前回と前々回で農産物と工業製品の需要特性および費用特性の差異という論点は、いずれも新古典派経済学がほぼ無視している点である。しかし、今回述べる環境破壊の論点は事情が違う。
昨今の環境経済学の興隆によって、新古典派の枠組でも、財の生産から流通・廃棄の過程で発生する環境問題は「外部不経済効果」と定義され、理論に組み込まれている。そして新古典派の環境経済学は、外部不経済効果に対しては環境税を賦課して . . . 本文を読む
新大陸の農業と競争を強いられたら、旧大陸の国々は歴史も文化も伝統もすべて否定されねばならない。そして大量の半失業プレカリアートを生み出した挙句、新大陸国家の不作により飢餓地獄に至る。
私は思う。農産物の関税撤廃を主張する政治家とマスコミと知識人に対しては、以下のように誓約させるべきである。「もしTPP参加の結果、日本で飢餓が発生し、餓死者が出るような事態になった場合、その全責任は私たちにあります。その場合、私たちは率先して自分の食物を飢えている人々のために捧げます」と。 . . . 本文を読む
******農文協編『TPP反対の大義』9頁の宇沢弘文論文より***
(前略)
自由貿易の命題は、新古典派理論のもっとも基本的な命題の一つである。しかし、この命題が成立するためには、社会的共通資本の存在を全面的に否定した上で、現実には決して存在し得ない制度的、理論的諸条件を前提としなければならない。主なものを挙げれば、生産手段の完全な私有制、生産要素の可塑性、生産活動の瞬時性、そして全ての人間的営為に関わる外部性の不存在などである。しかしこの非現実的、反社会的、非倫理的な理論的命題が、経済学の歴史を通じて、繰り返し登場して、ときとして壊滅的な帰結をもたらしてきた。
(後略)
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菅首相が「平成の開国」などというおバカな主張を政権の重要課題に掲げ、6月までにTPP参加の是非を決定するなどと愚かなことをいうもので、どうしてもこの問題を書かざるを得ません。日本を「開国」せなばならないということは、今まで「鎖国」していたとでもいうのでしょうか? 驚くべき常識外れといえるでしょう。首相は財界と米国と財務官僚にシッポを振ってさえいれば政権を維持できると踏んでいるのでしょうが、それじ . . . 本文を読む
元日の各社新聞を買い集め社説を読み比べてみた。びっくりしたのは読売と朝日の社説が内容から論旨までほぼ同じだったことだ。両社示し合わせて書いたのだろうか? いよいよ翼賛体制成立間近かと背筋が寒くなった年頭であった。
両紙社説で共通したのは以下の三つの論点だ。①財政破たんを食い止めるため消費税を増税せよ、②TPPに参加せよ、③そして民主・自民両党は協調せよ(連立政権樹立を意味している)。朝日の場 . . . 本文を読む
EUも米国も自由貿易に後ろ向きになる中で、世界で最も積極的に先頭に立って自由貿易の旗を振っているのが、以前は国家管理貿易を続け、数年前までWTOにも加盟していなかった社会主義国の中国という笑い話のような状況になっています。しかし中国を説得するのはそう難しいことではないでしょう。次のように言ってやればよいのです。
「あなたの国はナニ主義でしたっけ? 一緒に『資本論』を読み返しましょう。『資本論』のどこに自由貿易はすばらしいなどと書いてありましたっけ?」と。
つい最近まで「万国の労働者団結せよ」と威勢よく叫んでいた国が、万国の労働者を総ワーキングプア化させるのを先頭に立って推し進めてよいわけはないのです。アメリカは、「民主化」だの「人権」だのと押しつけがましく言わないというのと引き換えに、中国が社会主義の原点に返って国際的な労働者保護のために自由貿易を修正するという道を、共に模索すべきなのです。 . . . 本文を読む
最近出た、山崎農業研究所編『自給再考 ―グローバリゼーションの次は何か』(農文協)という本の紹介をしたい。
この間の私はブログで、ドーハラウンド交渉を決裂させ、WTOの農産物協定を見直して各国の食糧自給の権利を認めるように制度を変えていかねばならないことを訴えてきた。
『自給再考』は、米国主導のグローバリゼーションの破綻を宣言し、その次にくる地産地消の時代、「輪(循環)と和(信頼)の時代」と . . . 本文を読む
正統派経済学の自由貿易信仰が「世界を殺しつつある」と表現したのは、私ではなく、国際エコロジー経済学会の会長も務めたハーマン・デイリー(メリーランド大学教授)です。デイリーの本からの引用が見出しになったわけです。
経済学を「思考停止」と呼んだのは私ですが。どこが「思考停止」で、どう「世界を殺しつつある」のかは、本文を読んで下さるとありがたいです。 . . . 本文を読む
一貫して貿易自由化を叫び続ける彼らは、じつは「世界社会主義革命」を志すトロッキストではないのだろうかと、私は思うのです。だって、彼らの言うとおりにしたら世界資本主義システムそのものが破局せざるを得ないからです。結果として世界革命が起こってしまう。彼らは、世界革命というトロッキーの予言を実現させるために、資本主義を守ろうとする穏健な人々を「保護主義者」と呼んで排撃し、弾圧しているのではないだろうか、と。今の新聞各紙で社説を担当しているのはだいたい団塊の世代です。彼らの多くは学生時代に全共闘運動なんかやりながら「世界革命」とか叫んでいたんでしょうね。非論理的で過激なアジテーションを行うのは、学生時代のアジビラから現在のアジ社説まで変わっていないということでしょうか? . . . 本文を読む
今週発売された月刊『現代農業』(農文協)の12月号に私の書いた自由貿易批判の記事が載りました(332~337ページ)。興味のある方がいらっしゃいましたら是非、ご笑覧ください。来月号にも続きが載る予定です。
『現代農業』が行う一連のWTO批判特集の一貫です。今月号の表題は「もはや時代遅れだWTO」です。いや、いいですね~。胸のすくようなタイトルです。そのような中に書かせていただけて光栄に存じます . . . 本文を読む
日本のマスコミときたら、「米国の旺盛な個人消費が世界経済のエンジン」「日本は輸出立国。対米輸出こそが景気回復のかなめ」「自由貿易体制をさらに発展させよう」「米国の共和党は自由貿易主義だからよいけど、民主党は保護主義だからダメ」・・・、まあざっとこんなイデオロギーをまき散らしてきました。「自由貿易は日本の生命線」と叫ぶさまは、「満蒙は日本の生命線」とわめき散らしていた1930年代の日本のマスコミをほうふつさせるものでした。
現実には、「自由貿易による米国の経常収支の不均衡」こそが、今日の世界恐慌を引き起こした根源的理由です。貿易不均衡の累積が、遅かれ早かれ世界的クラッシュをもたらすことなど、分かる人はみな分かっていたのです。 . . . 本文を読む
日本がやるべきこと。海外からの資源・エネルギー・食糧の輸入を最小化しようという国家戦略を立案することだ。当面、エコロジカル・ニューディール政策の実施により、食料自給率70%、エネルギー自給率70%ぐらいを目指すべきであろう。それによる内需拡大と国内の雇用創出は、失った外需を補って余りある。外需指向は、低賃金化と労働者の使い捨てをひたすら強要するが、内需志向は賃金の上昇と余暇の増大、そして国内の安定と調和をもたらす。貿易は、お互いの国が助け合うために行うべきなのであって、お互いの国民を潰し合うために実施するものではない。日本とアメリカ、アメリカと中国がやっていることはお互いの潰し合いなのだ。 . . . 本文を読む
地球温暖化対策というのなら、即刻、WTOの関税引き下げ交渉を打ち切り、すぐにでも関税引き上げ交渉を開始すべきなのです。私に言わせれば、関税率をちょっと引き上げて地産地消を政策的に誘導するだけで、地球全体でかるく30から40%のCO2排出を削減できます。そんなの、ちょっと試算すればすぐに分かることです。「関税引き上げ」は、もっとも低コストで実行可能で(というより政府から見たら税収増になるのでコストはゼロ)、また副作用も少なく、政府にも生産者にも消費者にもメリットの方が大きい温暖化対策です。なのに誰もそんな主張をしようとしない、そんな研究をしようともしない。させてもくれない。日本の政策研究者が米英の市場原理主義的処方箋で洗脳されているからそうなるのです。農産物貿易に伴う外部不経済は他にもたくさんありますが(生物多様性の破壊、森林破壊、窒素輸入による富栄養化、塩害、砂漠化、土壌流出など)、とりあえずフードマイレージとバーチャルウォーターという二つの外部不経済を貨幣換算し、それを内部化するために課税しようとするだけでも、かるく現行の関税率の水準を上回る税金を課さねばならないということが分かるでしょう。ならば、関税率を引き上げろという議論にこそなれ、引き下げなどあり得ない話です。 . . . 本文を読む
米国市場という「虚の需要」目当てに、国際社会が必至になって低賃金競争、労働者の使い捨て競争をやってきてしまったのが、現在の世界の悲惨をつくりだした原因。つまり世界中に報われない「プレカリアート」を大量に生みだしてきた根本的原因なのです。
途上国は結束し、互いに協調しながら賃金を上げ、労働条件を改善して内需を高め、輸出主導ではなく内需主導型の成長を目指すべき。貿易にしても、地域内(南米内部とかアフリカ内部)での産業連関構造を協調しながら構築し、域内貿易依存度を高めていくことを考えるべき。これはアジアにも言えることです。
それは輸送に伴うCO2排出も大幅に減らすことにつながり、労働条件の改善のみならず、地球温暖化対策の観点でも最良の選択なのです。 . . . 本文を読む
農業政策がにわかに注目を浴びています。民主党の目玉は一兆円を財源として、経営規模を問わずに全ての農家に直接所得補償をするという政策。自民党側は「そんなバラマキ財源はどこにもない」「WTOのルールではそんな行為は許されない」と批判を展開しています。自民党の言うように、この所得補償行為すらも「市場を歪める」という理由でWTOに提訴される可能性は十分にあります。もっともこの点に関していえば、米国とEUの農産物輸出補助金の問題ははるかに高いものです。私の立場をいえば、内に向かって環境と社会と文化を守るための輸入関税ないし所得補償は許されるべきだが、外に向かって国際市場を混乱させるだけの輸出補助金は決して許されてはならないというものです。もし直接所得補償制度をつくって、それをWTOに訴えられた場合、堂々と争うべきであり、それはWTO体制の非道性を広く日本人に知らしめるチャンスになるでしょう。 . . . 本文を読む