしまうハチがいます。

 騙すほうは、エイコアブラバチという寄生蜂で、騙されるほうは、トビイロケアリというごく普通のアリ。このハチの大きさは、アリの半分くらいで、羽が生え、糸状の触覚を持つなど、姿は全く似てません。

 で、何で騙すかというと、アリが仲間を識別するための体表ワックス(炭化水素の混合物)を利用するというのです。ハチは、そのワックスを、自分のカラダにこすりつける必要があるのですが、その方法がスゴいです。普通にカラダを密着させにいっても、カラダの大きなアリに食われてしまいますから・・・

 アリの巣に忍び込んだハチは、手近にいるアリに飛び乗って、押さえつけます。前足と中足でアリの足を取り、強く締め付けます(プロレスの「コブラツイスト」技(アントニオ猪木が得意にしてました)を想像してください)。

 アリも必死にもがきますが、ここで、ハチから、とっておきの必殺技が出ます。片方の後ろ足で、カラダを支えながら、もう片方の足で、アリの腹部を小刻みに擦(こす)るのです。
 そうすると、アリは、睡眠薬でも飲ませれたように、おとなしくなり、眠ってしまうのです。ハチは、30分ほども存分にカラダを密着させ、ワックスを盗み取る、という次第です。

 あとは、そのワックスで、仲間のアリになりすまして、エサを、かすめ取るだけですね。それにしても、この必殺技、人間に応用できないのかな、などと、不埒(ふらち)なことを、想像しちゃいけません、いけません。

 いかがでしたか?次回をお楽しみに。