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第229回 外国人にとっての日本語

2017-08-11 | エッセイ

 随分昔の話ですが、かつて、私の部下だった女性が、イギリス人と結婚して、向こうで暮らすことになりました。「しばらくは、ほかにすることもないので、日本語でも教えようかなぁ、と思ってる」とのメールが来たので、「漢英辞典」(漢字の意味や熟語を、英語で説明した辞書)を送ったりして、サポートしましたが、その後、この件について、報告はないので、どうも諦めたみたいです。

 何十年使い慣れてきた日本語を教えるのだから、簡単、簡単と思いがち(彼女がそうだ、というわけではないですが)。だけど、考えてみれば、体系立てて教えるには、日本語はもちろん、日本の文化、習慣なども含めた幅広い知識を大前提として、「教える技術」も大切なわけで、気軽にチャレンジできる分野ではなさそうです。

 「日本人の知らない日本語」(蛇蔵&海野凪子 メディアファクトリー)というコミックエッセイのシリーズがあります。日本在住の外国人向けの日本語教師としての悲喜交々の日々を、面白おかしく描かれているのを読むにつけ、そんなことを感じます。こちらです。



 女性の生徒が、突如、授業中に体調をくずして、救急車で病院に運ばれるエピソードがあります。付き添っていった日本語教員から、著者があとから聞いた話では、患者が、日本語学校の生徒で、ある程度通じると分かった医者が、矢継ぎ早に質問する。

 「どうされましたか」「腹痛と伺いましたが心あたりは」
 しかしながら、全く通じない。そこで、日本語教師が、医者の「日本語」を、
 「どこが痛いですか」「朝、何を食べましたか」と彼女に分かる「日本語」に通訳して、やっと話が通じたという。生徒の学習レベルに会わせた「日本語」でコミュニケーションを取れる技術というのも、日本語教師に必須である事がよく分かる。

 日本語が分かるとなったら、相手のレベルも考えずに、普段の日本語でしゃべってしまうーこの医者のことを笑えないと思います。で、著者が、日本語初級程度の外国人を想定して説く「外国人に分かりやすい日本語とは?」が興味深い。

 1.「です」「ます」で話す。
  「ここをグッと推すのよ」ー>「ここを押します」
 2.漢語ではなく和語を使う
  「腹痛」ー>「お腹が痛い」
  「朝食」ー>朝ごはん など
 3.過度な敬語を使わない(あくまで、円滑なコミュニケーションのため)
  「恐れ入りますが、お名前をご記入いただけませんか」ー>「お名前を書いてください」
 4.文章は短く
  「場所が変わったのであとで地図を渡したいんですけど今日(きょう)って何時までいますか」ー>「場所が変わりました。あとで地図を渡します。今日は何時までいますか」

 英語圏の人間が、日本人を含む「外国人」にこれくらいの配慮というか気持ち(特に、「文章は短く」あたり)を持って、接してくれたら、随分楽なのに、と逆に思ったりします。

 そうそう、ある程度、日本語が話せる外国人に共通の悩み、という話題も取り上げられてます。それは、日本人の場合、外国人イコール日本語が話せない人、という思い込みが強いこと。

 せっかく「あの~、すいません」と日本語で話しかけたロシアの女性。「ノー、ノー、アイ・キャン・ノット・スピーク・イングリッシュ」と、会話の入り口で、会話を拒否された。「私も英語話せないのに・・・」
 う~ん、確かに日本人にありがちな反応で笑える。

 そこで、在日20年のオーストラリア人が、生み出した「日本人に逃げられない話し方」が紹介されてる。それは、頭に「え~っとね」をつけるだけ。彼によると、この手で、何年も逃げられてたタバコ屋のオバちゃんとの会話に成功した、というから効果絶大に違いない。

 いかがでしたか?好評なら、「大阪弁講座」「英語弁講座」につぐ、世界の言語シリーズ第3弾「日本語弁講座」として、シリーズ化しますかね?まあ、あまり期待(?)しないでください。

 それでは、次回をお楽しみに。