映画「グリーンベレー」2日目です。
キャンプに偵察隊が帰還してきました。
担架で運ばれてきた隊員もいます。
彼らの隊長は、政府軍のニム大尉(ジョージ・タケイ)。
ウェインが直々にオファーした日系人俳優タケイは、当時
「スタートレック」に出演しており大変人気がありました。
撮影開始直前、彼はウェインに向かって
「自分はベトナム戦争には強く反対している」
と表明しています。
これはウェインも承知の上で、というか、ウェインはこの映画クルーの半分が、
(ピーターソン軍曹役のジム・ハットンを含め)反対派であることを知っていましたが、
スタッフがプロとして演技と演出に力を注いでくれれば十分だ、と考えていたようです。
幸か不幸かこの映画は良くも悪くも当時大変な話題を集め、
賛否が真っ二つに分かれるような事態となったため、
(つまりそれは当時のアメリカのベトナム戦争に対する世論そのままでした)
出演を引き受けた、イコール、ウェインに同調しベトナム派兵を支持するものと、
世間の多くが彼らを見なしたとしても全く不思議ではありません。
前述のジム・ハットンなども、映画に出演したというだけで、
賛成派だとみなされて、詳しくは知りませんが色々あったようです。
それにしても、ジョージ・タケイのベトナム人役、なんと違和感のないことよ。
タケイはさすがプロらしく、一旦撮影が始まるとこの役に集中するため、
「スタートレック」の出演エピソード9回分を辞退しています。
この件でハッピーだったのは、「スタートレック」のチェコフ少尉役、
タケイの友人でもあったウォルター・ケーニッヒでした。
なぜなら、ヒカル・スールーが出ない分、出番が増えたからです。
さて、カービー大佐は早速ニム大尉をねぎらいますが、大尉は
「敵地に11日間いる間に部隊はかなり消耗して人員が足りないのに、
山岳部族は自分たちのこともベトコンのように見ていて、協力してくれない」
と答えます。
さらにニム大尉は、問われるままに
「自分の故郷はハノイなので、いつか帰りたいが、
その前にベトコン(Stinking Cong)を皆殺しにする」
と語り、周りのアメリカ人は彼の気迫に思わずたじろぐのでした。
「部屋に星のマークをつけてるんですよ。
今年はもう52個になったとか・・。
来年はこれを倍にするとか言ってます」
ニム大尉に何があったのかは尺が足りなかったのか、語られないまま終わります。
気を取り直すように、だれともなく話題を変えて、
「ところで一夜にして奇跡のように現れたトタン板のことなんだが」
海軍からピーターソンが盗んできたあれですね。
「便利なやつがいるもんだ」
「ピーターソン軍曹はどこから持ってきたと言ってた?」
「”いい妖精さんが置いていってくれた”と」
「”いい妖精さんが置いていってくれました、サー!”と言わなきゃだな」
字幕ではここは簡単に
「敬語を使うように言っとけ」
となっていて、good fairyは妖精さんではなく「天」となっています。
その夜、皆がまったりしていると、1発だけ砲撃がありました。
この攻撃は一晩おきに行われ、要するに安眠妨害をして心理戦を行なっているのです。
しかも、確実に狙う場所が決まっていると・・・。
内通者がいるということなのでしょうか。
この夜は一人の米軍大尉が運悪くその砲撃の犠牲になりました。
大尉は任務を交代して明日帰国する予定でした。
北ベトナムに設営したキャンプが砲撃を受けた次の日です。
ベックワース記者が、ニム大尉に現在進行形で行われている作戦について聞いています。
「ヘリで森の上を低空ギリギリで飛んで、ベトコンの銃撃を誘うんです」
「ベトコンがこんなに近くにいるということですか」
ニム大尉は白い歯を見せつつ快活に笑って、
「ベックワースさん、ベトコンは私の隊の中にもいるんですよ」
昨夜の爆撃が内通者の情報に基づいていたことを確信しているようでした。
ところで、マルドゥーン軍曹は「横流し屋」ピーターソンの「お道具」に目を見張りました。
仕事柄?やたら物持ちです。
ティーセット、ギター、お酒にコーク。
「任務中だというのにまだ娑婆っ気がぬけないのか」
「軍曹、わたしゃ海兵隊じゃないんでね。好きにさせてください」
トタンを調達してきたという功績があるので、マルドゥーンは下手に出て、
「今度は50口径を調達してくれないかな」
ピーターソン、軽ーく、
「いいっすよ。次にね」
「・・・どうやって?」
どこそこの誰々がバーボンを欲しがっているのでそれと交換する、
と得々と語るピーターソンに、マルドゥーン、驚いて、
「バーボンなんかどこにあるんだ」
「それは・・・」
蛇の道は蛇を地で行く抜け目ないこの男に、教会に通い、
ボーイスカウト出身という真面目な軍曹は呆れ返ります。
「俺はイーグルスカウト(ボーイスカウトの最高レベル)までいったんだ!」
でっていう。
ちなみに、マルドゥーン軍曹を演じたアルド・レイは特にジョン・ウェインと険悪で、
のちにインタビューでウェインを軽蔑的に語ったということです。
その理由はともあれ、なんで出演引き受けたのって気がしますが。
ある日、マルドゥーン軍曹が、ベースキャンプ周辺のジャングルの一部を片付ける
海軍シービーズの作業をを監督していると、一人の兵士が怪しい動きで
どうやらキャンプの中を歩測しているらしいのに気がつきました。
ニム大尉が捕らえて尋問すると、この不審な男は、最近ベトコンによって殺害された
アメリカ軍救護隊員の私物であるジッポーライターを持っていました。
裏には妻から贈られたものであることを示す文字が。
彼はカービーの友人で、山岳部族の出産を手伝った帰りに行方不明になり、
確認が難しいほど無残な遺体で発見されたのでした。
ベックワースは、ニム大尉が容疑者を殴打したのを見ていて、
「あれは拷問じゃないか!どうして裁判しないんだ」
と平時の理論を持ち出して大佐に食ってかかるのですが、
大佐は今回の容疑者はいかなる種類の保護にも値しないと切り捨てます。
「それとこれとは」
「大声でそれをコールマン大尉に言ってやれ。
ここからアーリントン墓地まで聞こえるようにな」
(´・ω・`)
キャンプでは付近住民の医療ケアなども行われます。
山岳部族の酋長がパンジスティックを踏んで怪我をした孫を連れてきました。
ベックワースは愛らしい孫娘に自分のペンダントをプレゼントします。
米軍は、敵攻撃に備えて民間人キャンプ内にを避難させようとしていたので、
ここぞと村長に交渉しますが、どうもピンときていない様子。
大佐が明日の朝迎えに村に来てくれたら従う、といって帰っていきました。
ご指名とあっては致し方なし。
カービー大佐は深夜から老骨に鞭打って部下と山中を村に向かいます。
道中にはパンジスティックの仕掛けなんかがてんこ盛り。
この道をじっちゃんや担架の女の子はどうやって帰っていったのか(´・ω・`)
「あの村長、敵の回し者とかじゃないんですかね」
ついそんな疑問が湧いてくるほどです。
しかし、村に到着した一行が見たのは累々たる死体でした。
村長の遺体の上には「グリーンベレー どもへ」と札がかかっていました。
(というのも何だか違う気がするんですが。普通『アメリカ人へ』とかよね)
村長がベトコンの募兵命令を断ったため、男たちは全員虐殺されてしまったのです。
村長の娘は山中に連れ込まれて無残にも殺されていました。
なぜか危険なミッションに付いてきていたベックワースは、
女の子の遺体がつけていたペンダントを渡され、愕然とするのでした。
そんなベックワースにカービー大佐、ダメ押し。
「だから言っただろう。現地を見ないとわからないと。
別の村では村長を殺さず木に縛り付けてな。
十代の娘二人を彼の目の前で切り刻んで、40人で彼の妻を(以下略)・・・」
ベックワースを説得するくらいならこれで十分かもしれませんが、
間の悪いことに、映画公開直前にはアメリカ軍の戦争犯罪と言われた
「ソンミ村虐殺」が起こり、米軍自身の残虐行為が問題になっていました。
残虐な敵からこちらの味方を守ってやるべきだ、という立派なお題目を唱えても、
その守るべき相手に対し身内がそれ以上のことをやっちまったわけですから、
お前がいうなというツッコミも当然起こってくるわけですよね。
ちなみにベックワース役のデビッド・ジャンセンもまたベトナム戦争反対派でした。
登場人物のベックワースはこのシーケンスを通じて、米国の戦争関与に納得していくわけですが、
それを演じたジャンセンは、全く自分の考えを変えることはなかったようです。
ちなみに、ジャンセンもまたウェインとうまくいっていませんでした。
彼は、撮影中にウェインがアジア人の子供(ハムチャックのことと思われる)に腹を立て、
叱りつけたのが原因で、撮影中のセットでウェインに食ってかかり、口論になりました。
結果、彼はそのキャリアで後にも先にもこのときだけ撮影現場を放棄することになりました。
しかしこうして列挙してみると、出演俳優のほとんどが映画の意図に反対しており、
あまりにもたくさんの俳優がウェインを嫌っていた、という構図が見えてくるのですが、
もうこの頃のウェインは「映画界の天皇」状態で、何があっても意に介さずだったのでしょうか。
この辺で、殺伐とした画面に飽き飽きしてきた人のために、
ダナンのクラブシーンが挿入されます。
ステージでは歌手が英語とフランス語で、シャンソンの
「La Seine」(セーヌ川)
を歌っています。
ベトナムはフランス領だったこともあり、フランス語が通じます。
そこにベトナム人の美女登場。
思わず目を見張るスーツ姿のカービー。
同行のカイ大佐によると、このトップモデル、リンという女性は郡長の娘で、
その郡長はベトコンの協力を拒んで弟とともに虐殺されたとか。
実は彼女、カイ大佐の義理の妹なのですが、なぜかこのとき
彼はそのことをカービーに告げません。
その夜、特殊部隊のキャンプは、数千人のベトコンと北ベトナム軍による
大規模な夜間攻撃を受けることになります。
パンジスティックと鉄条網の上に梯子をかけて侵入してきます。
こちらも迫撃砲で応戦。
ベックワースも怒鳴られて砲弾運びを手伝い始めました。
カービーとマルドゥーンは状況を評価するためにヘリで出撃するのですが、
彼らのヘリコプターは敵の砲火によって撃墜されてしまいます。
地面に激突する直前に飛び出したので全員無事、犠牲者はパイロットのみでした。
(そんな簡単にいくかなという気もしますが)
すぐにパトロールによって救助され、包囲されたキャンプを支援するための
「マイク・フォース」として(その心はカービーのファーストネーム)
フィールドを確保しました。
ここで問題発生。
チムチャックの犬、チマンクが壕から出てしまったのです。
そして・・・。
(-人-)ナムー
戦争映画の犬はフラグ、と言い続けてきましたが、犬そのものが死んだのは初めて見ました。
この非常時に、しかもこんなところ(土嚢の上)に墓を作り出す子供。
ピーターソンがやってきて、
「かわいそうに、友達がいなくなったな」
「君がいる」(Except you.)
「そうだな」
そのとき空軍機の支援がきました。
この「ブルー編隊長」が爆撃位置を確認してきます。
空爆で敵を叩いてからマイクフォースが突入することに。
この戦闘で多くのアメリカ人と南ベトナム軍と民間人が死亡しました。
プロボは南ベトナムの兵士を装ったスパイに銃撃されて重傷です。
ニム大尉はクレイモア対人地雷を仕掛けている途中、砲撃を受け戦死しました。
いたるところに地雷を仕掛けたのち、民間人を誘導し、退去を行います。
ピーターソンは、子供ハムチャックを抱き抱えてヘリに乗せ、
パイロットによろしく頼む、と後を託しました。
おそらくこのヘリパイは本物だと思われます。(演技が下手すぎ)
キャンプ内ではベトコンと北ベトナム軍の兵士による略奪が始まっていました。
倒れている遺体からめぼしいものを盗んでいくという浅ましさ。
靴や時計を剥ぎ取られているこの遺体は・・・なんとニム大尉ではないですか。
そして占領の証に意気揚々と旗をあげるのですが・・
あげ終わるか終わらないうちに「マジックドラゴン」(C-47)
が機上から掃射を満遍なく行い、瞬く間に敵を殲滅してしまいました。
全てを見たベックワース記者に、カービー大佐が尋ねます。
「見たことをどのように書くんですか」
すると記者は、
「もしどう感じたかをそのまま書いたら仕事はクビでしょうね」
そのときカービーは戦闘で重傷を負ったプロボ軍曹の臨終に呼ばれました。
いくら死ぬこと確定でも、顔の血ぐらい拭いてやれよ。
と思ったのはわたしだけでしょうか。
プロボ軍曹、何やらカービーに重大なことを頼みたい模様。
"Would you take a touch with me?"
この場合の「タッチ」は、ちょっと飲んだり食べたりする何か、と解釈します。
「ちょっと一緒にやってくれませんか?」
というところでしょうか。
「いいとも」
カービーはウィスキー瓶をいきなり瀕死の人の口に押し込んで、
そのあと同じ飲み口から自分もぐいっと一口飲み干すのですが・・・。
だからその前に口の血をふいてやれよって!
他人の血痕のついたボトルから直飲みなんかして、戦争で死ぬ前に病気で死ぬぞ。
「もう一つお願いが・・・」
「なんだ」
彼の変わった名前を残すのに適切な施設。
それは、PRIVY(屋外簡易トイレ)でした。
PROVO PRIVY
うーん、確かに語呂「だけ」はいいかもしれん。
これで彼も後顧の憂いなく旅立ったわけです。
めでたし・・・いや、めでたくはないか。
続く。