甘利幹事長、高市政調会長、麻生副総裁――。自民党の岸田新総裁の初仕事、党役員人事の顔ぶれを見ると、まるで安倍政権そのものに逆戻り。どこにも岸田総裁の独自色がなく、これでは新政権に期待しろという方が無理だ。傀儡政権は官邸人事も安倍前首相に握られている。
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岸田新総裁の“女房役”となる官房長官に内定したのも、最大派閥・細田派の事務総長を務める松野博一元文科相だ。自派閥ではなく、安倍前首相の出身派閥の大幹部を迎える。かつて安倍前首相が「細田派の四天王」と松野氏を持ち上げたこともある安倍側近だ。
さらには、官邸人事も“安倍カラー”に染められそうだという。4日召集の臨時国会で首相に指名された後に正式決定するが、官邸に“アイヒマン”が戻ってくると囁かれている。
「現在、内閣人事局長を兼務して官僚組織の頂点に立つ杉田和博・官房副長官は80歳の高齢で、体調が思わしくない。今年8月には入院もしていました。秋の交代が既定路線で、後任は菅総理と関係が深い総務省出身者とみられていたのですが、総理の急な退陣で白紙に。仕切り直しの岸田新政権では、第2次安倍政権で“官邸のアイヒマン”と呼ばれた北村滋・前国家安全保障局長が副長官に就任する案が浮上しています。杉田副長官に続いて警察庁OBを充てる方針は、安倍政権を踏襲したものです」(官邸関係者)
“アベ印”の警察OBと経産OB
北村氏は今年7月に官邸を去ったばかり。菅首相と折り合いが悪かったとも言われるが、わずか数カ月で呼び戻されるのか。安倍前首相に近い松野官房長官の下、副長官も安倍長期政権を支えた「チーム安倍」の一員で固めるわけだ。
もっとも、北村氏と岸田総裁には開成高校OBという共通点もある。開成OB初の首相となる岸田総裁は、永田町と霞が関の開成出身者による同窓会組織「永霞会」のバックアップを得てきた。
その永霞会からは、嶋田隆・元経産事務次官が岸田総裁の政務秘書官として官邸入りすることも検討されているという。安倍首相時代に権勢をふるった今井尚哉秘書官(当時)のようなポジションだ。
「嶋田さんは開成つながりというより、経産省同期の今井さんが推している。今回の総裁選で、今井さんは早くから岸田陣営に出入りして選挙参謀を務めていました。話題になった小さな『岸田ノート』のアピールも今井氏のアドバイスだと言われています。選挙戦の最中から、岸田政権になれば今井さん本人も補佐官として官邸に戻ると言われていた。宏池会(岸田派)は伝統的に財務省と近いし、岸田さんは外相経験も長いのに、岸田官邸が経産出身者を重用するのは意外ですが、それだけ安倍前総理の影響力が強い政権ということでしょう。“コネクティングルーム”で有名になった和泉補佐官ら菅総理の側近はパージされ、官邸官僚は安倍前総理に近いメンメンで固められることになるかもしれません」(経産省関係者)
菅氏はまがりなりにも安倍政権でハバを利かせていた経産官僚を脇に追いやって、官邸人事で独自色を出そうとした。岸田総裁は官邸官僚まで安倍前首相の言いなりで継承するつもりなのか。情けない話だ。
予算委質疑せず14日衆院解散へ
その岸田新総裁が、衆議院を10月14日に解散する方向で調整していることが分かった。複数の党幹部が明らかにした。衆院選は「10月26日公示―11月7日投開票」の日程が濃厚だ。
岸田総裁は4日召集の臨時国会の冒頭で首相に指名された後、新内閣を発足させ、8日に所信表明演説に臨む。11~13日に衆参両院本会議で各党代表質問を行い、14日に衆院を解散する方針で、自民党の森山国対委員長が1日、立憲民主党の安住国対委員長に伝える。
野党各党は、臨時国会で代表質問に加え、衆参予算委員会での質疑を行ってから衆院選に臨むべきだと主張しているが、ガン無視。岸田総裁は安倍前首相や麻生氏たちの要求を「聞く力」はあっても、国民や野党の声を「聞く耳」は持っていないということだ。
甘利明 Officcial Webより
昨日29日の自民党総裁選で新総裁となった岸田文雄氏は、第一声で「『生まれ変わった自民党』をしっかりと国民に示さなければならない」と宣言したが、一体これのどこが「生まれ変わった」というのか。本日、岸田氏が幹事長に甘利明・税調会長を、政調会長に高市早苗氏を起用する意向を固めたというからだ。
「生まれ変わった」どころか、その顔ぶれは安倍晋三・前首相の側近と腹心。ようするにこれ、「安倍体制の強化」が打ち出されただけではないか。
なかでも度肝を抜かれたのが、「甘利幹事長」という人事だ。
いくらなんでも甘利氏を、自民党の財政から人事までをも掌握し、さらには国会運営にも影響力を持つ幹事長のポストに就かせようとは、完全にタガが外れている。言わずもがな、甘利氏はいまだに「口利きの見返りで1200万円」という金銭授受問題で説明責任をまったく果たしていないからだ。
あらためてこの問題を振り返ろう。事の発端は甘利氏が経済再生担当相だった2016年1月、千葉県の建設会社・薩摩興業の依頼で都市再生機構(UR)へ移転補償金の値上げを“口利き”した見返りに、少なくとも総額1200万円の現金や飲食接待の賄賂を受けとっていたと「週刊文春」(文藝春秋)がスクープしたことだった。
薩摩興業の元総務担当者である一色武氏の告発によると、公設秘書ら2人に現金500万円、さらに甘利本人に50万円を2回、計100万円を手渡していたといい、「五十万円の入った封筒を取り出し、スーツの内ポケットにしまった」「甘利さんは『ありがとう』と言って、封筒を受け取りました」と証言。甘利事務所が現金を受け取ったことを証明する領収証や、甘利の公設秘書らがUR側に補償金アップの働きかけをする交渉を録音したテープなどの物証もあった。
どこからどう見ても“真っ黒”な経済再生担当相の大スキャンダル──。「週刊文春」の報道を受けて甘利氏は経済再生担当相を辞任したが、その会見では計100万円を受け取ったことを認めたものの後に政治資金収支報告書に寄付扱いで記載したと弁解し、「あっせん利得」の疑惑をかけられているのに政治資金規正法違反に当たらないと強調。挙げ句、涙を浮かべて「『秘書のせいだ』と責任転嫁するようなことはできない」「政治家としての美学」「政治家としての矜持」などと辞任理由を並べ、マスコミは“勇退”ムードをつくり上げた。
しかも、甘利氏は大臣を辞任すると「睡眠障害」を理由に約4カ月にわたって国会を欠席。「(秘書の問題は)しかるべきタイミングで公表する」などと言って大臣を辞めた人間が、参考人招致や証人喚問から逃げて雲隠れし、通常国会が閉会する前日に不起訴処分が発表されると、それから約1週間後に活動再開を表明したのだ。
甘利氏はこの活動再開時に「適切な時期にお約束通り説明させていただく」と述べたが、その後開いた説明会見は、急遽、自民党本部でおこなわれるという “ステルス会見”で、多くの記者が出席できず。その上、“不起訴の結論をくつがえすような事実は見当たらなかったとのことだった”などと言うだけで、たったの約10分で会見を終了させたのだ。