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令和初の犬神家は、小型犬のようにせっかちだった ~『犬神家の一族』2020エディション~

2020年02月10日 22時06分25秒 | ミステリーまわり
ドラマ『犬神家の一族』(2020年2月1日放送 NHK BS プレミアム『シリーズ・横溝正史短編集II 金田一耕助踊る!』 30分)
 33代目・金田一耕助 …… 池松 壮亮(29歳)
 8代目・橘警察署長 …… 村杉 蝉之介(54歳)

 『犬神家の一族(いぬがみけのいちぞく)』は、横溝正史の長編推理小説。「金田一耕助シリーズ」の一作で、1949年12月~51年4月に連載された。
 本作を原作として、これまで映画3本・TVドラマ7本(2020年版を含む)・舞台2作が制作された。また、コミカライズもされている。
 作者自身は本作を、「金田一もの自選ベスト10」の第3位に推している(第1位『獄門島』、第2位『本陣殺人事件』、第4位『悪魔の手毬唄』、第5位『八つ墓村』)。

主なキャスティング
犬神 佐清   …… 渡辺 佑太朗(25歳)
野々宮 珠世  …… 久保田 紗友(さゆ 20歳)
犬神 松子   …… 坂井 真紀(49歳)
犬神 竹子   …… 内田 淳子(52歳)
犬神 梅子   …… 春野 恵子(46歳)
犬神 寅之助  …… 鎌滝 秋浩(54歳)
犬神 幸吉   …… 奥瀬 繁(?歳)
犬神 佐武   …… 中崎 敏(はや ?歳)
犬神 佐智   …… 二見 悠(?歳)
犬神 小夜子  …… 御子柴 彩里(22歳)
猿蔵      …… 清水 泰地(35歳)
青沼 菊乃   …… Maruko (?歳)
大山神主    …… 阿部 祐二(61歳)
藤崎鑑識課員  …… 水間 ロン(30歳)
川田刑事    …… 斉藤 天鼓(てんご 20歳)
宿屋柏屋の女中 …… 藤間 爽子(さわこ 25歳)
古館 恭三   …… 片岡 哲也(45歳)
犬神 佐兵衛  …… 斉木 しげる(70歳)

主なスタッフ
演出 …… 渋江 修平(?歳)


 きたきたき~た~、きぃたぁあ~!!(『ドナドナ』のメロディで)
 たった3回ながら、横溝正史ファンにとって2020年最初のビッグなプレゼントとなった『シリーズ・横溝正史短編集Ⅱ』の、いよいよ掉尾を飾ることとなる最終回であります。
 いや~、BSプレミアム様、BSプレミアム様!! どこに放送局があるのかわからないんですが、気持ちとしては足を向けないで寝ているつもりです。その気持ちだけでカンベンしてつかぁさい!!
 今回の最新3作が無事に生誕したことの歴史的意義は、単に「金田一耕助ものの映像化作品が更新された」というだけじゃあありませんよね。
 それに加えてさらに、
「初映像化作品あり」、「シリーズ化されている」、「帰ってきた池松金田一」
 といったあたりの大いに狂喜乱舞すべきバリューポイントに満ちあふれている、横溝ファンの希望の星なのであります。

 なので、この時点で今回の3作品は、本編が1秒も始まっていないうちから100点中600点くらいの加算はされているわけなのですが、なんと驚くべきことか、かりにも『短編集』と銘打たれているはずのこのシリーズ、最終作がなんとなんとの、『犬神家』!!
 なんという大それたことを……『貸しボート十三号』、『華やかな野獣』ときたんですから、たとえば『金田一耕助の冒険』あたりから一つみつくろうくらいでもいいはずなのに、よりにもよって『犬神家』とは!!
 いや、まず長編だし! 今回で晴れて映像化回数2ケタに到達したくらいの超メジャータイトルだし!!(『八つ墓村』の10回と並び映像化回数1位タイ)いったいこれは、どういったチョイスセンスなのかしら……
 ふつう、「『犬神家の一族』が映像化されますよ~。」というニュースが流れたら、横溝ファンのみなさまの気持ちを代弁するようなおこがましいことはできませんが、少なくともわたくしめは、「ふ~ん。まぁ、がんばってね。」みたいな、あんまりテンションが上がらない反応になってしまうかと思います。
 それはまぁ、映像化回数が非常に多い名作ならではのツラさですよね。だいたいまぁ、最初にあの人が死んで、湖であのエピソードがあって、全員が集まって遺言状の発表があって……と、気がつけば『ももたろう』や『いっすんぼうし(江戸川乱歩のじゃないヨ)』がごとくにソラであらすじを語ることさえできかねない有名作になってしまうと、そりゃまぁ当然おもしろいはおもしろいんですが、安全パイすぎて、「とりあえず失敗の少ない手でお茶をにごしました。」感が強くなってしまいますよね。そんな気持ーち、わかーるでしょ~♪

 ところがところが! 今回の『横溝正史短編集Ⅱ』で、という但し書きがついた時点で、『犬神家の一族』という選択は評価がまったく反転してしまいます。うをを! それはものすんごい!!
 だってあなた、『短編集』よ! 30分の番組枠内で、なのよ!?

 30分で『犬神家の一族』……え、そんなこと、できんの? だって、『犬神家』ってふつう、2~3時間かかるんじゃないの?
 ざっと、過去の映像化作品の内容時間をおさらいしてみますと、最も有名かと思われる市川崑監督&石坂浩二金田一による1976年映画版は2時間26分、そのどうしようもない2006年改悪版が2時間14分。1970年の連続ドラマ版は1時間枠で5回、1977年の古谷一行金田一版は1時間枠で4回。超珍品である中井貴一金田一による1990年テレビ朝日版は3時間枠、ご存知片岡鶴太郎金田一による1994年、稲垣吾郎金田一による2004年、加藤シゲアキ金田一による2018年のフジテレビ版はいずれも約2時間枠。
 実は、最初に映像化された、伝説の片岡千恵蔵金田一による1954年の映画『犬神家の謎 悪魔は踊る』が78分ということで、実はいちばんアグレッシブな構成になっているようなのですが、それでも今回の倍は時間が確保されていますからね。そして今度は、悪魔じゃなくて池松金田一が踊る!?

 ここまできたら、3本目も未映像化の短編で充分によかったのに、そこにこの『犬神家』をもってくるとは……その意図や、いかに!? 期待度はいやがおうにも高まります。
 さぁ、思わぬかたちで記念すべき映像化10回目をむかえることとなった、言わずと知れた超有名作『犬神家の一族』の2020年バージョン。その出来栄えのほどや、いかに~!?

驚きの収納術!! 見事きれいに30分におさまりましたが……超いそぎ足。

 もうね。今回の記事のタイトルがすべて、ですかね。フローリングを「ちゃかちゃかちゃかちゃか!!」とけたたましく軽快すぎるテンポで踏み鳴らし駆けてくるチワワちゃんあたりが鮮明に目に浮かんでくるかのようなスピード感でした。でも、お話はギリギリ理解できる構成にちゃんとなっているのが、キィ~にくたらしい!
 いや、それは、私が過去に別の形で(原作小説ももちろん含めて)『犬神家の一族』を知っている身だから理解できるのかもしれませんが、少なくとも「あの人は誰なんだ?」とか、「結局だれが犯人なんだ?」といったあたりの重要なポイントが説明不足になってしまうような不親切さはなかったかと思います。キャラクター説明のテロップも出ていましたし、数秒しか登場しない人物も、しっかり誰だかはっきりわかる親切設計になっていましたよね。
 原作小説も読んでいないし、過去の映像化作品さえも1本も見たことのない人が今回の30分バージョンだけ観たら、どう感じるんでしょうかね……? おもしろかったかな?

 最後の最後、実に淡々と俳優&スタッフのエンドロールが流れて終わるラストカットでは、犯人のみが、それ以外誰もいない暗い部屋の中にとり残されているという状況になっています。
 これはつまり、そこに至るまでの約30分間のくだりが「犯人の走馬灯だったんじゃなかろうか」と思わせる解釈も成り立つ演出になっているわけでありまして、そこでやっと、今回の映像化における「なぜか登場人物がほぼ棒立ち」とか、「基本的に全員が、死体すら含めて狭い部屋の中に集合している」とか、そして「犬神佐兵衛が部屋の中にいる」といった、特有の不自然な演出が、「あ、ぜんぶ夢みたいなものだったのね。」という、ある意味で反則ともいえる解釈によって解消されるわけなのです。
 なるほど。ということは、今回の30分バージョンは、正確に言えば『犬神家の一族』をそのまんま映像化した作品なのではなくて、ある登場人物(犯人)が残した、「犬神家連続殺人事件の残留思念」みたいなものだというわけなのか。
 そうなると、いかにも無責任な欲を言えば、今回のキャスティングをまるっとそのまんまにした、「ほんとにあった『犬神家の一族』2~3時間バージョン」を観てみたい気もするのですが……そこをあえてやらないのが「粋」ってもんなんでしょうなぁ。
 当たってるかどうかは別としまして、わたくし流にこの30分バージョンを「犯人の走馬灯」としました場合、今回ミョ~に活き活きと大活躍していた犬神佐兵衛や猿蔵あたりが、犯人から見て「自由って、いいなぁ……」みたいに憧れる存在だったというわけになるのでしょうか。なんか、高橋留美子さんのマンガにでも出てきそうなフリーダムな演技でしたよね、あの2人。猿蔵の、あのクドすぎる大胸筋にとび込む勇気があったのならば、あるいは、犬神家の惨劇は起こらなかったのかもしれない……嗚呼、人生すれちがい!!

 さすが、「原作小説の言葉をほぼそのまま使用して物語を忠実に再現」といううたい文句の通り、この『犬神家の一族』もまた、真犯人の動機を非常に分かり易く、観る者に訴えかけるものになっています。そこで大きな役割を果たしているのが、やっていることの非道さとはうらはらにコミカルな、死んだはずの犬神佐兵衛の描写であることは間違いありません。そこが、「30分でやりました。」という最大のトピックに続く、2020年バージョンの大きなオリジナリティなのではないでしょうか。
 なので、この映像化作品を観て『犬神家の一族』のおおむねの内容を理解することに関しては全く問題がないでしょう。まさしく、2~3時間もじっくり腰をすえて楽しむ余裕がない、「忙しい人のための『犬神家の一族』」としては、文句なしに完成された作品であるわけです。

 ただ……その仕事自体は、前人未到のものすごい労力を要した特筆すべきものではあったにしても!
 やっぱり、ちまたのコミカライズを読んだだけで太宰治やマルセル=プルーストを読んだ気になってはいけないのと同様に、2020年バージョンの繰り広げた30分が、『犬神家の一族』の驚嘆すべきエンタテインメントな面白さのすべてを伝えるものでないことは、言うまでもありません。先達が映像化に2~3時間、かけるにはかけるなりの理由があるということなんですなぁ。

 端的に言うと、2020年バージョンは真犯人が犯行に至ったまでの動機の説明に時間を割いた分、現実に発生している連続殺人事件に対して、金田一耕助のような周辺の立場も含めた登場人物の面々がリアルタイムにどう対処していたのかという、『チキチキマシン猛レース』のような各自の個性的な動きがほとんどカットされてしまっているのです。意図的に死体発見シーンが省略されているのはごらんの通りですが、まわりの人達もただひたすら泣きさけんだりオロオロするばかりで、警察関係者も含めて事件解決に役立ちそうな人間があまりいない情景になっているのです。これは、まさに権謀術数蠢くといった重苦しい空気の中で、「犬神松子が佐清だと言い張っているあの仮面の男は、ほんとうは誰なんだ……?」という疑惑を解明するためにさまざまな作戦が練られていく原作小説とはだいぶ違った印象があるのではないでしょうか。さすがに神社の手形のくだりは2020年バージョンでもしっかり描写されてはいますが、ちょっと駆け足すぎて「やっぱり佐清なんだ」と納得してる場合じゃない流れになっているのが残念でしたよね。殺人が早すぎるんだもん!

 今回の演出で最もワリを食っていたのが珠世さんで、原作小説ではあんなに賢いし、したたかだし、さらには犯人なんじゃないかという疑いさえもかけられるおいしい立場にいたのに、2020年バージョンでは毒にも薬にもならない完全なお人形さんと化していましたよね。それはもったいなさすぎる!! 純然たるヒロインでありながらも同時に、推理小説やサスペンスドラマにおける「怪しい人物が実はデキる子だった」というカタルシスを『犬神家の一族』でになっていたのが珠世さんだっただけに、そこらへんのエンタメ小説家・横溝正史の真骨頂たる筆のノリをカットしてしまったのは、ただただ惜しいというほかありません。
 あと、まっさきにカットされるだろうなと予想はついていたにしても、金田一耕助の「スキーで犯人追跡」シーンは映像化してみせる気骨がほしかった……ないものねだりですけどね! このシーンが映像化されるのは、いったいいつのことなのでありましょうか……踊る池松金田一なんだから、そのくらいやってもいいじゃねぇかよう!!
 その他、犬神邸からはるか離れた旅館・柏屋に現れた、謎の「顔を隠した復員兵」の存在がさらっと語られた程度で済まされたために、具体的に連続殺人事件にどうからんでいたのかがいまいちピンとこなかった点、犬神小夜子がカットこそされなかったもののセリフの全くないモブ扱いとなり、犬神佐智との哀しすぎる因果が語られなかった点、そして何よりも、犬神松子のお琴の師匠である宮川香琴の存在自体がまるごとカットされていた点などなど。まぁ、お世辞にも「原作に忠実」とは言えない采配は目立ちますよね。仕方ないとはいえ……ミステリーとして、人間ドラマとしておいしいことこの上ない伏線の数々が割愛されてしまい、惜しい限りです。

 もうひとつ、今回の映像化に際して最も失われていると感じた原作小説の魅力に、物語の「流れの緩急」というか、横溝正史一流、自由自在な語り口のおもしろさがありました。つまり、最初っから最後まで思いっきり「フルスピード一択」で押し通されていたことから、登場人物ほぼ全員がヒステリックな狂騒状態におちいっているのが『犬神家の一族』なのかな? という印象操作を与えてしまっていたのではなかろうかと。主要人物がおしなべてジェットコースターに乗っているかのようなワーキャー状態なので、ちょっと知性や個性が伝わりづらい。これじゃあまるで、金田一耕助ものというよりは、自称お孫さんのほうが扱ってる事件みたいですよね。
 いや、それが無い物ねだりのアイウォンチュウだということは、私だって百も承知であります。時間制限があるんだもの! 登場人物がスピードアップの絶叫口調でセリフを言ったり、これ見よがしなオーバーアクションをしているのも、当然ながら演出の自覚的な戦略でありましょう。

 ただ、それがおもしろい結果を生み出しているのかというと……どうなんだろう?
 少なくとも私は、この池松金田一シリーズが大きく看板に掲げている、「原作小説から抽出した文言を使用して忠実に映像化」のルールにてらしていうのならば、序盤の遺言状公開シーンで古館弁護士がツバをとばさんばかりの勢いで興奮していたり、クライマックスで犬神佐清が号泣しながら大げさにまくし立てていたりするのは、明らかに原作に忠実ではないと感じました。そして、その魅力もまた、大きくそがれちゃっているんじゃなかろうかと。
 これはもう、とにもかくにも原作小説を読んでみておくんなましというより他はないのですが、原作小説の中では、古館弁護士はもっと冷静で優秀なプロフェッショナルとしての姿勢をもって、あの魑魅魍魎うごめく犬神家を相手に単身で渡り合っていますし、佐清くんも、非常に複雑な、煮えたぎるような感情を自制しながらとつとつと語っているのです。その姿はもう、推理小説の登場人物のひとりという枠をゆうに超えて、読む人の頭の中で活き活きと躍動する、熱い血のかよった人間になっているのではないのでしょうか。それは当然、珠世さんだってそうです。
 横溝正史先生は神戸生まれの生粋の関西人ですが、関西だからといって、その小説の世界は現代の若手しゃべくり漫才のようなトップギアでフルスピード一辺倒のものでないことは明らかです。むしろ、「笑いは緊張と緩和にあり」として、あえてストーリーの流れを止めてしまう、ストップモーションたる沈黙の間も有力な武器とした、上品かつねっとりとした上方落語に近い、実に起伏に富んだ醸成された世界を良しとしていたのではないでしょうか。そのへん、あの江戸川乱歩とはだいぶ異なる本質を持っている作家性があると思うんですよね、横溝先生って。
 ですから、横溝先生はむろんのこと短編小説もバンバンものしているのではありますが、『貸しボート十三号』や『迷路荘の惨劇』を例にするまでもなく、「ふくらまして完成」という長編タイプの作家さんなのではないかと思います。いっぽうの大乱歩はどんなに話がふくらんでも、一貫した伏線がない(ほめてます)ので、既視感のある悪夢の連続のようなオムニバス的長編になってしまう短編タイプなんじゃないかと思うんです。

 ですから……元も子もないことを言ってしまいますと、『シリーズ・横溝正史短編集』は、やっぱり「短編小説の映像化」の本分を離れてはいけないということだったのではなかろうかと。「『犬神家の一族』を30分でやるヨ!」という話題性と、ほんとにやっちゃった勢いはもう素晴らしいわけなんですが、いろいろと作品のスケールを小さくしてしまう結果となってしまったのではないのでしょうか。
 なんか、「長編を30分でやる」という試みは、むしろ『シリーズ・江戸川乱歩短編集』のほうがうまくいきそうな気がするのですが、ただここが難しいところで、今回の挑戦は、『犬神家の一族』という、なんとなくでも、視聴者の多くが「あの、真っ白いマスクのやつ?」とか、「湖に両足が逆さまのやつ?」といったインパクトのある映像を知っている超有名作品であるからこそおもしろくなるのであって、大乱歩の作品に、それに匹敵する知名度を持つ作品があるのかというと……でも、これは言うまでもなく両者の作家としての優劣の問題ではなくて、単に1976年の角川映画や、テレビにおける古谷金田一シリーズの大成功のたまものですよね。あと、その後の全国のプール施設における一発ギャグ「いぬがみけ!!」の伝播のおかげ。我が『長岡京エイリアン』では、2020年の夏にも、この伝統芸を継承しているバカな小中学生男子が現存していることを、切に祈っております。いや、1980年代生まれの私の時点で、すでに肉眼で確認したことないんですけど。

 今回の『シリーズ・横溝正史短編集Ⅱ』で、待望の初映像化にたどり着いた2作をご覧いただいてもわかる通り、横溝先生の作品は、短編・中編小説であるとしても容赦なく個性豊かな登場人物をドカドカ投入しているため、映像化するにふさわしいボリュームを兼ね備えている名品が、まだまだ眠っているはずです。まぁ、どちらかというと放送コード的に不安のあるほうが問題ですかね……でも、死体がひどい『貸しボート十三号』をやっちゃったんだし、大丈夫かな!?

 死体といえば、今回の『シリーズⅡ』の3作品に共通している要素として、「死体がヘン!」というものがありますね。それは、ただ単に被害者の遺体が不自然な形に工作されているというだけでなく、「実行犯の当初予定していなかった結果になっている」という複雑な理由がからんでいるという点で……キャーもうこれ以上は言えない!!
 まさしく、これぞ横溝先生らしい、「犯人だって運命という巨大な歯車のひとつ」という、人間以上の力を持つ存在の恐ろしさを垣間見えさせるストーリーテリングですよね。だからこそ、今回さらに、前シリーズ以上に超然とした池松金田一の、『世にも奇妙な物語』のタモリ的なドライさが際立っていたんじゃないのでしょうか。そっかぁ、それで池松金田一はブラックが似合うんだ! 『華やかな野獣』では、原作どおりムチャクチャな衣装でしたが。

 最後に、これはなかなか適切な表現が見つからなくて申し訳ないのですが、今作におけるキャスティングについて。
 あくまでわたくしの個人的な意見なのですが、今回のキャスティングは、絶妙に30分サイズ相応に「コンパクト」になっていたなと感じました。
 無論のこと、これは過去の映像化された『犬神家の一族』に出演された俳優陣と比較して、2020エディションに出られた俳優のみなさんが劣っている、というわけでは決してありません。30分シリーズのスケールにしっくりきていたし、あろうことか世俗まみれにもほどのある芸能リポーターの人を神職の登場人物に選んでいるあたり、かなりグッとくるクリーンヒットもあったかと思います。まさか、三国連太郎や里見浩太朗といった大御所の面々が演じていた役を、あの斉木しげるさんがおやりんさるとはねぇ……そりゃ、私も歳をとるわ。
 あと、私がまだ紅顔の高校生だった頃、『ガキの使いやあらへんで』を楽しみにしているついでにボーっと見ていたバラエティ番組に、毒にも薬にもならなそうな家庭教師役で出ていたおしとやかなお嬢さんが、まさかその後、浪曲師の道を選んだ末に、ここに犬神梅子として堂々たる狂乱の名演を見せるとは……驚嘆いたしました。美人の「般若の相」は、ものすごいなぁ、ケイコ先生!!

 その一方、個人をけなすつもりは全くないのですが、私は本当に、「泣き叫ぶ男の演技」というものが大キライでありまして。まぁそういうわけで、犬神佐清のクライマックスでの告白の演出は、うるさいだけで面白くもなんともないと感じました。原作でもぜんぜんそんな感じじゃないのに、どうしてそんなに薄っぺらい単純化に走るんだろう!? 慟哭の演技なんて、相当な実力のある名優さんだってなかなか難しいですよ。それをどうして、あんな若ぞ……いや、若者にやらせるのでしょうか!?

 そして、なんといっても「真犯人」のキャスティング。これ、「真犯人」と名前を伏せる意味、ありますかね……? まぁ、マナーですよね。
 悪くはない。悪くはないのですが……やっぱりその、これまでの『犬神家の一族』において同じ役を演じてこられた諸先輩がたと見比べてしまいますと……ねぇ。
 これまた私見で申し訳ないのですが、私にとっての、歴代10名のキャスティング中のベスト真犯人は、なんといっても2004年の稲垣金田一版でのものだと思います。とにかく、ファーストカットからオーラがだだもれまくり。ただ「大御所だから出ています」じゃなくて、俳優さんという生き方の「業」さえも感じさせる、異形性がものすごく出ている凄絶な名演だったと記憶しています。まぁ、それだけに真犯人であることを隠す気ゼロともいえる禍々しさが全開でしたが。
 それと比較しちゃうとな~!! いかにも、おとなしい。いかにも、線が細い。ご本人は「セリフが長すぎて泣いた」とかおっしゃっておられたようですが、そのハデハデな扮装以上にインパクトを残すものは、特に無かったかと……今回の演出が、物語の中心に真犯人をガッチリ据えたものになっていただけに、そのソツのなさすぎる無味無臭さが、かえってあだになってしまったと感じました。
 こんな例え方をしても、ピンとくる方が果たしておられるかどうかわからないのをゴリ押しで例えるのですが、2004年バージョンの真犯人さんがゾイド第1世代(1983~86年販売)のウルトラザウルス(全高27.5cm 単3電池2コ&単2電池2コ必要 5980円)だとするのならば、今回の2020年バージョンの真犯人さんは、同じ竜脚類恐竜モチーフだとしてもザットン(全高10cm ねじまき式 580円)くらいの迫力だったのではないのでしょうか。これ、わたくし的にはこれ以上ないくらいに的確な例えだと自負しているのですが、けなしているつもりは全然ないんですよ!? ただただ、「スペックがちがう」というだけのお話なのです。ザットンもかっこいいですよねぇ。

 わけのわかんないゾイドの例え話で終わってしまい大変に恐縮なのですが、ともあれ、横溝先生の知名度の高い長編作品を30分で映像化するという試みは、今回の『犬神家の一族』2020エディションでおしまいにしていただきたい、というのが私の偽らざる感想なのでありました。いや、おもしろくはあったんですけれどもね……作品にとっても、出られる俳優さんがたにとっても、努力のわりにメリットが少なそうなんですよね。

 あくまでストイックに『短編集』ということで! 古谷金田一でもなしえなかった『Ⅲ』の登場を切にお待ちしております、池松金田一シリーズさ~ん!!
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