時のうねりのはざまにて

歴史小説もどきを書いてみます。作品と解説の二部構成で行こうと思います。

蒲殿春秋(二百十四)

2007-12-02 05:11:08 | 蒲殿春秋
範頼が鎌倉を辞去する日が訪れた。
兄に言われた通り文を二通したためて安達盛長の妻小百合に預けた。
婚約者瑠璃としばしの別れを名残惜しんだ。
瑠璃と親しくなるきっかけを作ってくれた新太郎をもう一度抱き上げた。
今までの厚情に礼を申し述べて範頼は安達館を後にした。

舟に乗り鎌倉を離れる。
遠ざかる岸を見つめながら不思議な想いがした。
来るときはどのような状況が待ち構えているのかという不安があった。
けれども、兄頼朝は自分を受け入れ、弟の全成、義経とも再会できた。
姉の無事を知り、都にいる姉と養父藤原範季に文を差し出すこともできた。
その上妻となる人と巡り合うことができた。
舟には頼朝からの多くの引き出物が積まれているがそれ以上に鎌倉に行って得たものが多い。
三河に戻る。
この先どのようになるのかは判らない。
平家が再び押し寄せる可能性もあれば、今まで自分を支援してくれていた人々が離反することがないとは言えない。
けれども、今回鎌倉を訪れたことはこの先大きな助けになるであろう。

道中範頼は海の上から富士山を眺めていた。
その視線に数隻の舟が東に向かうのが目に入った。
その舟は治承以来の内乱の戦局を少し変えることとになるのであるがそのことを範頼はまだ知らない。
東海道を行き来する舟が通る海の上はしばしの平和の中にあった。

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