時のうねりのはざまにて

歴史小説もどきを書いてみます。作品と解説の二部構成で行こうと思います。

蒲殿春秋(二百十一)

2007-11-24 06:05:03 | 蒲殿春秋
「今回の謀叛には大義名分がある。
わしらは、高倉宮(以仁王)の令旨に従って立ち上がった。
単なる謀叛では離反が相次ぎいつかは討伐される。しかし、大義名分がある謀叛であれば
謀叛の名が外される日がいづれ訪れるやもしれぬ。
だが、しかし・・・」
兄は言葉を区切った。
「高倉宮はすでにこの世にはおられぬ。」
範頼は兄を見つめなおした。
そのことは、各地で挙兵したものたちも東国武士達も実は承知しているであろう。
甲斐源氏の人々も、以仁王は実は生きているとの風聞を広めて以仁王の令旨の正統性を
保とうとしている。いつまでそれが持つのかという限界を感じながら。

「だが、それに対しても手立てはある。
一つは、高倉宮の令旨を出すのに密かに手を貸されたといわれている八条院様
のお力にすがり、他の宮様を皇位に担ぎ上げること。
だが、わしは、八条院様とはつながりがほとんど無い。
わしには、それができぬ。
だが、わしにはもう一つの手立てがある、それは」
ここで頼朝は弟を強い目線で捉えた。
「院、治天の君たる院をお支えしてそのご承認を頂くということならばできる。」
範頼は不思議そうな顔をした。
「院は先年平相国(清盛)に鳥羽殿に押し込められて、政に一切関わることが
おできにできなくなった。その間に即位されたのが今の帝じゃ。
ただいまは右大将(平宗盛)とは平穏にいっているようであるが、院は決して
今上の帝に対しても平家に対しても心を許してはおられぬ。
そこに、わしのつけこむ隙がある。」
「しかし、兄上そのことは可能なことなのでしょうか?」
不審そうな顔をする弟。
兄は立ち上がり、数束の書状を持って弟に差し出した。
「これを読まれよ。そしてその書状を書いた方々のお名を見られよ。」
と兄は言う。

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