居酒屋「越路」（佐渡佐和田諏訪町） 投稿者：佐ガット覆面調査員

正月早々、佐和田で珍しい居酒屋に出会った。その名を「越路」と言う。越路吹雪のような美人ママがいる格式の高いお店か？とみまごうような重厚な茶色の扉がお出迎え！表面には、「諏訪町商店会　謹賀新年」というポスターが張られている。嫌が上にも期待感が高まった。ただ、すがすがしく、そして真新しい新年のポスターの上に「鬼太鼓」という古いラベルが貼られていたのがちと気にはなった。果たして店内に入ってみると、マスターが一人、カウンターに腰をかけ背を丸くしながら、テレビの週間番組表を虫眼鏡を使用して熱心にチェックしていた。それ以外は人影は皆無！筆者が「やっていますかあー」と尋ねたら、天才バカボンのパパによく似た風貌のマスターはようやく客の存在に気づいたらしく、こちらを振り返りながら、「ええやっていますよ、どうぞ」とカウンターのやや薄汚れた黒い合成皮革製の椅子を勧めた。椅子には所々切り裂いたような跡があり、それらを修繕せずにそのまま放置してあった。ところが店の片隅には、青い柄模様の布で覆われたえらく立派なソファーがどっしりとした焦げ茶色のテーブルを挟むような格好で設置されていた。あの席にはVIPでも座らせるのだろうか？そう思わせるほどその一角だけは、カウンターの椅子にはまるで似つかわしくない一種異様なゴージャス感を漂わせていた。その応接セットの上方には、献立表を記載した青と白のツートーンカラーのパネルがあった。お料理はと言うと、「やきとり、レバ刺し、冷奴、湯豆腐、もつ豆腐、なめこおろし、月見いも、雪見納豆、月見納豆、お新香、おひたし」とだけ書かれていて、およそ佐渡らしくない品書きで埋め尽くされていた。「その他季節料理あります」という但し書きが付いてはいたものの、「本日のお勧め料理」などという記載はなかった。これで全てなのだろうか？

店内は、石油ファンヒーターと芯式の石油ストーブの二本立ての暖房システムでほどよく暖められてはいたが、どちらかの一システムが不完全燃焼を起こしており、石油臭ささが店内に充満していた。それはもう鼻をつまみたくなるほどの臭さで、５分も居ると次第に頭がくらくらし始めた。マスターの「何になさいますか？」の問いに、「ゆ、ゆ豆腐をお願いします」と言うのがやっとであった。

ミッキーのお財布（スナックアリス） 投稿者：佐渡の翼

このママさん、カクテルを運び終えると急いで踵を返し、厨房に行き、フライパンに油を敷いて何やら炒めものを作り始めた。先客の相手はそっちのけで、やけに丁寧に作っているようだ。焼き蕎麦でも作って、ご近所に出前するのか？と思ったくらいだからだ。カルーアミルクを飲み終える頃に、ようやくママさんが当方の前に付き出しを持って現れた。なんだ筆者のおつまみを作っていたのか。ようやく得心したが、眼の前に出された物は、炒めたベーコンにマヨネーズをかけたキャベツが添えられたおつまみであった。筆者が、みなみ旅館さんの時のように、「あ、これは要らないから」と手を振ると、ママさんは「あら、ベーコンお嫌いなんですか？」と言い、「ではその分引いておきますね」と言った。おつまみを手付かずで残したら、カルーアミルクのお代は550円にまけてくれた。こういう対応と言うのも実に佐渡らしくて良心的だ！「お客さんが少ないですね」と言うと、「休みの日はいつもこの調子なんですよ、これからお客さんが来ると思いますけどね」とママさんは不景気のふの字も言わずに強がりを言ったように思えた。「クリスマスだと言うのにねえー」と筆者が言うと、ママさんは「クリスマスは私達暇が無いんです」と言った。ふと見たら、ボトル棚の所に、「セール！１２月２４日はビール650円を350円にします」と書かれた張り紙があるのが目に入った。このママさんらしき人は、ママさんではなく、実はその娘さんであることを後で知った。この女性の美人度ならば、さぞかしクリスマスは大勢のお客さんで賑わうであろう。

筆者がバーバリーブラックレーベルの白のロイヤルコマンダーコート（ダッフルコートにあらず）からミッキーのお財布を取り出して、小銭を探していたら、ママさんがこのお財布をめざとく見つけ、「あらあー、ミッキーちゃんのお財布、可愛いですね。ミッキーちゃんがお好きなんですか？」とようやく満面の笑みをこぼしながら言ったので、「ええ、まあ、うん」と曖昧に答えて店を出た。どうやらこのお財布が島外の一見客に対する彼女の警戒心を解いたようだった。アリスはとても素敵なスナックだった。

高級キャバクラでこうした小物をさりげなくちら見せすると、１０人のうち、９人の女の子は、これをめざとく見つけて何がしかを言う。そしてそれをきっかけに会話が弾み盛り上がってくるのが常だ。いわばキャバクラで女の子にもてるための小道具なのだ。こういう小物はこれ見よがしに出してしまうと効果が薄い、あくまでもさりげなく出さねばならぬ。例えば「あ、俺、帰りのタクシー代持ってたかなあー」などと言いながらそっとポケットの中から財布を取り出し、その中身を確かめるような感じでやるべきなのだ。でもこのもてるための小道具は22,000円もする。筆者は伊勢丹メンズ館のジャム・ホーム・メイドでそれを購入した。