林 住 記

寝言 うわごと のようなもの

役に立たない日々

2008-09-22 | 林住期

 

題名にドッキリして買った本である。
佐野洋子という「バアさん」の随筆である。

ぶっきら棒というか、居直ったというか、読み始めから驚かされる。
キツイことや身も蓋も無いことをアケスケに語り、バッサリと斬って捨て痛快である。
1頁に何回も笑ってしまうが、洋子さんて暖かいな、と思える。

下手な感想を書くより、弟のことを書いているところを抜粋しますね。
その前に、洋子さんは乳癌に罹り治療中髪の毛がゴッソリ抜け、坊主頭になる。
すると、今まで忘れていたハゲが見つかる。このハゲは食糧難の頃、弟と食べ物を奪い合って喧嘩になり、髪の毛を毟り取られた跡だそうです。
その弟が今朝は洋子さんの家にいる。

 (前略)しかし、朝食ほど民族の文化を伝えるものがあるだろうか、と思い、今はメ
 チャクチャだ。弟よ、あヽ弟よ、世間の片隅で地味に馬鹿正直に生きて来た弟よ、
 あんたは一生なーにもねえ、朝食を食ってくれ。そういう人達が、民族の底力なん 
 だ。おっちょこちょいの姉ちゃんは子供に牛乳ぶっかけた玄米フレークなんか食わ
 せていた。だから、髪の毛金髪にしちまうような子に育ったよ。
 「あんたんちぬかみそ作っている?」「あヽ作っているよ」なーんも出来ないテルコは
 何でもやるじゃないか。「あいつはなーんも出来ねェで、母さんが居た時は母さんが
 作っていたじゃん、床はそのまんま母さんの床だだよ」。あんな憎み合っていた嫁
 姑だったのにぬかみその床は受け継いだのか。なーんも出来ないテルコは偉業を
 なしとげた。憎い姑が呆け始めると家付き姑を追い出したのだ。驚いたね、あの時
 は。今も驚いている。だけどぬかみその床は生き続けているのだね、ありがとう。
 なーんでも出来ちゃうテルコさん。あヽ弟よ、弟よ、六十三歳の弟よ、あんたの嫁の
 当りはよかったのか、悪かったのか。きっと大当たりだったんだよね。
  駅まで送っていったら「え、へ、へ、へ、テルコにみやげえ買っていってやるかナ」
 だとよ。そして地下で塩昆布のつめ合わせを買った。
 「東京は高けえだナ」
  あヽ弟よ、弟よ、あの地方都市の片隅で、地味に地味につましく貧しく生きてる弟
 よ、何であんたは大黒さまもお釈迦さまも顔負けのでかい耳をぶらさげているのだ。

それから洋子さんの友だちの朝食や、子供の頃の両親や食事のことがアケスケに続き、呆けたお母さんのところに行く。

  お昼すぎに母のところに行った。丸坊主に帽子をかぶって行った。母はぼーっと
 寝ていた。もう私かどうかわからないらしい。私も疲れていたので、母の寝床にもぐ
 り込んだ。母は私の坊主頭をぐりぐりなでて「ここに男の子か女の子かわかんない
 のが居るワ」と云った。
 「あなたの旦那は佐野利一でしょ」
 「もうずっと、何もしていない」。何もって何だ。もしかしていやらしい事なのか、でも
 ぼーっとしている何だか透明になっちまった母さんはいやらし事なんかいくら云って
 もいやらしくないみたい。
  私が大声で笑ったら、母さんも声を出して笑った。
 「母さん、もてた?」
 「まあ、まあでした」そうかね。
 「私、美人?」
 「あんたは、それが充分です」
  又大声で笑ってしまった。
  母さんも、一緒に笑った。
  突然母がぼんやり云った。
 「夏はね、発見されるのを待つだけなの」
  私はしーんとしてしまった。
 「母さん、私しゃ疲れてしまったよ。母さんも九十年生きたから疲れたよね。天国に
 行きたいね。一緒に行こうか。どこにあるんだろうね。天国は」
 「あら、わりとそのへんにあるらしいわよ」

洋子さんはお母さんが元気な頃は折り合いが悪かったそうだ。洋子さんは2度離婚した。娘の頃、惚れられた寺の跡取と一緒になっていたら......、3度離婚したかも、とか。
洋子さんは乳癌が骨に転移して、余命2年らしい。
だが、担当医がいい男で幸せで、ブランドものの新しい服で病院に通うそうだ。医者がジジイだったら寝巻きにコートを引っ掛けて病院に行くつもりだそうだ。

 七十ババアでもいい男が好きで何が悪い。

自由業で年金が無いから九十まで生きたらどうしようとせこせこと貯金をしていたが、あと二年と聞いて、ジャガーを買い、「あー私はこういう男を探してたんだ」、最後に乗る車がジャガーとは、運がいいよナァ、と余裕綽綽だ。

  私は今、何の義務もない。子供は育ち上がり、母も二年前に死んだ。どうしても
 やりたい仕事があって死にきれないと思う程、私は仕事が好きではない。二年と云
 われたら十数年私を苦しめたウツ病がほとんど消えた。人間は神秘だ。
  人生が急に充実して来た。毎日がとても楽しくて仕方がない。死ぬとわかるの
 は、自由の獲得と同じだと思う。

役に立たない日々を送る森男にとって、この本は本当に役に立つ。
同じ世代だから、書いてある事にいちいち納得する。
ヨン様に嵌った経緯は大笑いしたが、少し涙がこぼれた。

この本に勇気を貰ったみたいだ。

▲挿絵は全部、佐野洋子さんです。



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3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
やっぱり 注文 (風子)
2008-09-24 11:21:44
お薦めの2冊の本。
3箇所の本屋さんで 検索して頂いたのに 
何処にも置いてありませんでした。

見ないでお取り寄せ、 で失敗があるので 
見てからと・・・。

やっぱり注文しましょう。
楽しそうです。 
まだ どっぷりおばちゃんになれずに 
うろうろしている風子さん。

そろそろ 年貢の納め時です。
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ベストセラーか ()
2008-09-24 19:58:08
風子さま

今年5月末に発売 7月20日には早くも第5冊発行
大好評らしいです

記事に載せた部分は穏やかな方で もっと過激なところや 大笑いも多々ありますよ

ただ不思議に勇気付けられる内容です
まだまだ年貢を納めるのは早いのではないでしょうか
洋子さんから ぶっ飛ばされます

曽野綾子さんは 信仰に裏付けられら立派な箴言集です 発売はこの9月15日でした
これは一度に読むと負けそうになるので 1日1頁がよろしいかと思います
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明日届きます (風子)
2008-09-25 01:19:41
森男さま

本屋さんには 売り切れてなかったのでしょうか?

ネットで申し込みました。
四苦八苦しましたが セヴンイレブン受け取りです。

佐野洋子さんは「百万回生きたねこ」もヒットして すごいですね。

そうですか・・・、まだ収めなくていいですか?
それでは 読ませていただいて もう一頑張りしましょうか。

曽野綾子さんは 難しいですねー。
頭をすっきりさせて ゆっくり読みましょう。
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