時のうねりのはざまにて

歴史小説もどきを書いてみます。作品と解説の二部構成で行こうと思います。

蒲殿春秋(二百九)

2007-11-18 15:31:57 | 蒲殿春秋
頼朝は安達家からの報告を受けていた。
範頼が瑠璃に求婚したこと、そしてその前に遠江に使者を走らせていたことも。

数日後範頼は頼朝に三河へ戻る旨を伝えてきた。
そして、挨拶の為面会を望んでいることも同時に伝えられた。

範頼が三河に戻ることには異存が無い。
いや、そろそろ戻ってくれなければ困るのである。
範頼の留守の間に派遣した安達盛長は心許せる側近
そして、和田義盛は頼朝の元に集う御家人を統制する侍所の別当なのである。
頼朝の勢威を三河に及ぼすのにこの両名が彼の地にいたことの意義は大きいが
その二人に長い間鎌倉を留守にされるのもやはり不都合である。
範頼と入れ替わりに、鎌倉に戻って欲しかった。

それに、範頼が瑠璃との婚儀に了承してから三河に帰るのならば
婚儀の打ち合わせと称して、盛長をこの先何度も三河に派遣できる。

今回の縁談がうまくいけばよい。
頼朝は本心からそのように思った。
唯一つ、範頼が遠江にこの時期使者を送ったことだけが気に障った。
あの使者は恐らく安田義定への連絡だろう
そして、その趣は今回の縁談の了承を得ることにあったであろう。

━━ 六郎、やはりそなたと安田とのつながりは侮りがたいものがあるな。

頼朝はそのように思ったかもしれない。

弟範頼に対してもう一つ手を打たねば。
範頼の面会の要請に対して了解をした頼朝は、どのように対面するか思案していた。

一方範頼も兄に対して一つ問うておきたいことがあった。
鎌倉にくる直接の要因である、頼朝の上洛の真意である。
縁談の了承と礼を述べると共にそれを問わねばならぬと思っていた。

兄弟は夫々の思惑を胸に、しばしの別れの為の対面を迎えようとしていた。

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