飛騨の山猿マーベリック新聞

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◆週のはじめに考える 嘘と暴力の共犯関係(プーチン氏の暴走を止めるべきは、主権者たるロシア国民です。人々の覚醒を期待します。)

2022年04月03日 11時29分17秒 | ●YAMACHANの雑記帳
「暴力はそれ自体だけでは生きていけない。常に嘘(うそ)と結びついている。嘘だけが暴力を隠すことができ、暴力だけが嘘をつき通すことを可能にする」。ソ連の反体制作家・ソルジェニーツィン氏(一九一八〜二〇〇八年)の言葉です。一九七〇年にノーベル文学賞を受賞した際の記念講演の原稿の一節です。
 その半世紀後の二〇二〇年、オランダで開かれたマレーシア航空機撃墜事件の初公判で、冒頭陳述に立った検察官がこの一節を読み上げました。
 アムステルダム発クアラルンプール行きのマレーシア航空機が、ウクライナ東部の親ロシア派支配地域上空で撃墜された事件では、乗客・乗員二百九十八人全員が犠牲になりました。
 事件は、ロシア派武装勢力とウクライナ政府軍の軍事衝突が始まった一四年に起きました。現在のロシアによるウクライナ侵攻の序章と言える紛争です。

ロシアの文豪と独裁者

 五カ国の国際合同捜査に基づき、オランダの検察は昨年末、犯行に使われたミサイルはロシア軍基地から持ち込まれたものと断定し、ロシアの元軍人ら四被告に終身刑を求刑しました。検察官はソルジェニーツィン氏の言葉を引用し、ロシア側は知らぬ存ぜぬを押し通して真相を糊塗(こと)している、と指弾したわけです。
 ノーベル賞受賞から三年後、ソルジェニーツィン氏がロシア革命以来の市民弾圧の歴史をつづった長編ドキュメントの「収容所群島」を出版するや、ソ連当局は激しい反ソルジェニーツィン・キャンペーンを繰り広げました。
 「可能な限りの捏造(ねつぞう)をした」「裏切り者」と激しい非難を浴びたソルジェニーツィン氏は、逮捕されて市民権を剥奪のうえ国外追放に。米国暮らしが長く続き、帰国を果たしたのはソ連崩壊後の九四年のことです。
 ソルジェニーツィン氏はスラブ主義的な保守思想の持ち主です。荒廃した九〇年代の祖国を目の当たりにして、ロシア正教を基盤にしたロシア、ウクライナ、ベラルーシ三カ国によるスラブ連合を提唱しました。この考えは、スラブ三カ国を一体と見なすプーチン大統領と通底しています。
 スターリン時代に強制収容所に送られ、身をもって弾圧を体験した文豪。かたや弾圧の手先となったソ連国家保安委員会(KGB)の工作員から成り上がったプーチン氏。案に相違して両氏の関係は良好でした。
 ソルジェニーツィン氏はプーチン氏がロシアに安定をもたらしたと高く評価。プーチン氏も同氏の功績をたたえて「国家賞」を授け、私邸を訪ねたこともありました=写真、ロイター・共同。
 それでも、今のウクライナの惨状をソルジェニーツィン氏が知ったら嘆き悲しむでしょう。
 文豪が指摘した嘘と暴力の共犯関係は、この戦争でも鮮明に表れています。
 プーチン氏は厳しい言論統制を敷いて国民に侵略戦争の実態が伝わるのを防いでいます。メディアが「戦争」「侵攻」という表現を使うのはご法度。政権に都合の悪い情報は「偽情報」と見なされ、訴追される恐れもあります。

真実は世界を凌駕する

 官製メディアは体制に都合のよい偽情報をばらまいて国民の目をくらましている。嘘で暴力の隠蔽(いんぺい)を図っています。
 外界から途絶された世界で体制のプロパガンダを吹き込まれるロシア国民は、圧倒的にプーチン支持です。
 「国民は愛国者と裏切り者を見分けられる。口に飛び込んだブヨのように簡単に吐き出せる」
 こう語るプーチン氏からは、思わぬ苦戦へのいら立ちが見えます。軍事侵攻に反対したり、欧米志向の市民を「裏切り者」「スパイ」と呼ぶさまは、ソルジェニーツィン氏がソ連当局から裏切り者呼ばわりされた過去を想起させます。ロシアはソ連時代に逆戻りしてしまいました。
 「平凡な勇気ある人ができる簡単なことは、嘘に参加しないこと。嘘の行動を支持しないことだ」と、記念講演の原稿で暴力への対抗策を示したソルジェニーツィン氏は、ロシアのことわざを紹介して締めくくっています。
 「真実のひと言は全世界を凌駕(りょうが)する」
 
第1巻、第2巻、第3巻  収容所群島 1918-1956 文学的考察(3冊セット) ソルジェニーツィン 単行本 新潮社 

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