時のうねりのはざまにて

歴史小説もどきを書いてみます。作品と解説の二部構成で行こうと思います。

蒲殿春秋(二百一)

2007-11-02 05:49:36 | 蒲殿春秋
秋の気配が強くなった浜風を浴びながら範頼は大蔵御所へと向かった。
歩きながら、この縁談の真意は何なのか兄に問おうと思っていた。
縁談というのもには勧めるものの思惑が何かしらあるものである。
その思惑が何なのか知りたい。
知った上で、安達家の娘を妻に迎えたい。

参上を伝えると頼朝はすぐ対面してくれた。

話の内容はやはり安達家の娘との縁談であった。
覚悟はしていたとはいえ実際に兄から言葉を出されると戸惑いの表情が顔に浮かんだ。
「返事はいそがぬ。よく考えて返答するが良い。」
と頼朝は言う。

沈黙の時間が流れた。
やがて範頼は意を決して兄に尋ねた。
「お心遣いありがとうございます。されど、何ゆえ私と藤九郎殿の娘御とのご縁を
お考えになられたのでしょうか」
「良い縁とおもったからじゃ。」
「・・・・・」
「藤九郎の娘を本当に幼い頃からわしは知っておる。
本当に聡い娘じゃ。あれならば人のよき妻となろう。
それから、わしが藤九郎の一族には深い信頼を寄せているというのもある。
流人として伊豆にいた頃から、藤九郎とその内室はわしに仕えてくれた。
この先流人としての未来しか考えられなかったわしに誠心誠意仕えてくれた。
先には何の希望も光も見えなかったわしに・・・
そして、内室の母御はわしの乳母。
流人であって日々困窮していたわしに生活の資を欠かさず送ってくれた・・・
このように誠実な一族の娘と一緒になることで、そなたは幸せになれると思っている。」
「兄上!」
「そして、そなたは藤九郎の娘を幸せにしてくれる、わしはそのように信じておる。」
範頼はしばらく言葉が出なかった。

「そなたに見せたいものがある。」
そう言って今度は自ら文机の上から書状を一通大切に取り出して範頼の方へと差し出した。

筆跡を見て誰からの文かということがたちまち判った。
都にいる姉からの文であった。

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