時のうねりのはざまにて

歴史小説もどきを書いてみます。作品と解説の二部構成で行こうと思います。

蒲殿春秋(二百十二)

2007-11-25 13:06:56 | 蒲殿春秋
参議藤原光頼、左中弁藤原経房、前右中弁平親宗
などなどの名が記されている。
この人々はみな「後白河院の近臣」もしくは上西門院に近いと目されている人々である。
さらに云えば藤原経房は何度にもわたって「源頼朝、源信義追討の宣旨」の発行手続きをした人物であり
平親宗は現在の平家の総帥平宗盛の母方の叔父である。
このような人々の文さえも現在頼朝の手元にある。
他にも「院の近臣」と思われる人々から差し出された文がある。

「兄上これは」
「見ての通り、院の近臣と呼ばれる方々じゃ。
わしに誼を通じようと文をよこしてきておられる。」
「でも、何ゆえに」
「そなたは、わしが伊豆に流される前は何をしていたか存知ておるであろう。」
「はい。確か上西門院さまにお仕えしていたと。」
「左中弁殿(藤原経房)、前右中弁殿(平親宗)はその頃わしと一緒に上西門院様にお仕えしていた。
その方々は今は院の近臣となっておられる。
わし自身かつて何度か院に拝謁したことがある。
また、院も一時期われらが父上を頼りにされていた時期がある。
つまりじゃ、わしは院に近づくことができる手づるを持っているということじゃ。」

確かに上手くいけば兄は院に近づけるであろう。
「しかしじゃ。都は現在わしらが敵とみなしている平家に抑えられている。
平家もわしらを叩き潰す意志は変わらぬようじゃ。
平家が都で睨みを聞かせている限り、院は表立ってわしらを認めることはできぬ。
よってわしが上洛して院と平家を切り離せばならぬのじゃ。」
範頼は沈黙した。
兄の言うことはもっともでもあるが、まだ腑に落ちぬものがある。

「しかし兄上、院が兄上をお認めになられても帝は平家の外孫でございます。
そのことに関しましてはどのように思われまするか?」
「六郎、帝は誰によって決せられる。」
「治天の君たる院がお定めになられます。」
「そして、今上の帝はまだ御元服なされていない。幼き帝は院の支えなくば立ち行かぬ。
院が今上の帝を認めなければ、今の帝は帝ではいられなくなる。
帝が幼いうちに他の皇子を即位させればそれで良い。
平家が寄って立つ基盤はこれで崩れる。さすれば、いずれわしらが官軍という立場になる日も参ろうぞ。」
兄の眼が鋭い輝きを放った。

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