リッチな洋館の屋根。そこはこの街の猫たちが集まるたまり場。
とがった月が見守るしたで、今宵も猫たちのおしゃべりが聞こえてくるのです。
"お前のところのご主人は毎晩ベランダから抜け出してどこへ行ってるの?"
"かわいい女の子のところへさ。昨日は庭のバラをつんで塀を越えたところですべて落としちまった。"
"まぬけなところが顔にあらわれてるや"
"だが、ご主人はやるじゃないか。花びらをあつめて、胸のポケット入れていったよ。
ちょっとぬけてるが、それでも女の子をモノしていくところがすごいだろう"
すっとしなやかな動きであらわれた赤い首輪の黒猫が、
"どうして人さまもネコも、オスってのはしつこいんだろうねぇ"
"ほう、これは主役のお出ましだな"
十匹ほどのネコのたまり場の中央にしずしずと黒猫が割って入ってきて、
"みなさん、おひさしぶりね"
"こんなゴロツキの集まりには参加しないんじゃなかったかね?"
"まあね、でも、こんな真夜中にいろんな鳴き声をきかされちゃ、眠れやしないわ。"
"なにかシャクにさわることでも?"
"そんなんじゃないの。ただ眠れないのよ。"
"そんな顔には見えないけどね。"
"あら、気分が顔に出るのは人間だけよ。わたしたちは仮面をつけているようなものよ。
そう、ちょっと聞きたいことがあってね・・。"
"ほら、そいつは顔に出てるぜ。"
そう言う、ノラをきっとにらんで、
"わたし、しつこい詮索は嫌いよ。"
そっぽを向いて歩きはじめようとする黒猫に、
"そうカッカしなさんなって。誰もからかおうとしてるんじゃないだから。
せっかく来たんだろ。で、聞きたいことって何だい?"
黒猫はちょっと動いたが、思いとどまって、
"あの尖塔に住んでいる猫のことを知らない?"
黒猫がまなざしを向けた先。そこは洋館からすこし離れたことろにあるうす汚れた教会の建物。
"あそこに住んでいる猫がどうかしたのか?"
"知らないの?"
"誰か知ってる者はいるか?"
なにも返事がない。
"素敵な夜を過ごしてね。"
黒猫が立ち去ろうとすると、
"あの猫には近寄らない方がいいよ"
黒猫が振り向くと、体の小さな三毛が、
"君もあの歌声をきいたんだね。"
"あなたも聞いたの?"
"夜の教会の鐘が鳴る前に、ジプシーが教わったものを唄っているんだよ。
とても哀愁のある切ない歌を。でも、"
"でも、何なの?"
黒猫は三毛に近づいて、
"あの歌声はジプシーから教わったものだから。
近づいてきた猫をジプシーがとってしまうって話さ。"
"そんなの嘘よ。現にわたしは・・。"
"恋いこがれてどうしようもないって?"
"あなたに聞いてはいないわ。でも、その話はどこから聞いた話?"
"実際に見てしまったんだよ。何匹かの猫がとらえられるのを・・。"
黒猫は悲しい声で、
"そんなことがあるはずはない。そんなこと・・。"
誰もがなにも言わず、ただ月あかりの中で、影だけが屋根の斜面にのびています。
"もう近寄らない方がいいと思うよ。"
下を向いていた黒猫だが、すっと屋根の上までかけあがり、
"お話として聞いておくわ。でも、あの瞳はそんなことをするような目じゃなかった。わたしは信じているの。あの歌声とあの瞳を・・。"
悲しい響きを残して、黒猫は去っていきます。
一同、しんみりした空気の中で、
"恋は生命をもかえりみずか・・。"
"おい、この街からメス猫がいなくなったらどうする?"
片目のつぶれたノラがこう言うのです。
"恋の季節、眠りをジャマされない人間たちだけが得をする、か。"
とがった月が見守るしたで、今宵も猫たちのおしゃべりが聞こえてくるのです。
"お前のところのご主人は毎晩ベランダから抜け出してどこへ行ってるの?"
"かわいい女の子のところへさ。昨日は庭のバラをつんで塀を越えたところですべて落としちまった。"
"まぬけなところが顔にあらわれてるや"
"だが、ご主人はやるじゃないか。花びらをあつめて、胸のポケット入れていったよ。
ちょっとぬけてるが、それでも女の子をモノしていくところがすごいだろう"
すっとしなやかな動きであらわれた赤い首輪の黒猫が、
"どうして人さまもネコも、オスってのはしつこいんだろうねぇ"
"ほう、これは主役のお出ましだな"
十匹ほどのネコのたまり場の中央にしずしずと黒猫が割って入ってきて、
"みなさん、おひさしぶりね"
"こんなゴロツキの集まりには参加しないんじゃなかったかね?"
"まあね、でも、こんな真夜中にいろんな鳴き声をきかされちゃ、眠れやしないわ。"
"なにかシャクにさわることでも?"
"そんなんじゃないの。ただ眠れないのよ。"
"そんな顔には見えないけどね。"
"あら、気分が顔に出るのは人間だけよ。わたしたちは仮面をつけているようなものよ。
そう、ちょっと聞きたいことがあってね・・。"
"ほら、そいつは顔に出てるぜ。"
そう言う、ノラをきっとにらんで、
"わたし、しつこい詮索は嫌いよ。"
そっぽを向いて歩きはじめようとする黒猫に、
"そうカッカしなさんなって。誰もからかおうとしてるんじゃないだから。
せっかく来たんだろ。で、聞きたいことって何だい?"
黒猫はちょっと動いたが、思いとどまって、
"あの尖塔に住んでいる猫のことを知らない?"
黒猫がまなざしを向けた先。そこは洋館からすこし離れたことろにあるうす汚れた教会の建物。
"あそこに住んでいる猫がどうかしたのか?"
"知らないの?"
"誰か知ってる者はいるか?"
なにも返事がない。
"素敵な夜を過ごしてね。"
黒猫が立ち去ろうとすると、
"あの猫には近寄らない方がいいよ"
黒猫が振り向くと、体の小さな三毛が、
"君もあの歌声をきいたんだね。"
"あなたも聞いたの?"
"夜の教会の鐘が鳴る前に、ジプシーが教わったものを唄っているんだよ。
とても哀愁のある切ない歌を。でも、"
"でも、何なの?"
黒猫は三毛に近づいて、
"あの歌声はジプシーから教わったものだから。
近づいてきた猫をジプシーがとってしまうって話さ。"
"そんなの嘘よ。現にわたしは・・。"
"恋いこがれてどうしようもないって?"
"あなたに聞いてはいないわ。でも、その話はどこから聞いた話?"
"実際に見てしまったんだよ。何匹かの猫がとらえられるのを・・。"
黒猫は悲しい声で、
"そんなことがあるはずはない。そんなこと・・。"
誰もがなにも言わず、ただ月あかりの中で、影だけが屋根の斜面にのびています。
"もう近寄らない方がいいと思うよ。"
下を向いていた黒猫だが、すっと屋根の上までかけあがり、
"お話として聞いておくわ。でも、あの瞳はそんなことをするような目じゃなかった。わたしは信じているの。あの歌声とあの瞳を・・。"
悲しい響きを残して、黒猫は去っていきます。
一同、しんみりした空気の中で、
"恋は生命をもかえりみずか・・。"
"おい、この街からメス猫がいなくなったらどうする?"
片目のつぶれたノラがこう言うのです。
"恋の季節、眠りをジャマされない人間たちだけが得をする、か。"
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