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第228回 ネコとカストラート

2017-08-04 | エッセイ

 猫の額みたいな我が家の庭を、近所のネコが我がもの顔で、よく通っています。飼いネコか野良ネコかは分かりませんが、5~6匹くらいが縄張りにしてるようです。

 先日、1階のリビングで本を読んでいて、ふと目をやると、ひょろっとした三毛猫が歩いている。牽制のつもりで、ガラス戸をコンコンと叩くと、こちらを振り返って、にらみ返してきました。10秒ほどにらみ合ったでしょうか、「ええ根性しとるやないか」とそのネコが気に入って「三毛太郎」というベタな名前を、勝手につけました。

 不思議なもので、名前をつけると、その動静が気になる。読書の合間に、ちらっ、ちらっと庭に目を向けるようになって、愛猫家ビギナーの誕生(見るだけで、飼うまでの気はさらさらありませんが・・・)。

 ネコといえば、野良ネコが増えたり、意に添わない妊娠などしないように、オス、メスを問わず、去勢手術をしている飼い主が多いようです。
 動物行動学者の竹内久美子さんのエッセイを読んでいたら、ネコを去勢をすると、寿命が伸びるという効果もある、と書いてありました(愛猫家には常識かも知れませんが)。

 オスの場合で、平均3年といいますから、人間に当てはめれば、10数年にもなります。少しでも長く一緒にいたい飼い主にとっては、ありがたいことに違いありません。
 ただし、メスの場合は、その効果は、半年程度だそうで、だいぶ差があります。

 なぜかというと、オスの去勢で除去する睾丸から分泌される「テストステロン」という男性ホルモンには、免疫力を低下させる働きがあるから、というのです。去勢は、免疫力に悪影響を与えるホルモンの供給元を断つことになり、その点では、寿命を延ばす効果がある、というのが女史の説明です。
 
 もちろん、テストステロンには、悪い面だけではなく、筋肉、運動能力といった男性の特質を引き出す役割もあるので、一方的に悪者扱いには、出来ないのですが・・・

 で、人間の場合はどうかということで、彼女の関心は、かつて存在した「カストラート」と呼ばれるオペラ歌手たちに移ります。

 思春期前の7~11歳の少年を去勢(タマ抜き)し、いわゆる「声変わり」がしないようにします。その結果、男性でありながら、ソプラノか、それに近い音域の声が出せる一方、成長ホルモンは分泌されるので、身長、骨格、肺活量などは、成人男子とほとんど変わらず、官能的で迫力のある声が人気を集めたと言われています。

 17~18世紀のイタリアで全盛を極め、記録に残る最後のカストラートは、1922年に亡くなったアレッサンドロ・モレスキとされています。こちらの方。



 人間の場合、果たして、寿命を伸ばす効果はあるのでしょうか?彼女が調べたところによれば、生没年が分かっていて、天寿をまっとうしたカストラート19人の死亡時年齢は、次のようになっています。

 80代 3人
 70代 6人
 60代 7人
 50代 2人
 40代 1人

 約半分が70代以上ですから、活躍していた時代背景などを考えれば、かなりの長命率といえます。動物という括りのなかで、共通の原理が働いているんですね。

 免疫力低下というマイナス面と、男らしさ(あくまで、社会的、文化的なものですけど)を支配する「テストステロン」を身に抱え込んだ男という存在。

 男に生まれついた我が身を、いまさら、どうこうできません。もはやテストステロンなんか出てないと思うんですけど、せいぜい健康管理に気を配って、(酒も控えめにして)日々を過ごして行こうと思います。

 いかがでしたか?それでは次回をお楽しみに。