代替案のための弁証法的空間  Dialectical Space for Alternatives

批判するだけでは未来は見えてこない。代替案を提示し、討論と実践を通して未来社会のあるべき姿を探りたい。

八ッ場ダム建設根拠を揺るがす東京新聞のスクープについて

2013年01月27日 | 利根川・江戸川有識者会議
 東京新聞は、1月6日と10日に八ッ場ダムの建設根拠を揺るがす旧建設省作成の内部資料を入手し、暴露するというスクープ報道をした。下記のサイト参照。

http://yamba-net.org/modules/news/index.php?page=article&storyid=1812

http://yambasaitama.blog38.fc2.com/blog-entry-2111.html

 その内部資料を公開した岡本芳美先生(元新潟大教授)のご厚意で、私もコピーを入手し拝読させていただいたので紹介する。1947年当時のカスリーン台風襲来後に利根川の治水計画が議論された建設省の治水調査会の議事録が収録されている『利根川改修計画資料』である。

 資料を読み解くと、1947年のカスリーン台風洪水で実際に流れたのは1万5000㎥/秒程度であったと評価されていたにも関わらず、ダム計画を推進していた旧建設省の意向で強引に1万7000㎥/秒に引き上げられていた事実が分かる。

 しかるに現在では、1万7000㎥/秒という数字がさらに膨れ上がって、2万1100㎥/秒とされ、その数字に基づいて八ッ場ダム計画が推進されている。すべてはダム計画を推進するための数字操作である。
 

 同資料の中には、下記のような注目すべき一文もあった。カスリーン台風の災害が大きくなったのは、戦時中の山林の荒廃によって大崩壊が多発し、流れ出した土砂が河床を押し上げたのが原因と断定しているのだ。以下引用する。
     
****建設省『利根川改修計画資料』99頁より引用****** 

(前略)
 利根川流域は従来利根川幹川、赤谷川、片品川、烏川、神流川、碓氷川、渡良瀬川等の流域に各種の崩壊地を生じ、これが上記河川及び利根川下流部の水害の根源をなしていた。戦時中の山林濫伐、土地荒廃に加えて昭和22年のカスリーン台風により前記各河川の上流部に堆積していた土砂が一時に下流に押し出し、下流河川の河床を高め大水害の根源をなした。なお注目すべき事は赤城山を水源とする各河川に新規に984ヵ所、合計248町歩の大崩壊を生じこれ等の土砂が利根川幹川を堰き止め、下流河川の河床上昇の原因となり、22年の大災害を起こしたものと考えられる。この新規崩壊は次の如し。

 沼尾川流域  373ヵ所  124町歩
 荒砥川流域   85ヵ所   31町歩
 粕川流域   101ヵ所   15町歩
 梨木川流域  230ヵ所   40町歩
 田沢川流域  195ヵ所   38町歩
    計     984ヵ所  248町歩
 
 従来の崩壊によって河川に堆積させる土砂と、これ等新規の崩壊地より生じた土砂とが同時に下流に押し出し利根川下流部の河床の上昇及び洪水量の増加を来せるものと思われる。
(後略)

****引用終わり****

 山林荒廃と大崩壊が大水害の原因と旧建設省自体が認めていたのだ。
 百歩譲ってカスリーン台風で1万7000㎥/秒が流れたという当時の建設省の過大な数字評価を認めたとしても、山林が曲がりなりにも回復した現在の状態では、カスリーンと同じ台風が襲来しても崩壊の発生面積は大幅に減る。カスリーン台風が再来した場合の流量は、それよりも低くならなければならないのは自明の理である。そして、利根川水系の安全性をより高めるための喫緊の課題としては、ダムなどよりも崩壊面積を減らすための森林整備である。旧建設省の資料に依拠しても、これは明らかな論理的帰結である。

 ところが、国交省いわく、現在の森林状態でカスリーン台風が再来すれば、1万7000㎥/秒よりも増えて、2万1100㎥/秒になるという。いったい誰が、このような理屈を承認できるのだろう?

 
  


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2 コメント

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これが本当の・・・ (たんさいぼう影の会長)
2013-02-04 20:32:48
洪水の話だけに、これが本当の「水増し」というダジャレは、もう25年も前から使ってきているのですが、定着しませんねえ。
四半世紀も同じダジャレを言い続けなければならないとうのは、裏を返せばダム問題の構図がその間、全くというほど変わっていないことの裏返しですね。
返信する
昨日の (Cru)
2013-02-16 10:03:37
昨日の東京新聞みました
ご活躍の姿に感銘を受けました
ブログで床屋談義してる私などおよびもつかない
応援してます
返信する

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