どこか知らない遠い地で生まれた風が、遮られるものも無いままに長旅をしてきて
遂に僕の住む団地の壁に当たった
急カーブを曲がりきれない奴らが小さな排気口の蛇腹に分断されて、
ゼヒョ~と悲鳴をあげながら家の中に入ってくる
120世帯あるこの団地は今
120音階のハーモニカ
彼らが部屋の中に連れてきた、彼らが旅をしてきた街々の匂いに吹かれ包まれながら、
僕は自分号という名の飛行船になる
いつしか風を生み出すのは僕
になる
一気に上空に舞い上がり、
キミの住む街の、キミの住む家の、キミの部屋めがけて急下降する
ほんの少し開いた窓の隙間から、小さなつむじ風の素振りをして入り、
そしてキミの頬にそっと口づけた
引っかけて引っかけて
グルーブの回転に遠心力をつけて
腕が千切れそうになるギリギリまで
そして心がむせび泣くのを越えて
真空の只の真っ白になって
ポカ~ンと阿呆鳥みたいになるとこまで行かなきゃ
弾いたことになんかならない
長年付き合いのあるピアノの小林くんと二人リハをした
小林くんと二人だと必ずそうなるから
こんなに細かく気難しい僕でさえ、ご機嫌になる
(引きこもるのはやっぱりやめよう..)
気分良くウチに帰って玄関を入ったら
もうすっかり坊主頭が馴染んだ竹斎先生が
猫のような目でジッとこちらを見ていた
無性に抱きしめたくなって
抱き上げ、顔をつけて汗とお乳の匂いを嗅ぐと
それは今日もとても良い匂いだったから
僕はまたポカ~ンと阿呆鳥みたいになって
少し話して
少し遊んで
そして夜ひとりで
阿呆な絵を描いた