時のうねりのはざまにて

歴史小説もどきを書いてみます。作品と解説の二部構成で行こうと思います。

蒲殿春秋(二百十)

2007-11-21 05:32:52 | 蒲殿春秋
頼朝に対面した範頼はまず、勧められた縁談を受けることと
それを勧めてくれたことへの礼を申し述べた。
「よかった。藤九郎の娘を幸せにしてやってくれ。」
と兄は言った。

その後これから三河に帰ることを申し述べた。
その際次のように尋ねた。
「兄上、兄上は上洛の準備をなされていると聞き及んでおりますが
本当に上洛なさるのですか。」
頼朝は弟をじっと見据えた。
「いずれは、上洛する。折をみてな。」
「いつ頃にあいなりましょうか?」
「折を見て、じゃ」
弟も兄の顔を見つめる。
折とはいつの事なのかと聞こうと思ったが、聞けなかった。
坂東をめぐる情勢は流動的である。おそらく兄もいつになるとなとは明確に答えられないのであろう。
「ところで、兄上、何ゆえに上洛なさるのですか?」
「六郎、わしらは現在都の人々からどのように見られていると思うか?」
それに対する答えは、率直な言葉で言うのははばかられた。
答えにくそうにしている弟に兄は促した。
「構わぬ、遠慮なく申せ」
「・・・謀叛の輩であると・・・」

「その通りじゃ」
兄は満足そうに答えた。
「わしらのしていることは確かに『謀叛』である。
しかし、謀叛するにもする側の道理がある。
みだらに世を乱すことを目的にしているのではない。
それは判ってくれているであろう、六郎。」

確かに、都から見れば謀叛でしかない全国各地の武力蜂起ではあるが
謀叛と見られる行為を行なった人々にはそれなりの理由がある。
治承三年、平清盛が後白河法皇を幽閉して後白河院政を停止させ
清盛が政治の実権を握り院やその近臣から知行国を取り上げて
全国に平家の知行国を増やしたことが今のこの各地の謀叛に繋がっている。

それまで全国各地では、在地の有力者同士が夫々所領や国衙の権利取得などを巡って対立が続いていた。
そのような中、平家が知行国を急激に増やして、平家に近づくことに成功した勢力のみを
取り立てて支援したものだから全国で混乱が起きた。
平家に近づくことができなかった者は、平家の支援を受けたものから様々な抑圧を受けることになった。
抑圧を受けたものは事態の打開を狙っていた。武力の行使もやむをえないと感じていた。
折りしもそこへ「平家の支援を受けた安徳天皇に代わって皇位を得る。自分に味方したものには恩賞を与える」
という「以仁王の令旨」が全国にもたらされた。

親平家勢力の抑圧に苦しんでいた者達はこの「令旨」とそれを受けた各地の「貴種」を
旗印にして立ち上がった。
それが今回都の人々から謀叛と見られている行動の実態である。

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