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第165回 人名いろいろ

2016-05-13 | エッセイ

 随分前のことですが、父親が「悪魔」という名前で、息子の出生届けを出したところ、受理を拒否された、という「事件」がありました。法律違反というわけではないが、社会常識に反するというのが理由だったようです。命名の自由みたいな議論もまきこんで、すったもんだの末、最終的に「亜駆」で受理されたような記憶があります。分解すれば「亜・区・馬(あくま)」。知恵者がいるんですね。「悪魔くん」、その後、どうしてるんでしょう?グレてなければいいですが・・・
 
 私が生まれた時、下の名前をどう付けるかで、両親は、姓名判断に凝っていた親戚に相談したといいます。そうしたら、2つ候補が挙げられて、ひとつは、「芸術的才能に恵まれる」、もう一つは、「おカネを残す」。
 「あの時は、生活が苦しかったからねぇ~」というのが母から何度か聞かされた話。そんな母の思いを託した私の名前ですが、残念ながら、当ってる実感はありません。「これから」に期待?

 「世界の名前」(岩波書店辞典編集部編 岩波新書)は、様々な国、地域、時代、神話などに登場する人名にまつわるエッセイ100編を集めた本です。人名と一言でいっても、いろんなルール、しくみがあり、いろんな歴史や思いが詰まっているのだ、とあらためて興味をいだかせる内容です。2つの国の例をご紹介します。

 まずは、チェコです。

 チェコ語の姓には、不思議なものがあるそうで、動詞の過去形(・・・・ル(~した))を使ったもの。
 フラバル「掻いた」(何を?)、クヴァビル「急いだ」(どこへ?)、ドレジェル「存分に寝た」(うらやましい)など。テニスで有名なナブラチロワは、「返した」の女性形で、テニスボールを対戦相手に返した、と取れるぴったりの名前。こちらの方ですね。



 更に、否定の「ネ・・・・ル」との形をとる姓も少なくないらしい。ネズヴァル「呼ばなかった」(誰を?)、ネタヴァビル「急がなかった」(なんで?)などの例が紹介されています。

 否定の「ネ」を付けた名詞型の姓にも、気の毒なものが多い。意味だけ記すと、「悪さ」、「惨め」、「不健康」、「悪天候」、「無為」などなど。う~ん、ホントに気の毒としか言いようがありません。

 もうひとつは、イタリア。

 郵便はロクに届かない、交通ルールは誰も守らないなど、かなり「いい加減」な国の割に、命名について、法律で、いくつかの制約があります。

 ちなみに、日本の場合は、使える漢字が決められてるだけで、どう読ませるかは自由。ところが、イタリアではいろいろシバリがあります。

 まず、生きている父親や兄弟姉妹と同じ名前はダメ(母親はオッケーというのも不思議ですが)。
 滑稽な名前、恥ずべき名前もダメ。「悪魔」なんてのは、当然ダメでしょうが、じゃ、何が滑稽か、恥ずべきかという基準があいまいなのが、これまた、いかにもイタリア的。

 例えば、「金曜日」(ヴェネルディ)は、ダメだが、「ルフトハンザ」(ドイツの航空界社名)は、問題なしとの判決が出ているという。「金曜日」の代わりに、裁判所が付けた名前が「大グレゴリオ(グレゴーリオ・マーニョ)」というのだから、ますます訳が分かりません。いやはや。

 いかがでしたか?それでは次回をお楽しみに。

<追記>後ほど、「人名いろいろ」をシリーズ化してお届けしています。「第258回」「第295回」そして「第384回」です。合わせてご覧いただければ嬉しいです。