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海上自衛隊 第4航空群ニューイヤーコンサート@やまと芸術文化ホール

2023-01-22 | 音楽

「ここ10年で最も強い寒波が来る」

と、アメリカ五大湖沿いやボストンの寒さを肌で知っている人間が聞くと
ついつい鼻でわらってしまうようなニュースが、
あたかも人心の不安を煽るように流された冬のある日のこと。

寒波の襲来など、『すこ〜しも寒くないわ〜』と歌い飛ばすような
そんな(我ながらベタなマクラだな)ハートウォーミングな
海上自衛隊横須賀音楽隊のコンサートを聴いて参りました。

■ 海上自衛隊 第4航空群

我が海上自衛隊には航空群が全国に7つ存在します。
それらは航空集団の隷下に置かれ、航空集団司令部は厚木にあります。

そのナンバーの根拠はわたしにはさっぱりわからないのですが、
番号の若い順に、

第1航空群 鹿屋
第2航空群 八戸
第4航空群 厚木
第5航空群 那覇
第21航空群 館山
第22航空群 大村
第31航空群 岩国


となっております。

この日コンサートを主催したのは、厚木の第4航空群でした。
P-1哨戒機を運用する第3航空隊他、
補給隊、基地隊、硫黄島基地隊、南鳥島派遣隊
を含みます。

厚木海軍飛行場というと、何年か前、
防衛団体の主催でアメリカ海軍基地の見学をした経験があります。

日本が無条件降伏を受け入れ、コーンパイプを咥えたマッカーサーが
「バターン号」から降り立って以来、ここには
アメリカ軍の航空基地がずっと存在しており、
1971年からは海上自衛隊が共用を開始して現在に至ります。

米軍基地見学の際は、海上自衛隊部分に併設された広報資料館で
自衛官の説明付きで見学をさせていただきましたが、
たしか坂井三郎氏の書なんかが展示してあった記憶もあります。

さて、今回は、知人からのご紹介でチケットをいただき、
初めて航空集団主催のコンサートに行くことになりました。


■ やまと芸術文化ホール SiRiUS

大和市の存在すら下手したらよく知らなかったわたしですが、
今回初めて行ってみて、まず文化ホールの素晴らしさに目を見張りました。

シリウスについて

ホール、図書館、会議室、交流フロア、こども図書室、
地域資料室、貸しスタジオ、調理実習室、一階のスターバックス、
おそらく1日座っていても誰にも怒られなさそうな空間。
本は無人で返却でき、一冊づつ殺菌消毒処理が行われます。

しかもそれが大和駅から歩いて数分のところにあるという。
このホールと周りの雰囲気だけで、
大和市民になる価値はありそうに思えました。


■ コンサートに先立ち

コンサートに先立ち、国歌の演奏が行われました。

「ユカ」さんとアナウンスされたところの女性歌手が登場し、
彼女がアカペラで実にスリリングな「君が代」を歌い上げる間、
会場の最上階以外の観客は起立を行いました。

続いて、横須賀音楽隊のメンバーの一部が入場。
この時入場してきた隊員に、以前他所の音楽隊で見た何名かを認めました。
この3年の間に、かなりの移動があったようです。

そして、彼らによって、殉職した自衛官の魂のための儀礼曲、
「国の鎮め」
が奏楽されました。

国の鎮め


以前、映画「戦場にながれる歌」の解説で、この曲について
戦前から陸軍軍楽と海軍儀制曲に共通する儀礼曲である、
と解説したことがあります。

その際、「今日の祭りの賑わいを」などという歌詞からも、
この曲はもともと葬送曲ではなく、元始祭や新嘗祭など、
おめでたい皇室行事に用いられてきた(勿論軍歌ではない)ものであるが、
現在、海上自衛隊では「命を捨てて」とともに
慰霊の式に用いられている、と書きました。

いつからこの曲が慰霊用になったかは調べがついていませんが、
少なくとも大東亜戦争時、真珠湾の九軍神や山本元帥の葬列では
こちらではなく「命を捨てて」が演奏されていました。

「命を捨てて」という題名があまりに直裁すぎるということで、
現代の鎮魂には「国の鎮め」がよいのではと考えられたのかもしれませんね。

余談ですが、安倍元首相の国葬に対しずっと反対を叫び続けていた人たち、
本番でこの「国の鎮め」が演奏されたということでもう大騒ぎ。
「やっぱり(何がやっぱりだ)軍国主義じゃないか〜!」
と怒りマックスになっていたようですが、もう・・・なんかね。

厳密には前述のごとき事情で演奏されるようになった儀礼曲であり、
軍歌でもないし、戦争で命を失った人のための曲でもないのですが、
・・こういう人たちに何を言ってもわかってはもらえないんだろうな。





続いて第4航空群司令、金山哲治海将補(お父上は巨人ファン?)
の挨拶がコンサートに先立ち行われました。

遠目には大変お若く見えましたが、それも
スマートで体型が年相応に見えないせいかと思われました。

会場には厚木基地の米軍関係者らしき姿が多く見受けられましたが、
アナウンスは、彼らに配慮して、挨拶のセンテンスごとに英語訳があり、
挨拶の内容には、米軍関係者に対する日頃の協力のお礼や、
来場している偉い人(厚木基地司令マニング・モンタネット海軍大尉
(航空集団の司令なのに大尉)への特別な感謝の言葉が盛り込まれました。

そして、COVID19が発生してから、このような集まりは初めてであること、
久しぶりの機会に一同喜んでいることなども述べられました。



横須賀音楽隊の隊長もこの間交代していました。
新隊長は昔呉音楽隊におられた北村善弘一等海尉です。

そしてコンサートが始まりましたが、プログラム前半、
第一部の指揮者は副隊長(のはず)岩田知明一尉が務めました。

この日の演目は、一言で言って、難しい曲はひとつもなし。
一般人にとって親しみやすくポピュラーな曲ばかりでした。

おそらく会場にいる人のほとんどが、全部とはいいませんが
そのほとんどの曲を知っているor聞いたことがあったに違いありません。



■ ラデツキー行進曲の「拍手」

1♪ラデツキー行進曲 ヨハン・シュトラウス1世

2♪春の声 ヨハン・シュトラウス2世

プログラムにはどちらも「ヨハン・シュトラウス」とありましたが、
じつは全くの別人(って2世は1世の息子なんですが)です。

おそらくこの日は「ニューイヤーコンサート」ということで、
わたしも行ったことがある(とさりげなく自慢)
ウィーン楽友協会大ホール通称黄金ホールで行われる
本家ウィーンフィルのニューイヤーコンサートに倣い、
こちらの定番であるシュトラウス親子の作品が選ばれたのだろうと思います。

「ラデツキー行進曲」は、北イタリアの独立運動を鎮圧した
ラデツキー将軍を讃えて作曲された作品ですが、
本場のニューイヤーコンサートでは必ずアンコールにこれが演奏されます。

そして、ニューイヤーコンサートファンならご存知だと思いますが、
ラデツキーの時には、必ず指揮者が観客に手拍子での参加を求め、
客席を向いて「大きく」とか「小さく」とか「ここは叩かないで」
などという拍手への指揮を行うのが慣例となっています。

この日の最初のプログラムで、横須賀音楽隊は、
このウィーンフィル方式に則り、「拍手参加」を客席に求めました。

ちなみにウィーンフィルだとこんな感じです。

ラデツキー行進曲 ウィーン・フィル ニューイヤーコンサート


この慣習は、初演の際、客席にいたオーストリア軍の将校たちが、
身内のラデツキー将軍を讃えるという内容の曲に興奮して?
つい全員が手拍子や足踏みで拍子を取ったことから始まりました。

その後指揮者が率先して観客に手を叩かせるようになり、現在に至ります。

横須賀音楽隊、いきなりウィーンフィル方式で観客を巻き込み、
これですっかり会場を「温め」、準備は万端に持っていき、
次のシュトラウス(子)の「春の声」へと音楽は流れていきました。


3♪歌劇「蝶々夫人」より「ある晴れた日に」ジャコモ・プッチーニ

司会が、次の曲の説明として、

『海上自衛隊音楽隊の祖先である海軍軍楽隊は、
(あの変な「君が代」←横須賀音楽隊の演奏?を作曲したこともある)
本国では軍楽隊員、日本ではお雇い外人である
ジョン・ウィリアム・フェントンによって発展した』

というような話をマクラにしたので、ふむふむと思って聞いていたら、
なぜかいきなり軍楽隊がオペラの曲を演奏するようになった、
ときて、いきなり「マダムバタフライ」に話が着地して驚きました。

フェントン関係ねえ。

それはともかく、この曲目を見た時から、わたしは
横須賀音楽隊の歌手、中川麻梨子三等海曹のパフォーマンスを
おそらくこのコンサートで一番楽しみにしていました。

声量といい表現力といい、本当に素晴らしかったです。
特に「L'spetto.」のところ、びりびりーっと鳥肌が立ちました。

プッチーニ 《蝶々夫人》 「ある晴れた日に」 マリア・カラス(1)

ところでね。

もしお時間がありましたら、ぜひマリア・カラスのウン・ベル・ディを
聞きながら歌詞を確認していただきたいと思うのですが、

ある晴れた日
遠い海の彼方に
ひとすじの煙が立ち上り
船が現れる
白い船は港に入り
礼砲を鳴らす


礼砲で迎えられる白い船(アメリカ軍艦)で
蝶々夫人のもとにやってくるはずの人とは、他でもない、
アメリカ海軍の士官、ピンカートンであるわけですよ。

ついでに言えば、彼の勤務するのは戦艦「エイブラハム・リンカーン」

このピンカートンという男、とんでもない野郎で、
蝶々さんと3年も結婚生活をして子まで為しておきながら、
アメリカに帰るなり、アメリカ女性と結婚してしまうのです。

で、のうのうと妻を連れて「リンカーン」で日本に帰ってくるんですわ。
恥知らずか。

蝶々さん、ようやく再会を待ち焦がれていた夫に会える、と
軍艦に行ったら、本人はいなくて、その代わりに
ケイトとかいうピンカートンのアメリカ人妻と対面させられてしまうんだ。

しかもピンカートン、そのことを深く恥入りながらも、
蝶々さんに言い訳もできず、結局逃亡してしまうんですよクズが。

日本の武士道の教えにより、彼女は恥を濯ぐ方法として、
目隠しをした子供に日米の国旗を持たせ、
自らの喉を突いて自害し果てるという、まあ救いようのない話です。

わたしがこれを聞きながら考えたのは、
会場に多数お運びになっているアメリカ海軍軍人の皆さんは、
そんな話だと知ってるんだろうか、知ってるよね?ってことでした。

ピンカートンがアメリカ海軍士官であるから、海軍つながりで
アメリカ海軍からのお客さん多数のこの日のプログラムに選んだとか。

まさかと思いつつ、ちょっと狙ってた?と疑るワタシガイル。


ところで司会のMCなんですが、次の曲を紹介するのに、
またしてもフェントンの名前を出してきたので、ふむふむ、と思っていたら、
なんとフェントンがイギリス人、イギリス人と言えばホルスト、
次はホルストの曲をどうぞ、とまるで連想ゲームのような解説でした。

曲目解説の台本をもう少し練ったがいいと思いました。(苦言)


4♪吹奏楽のための第一組曲 グスタフ・ホルスト

この日のプログラムの中で最も「吹奏楽っぽ」かったのが、
ホルストの吹奏楽のための第一組曲です。

ホルストは「惑星」一曲で有名になった、などと
まるで一発屋よばわりする失礼な人もいますが、
この吹奏楽のための組曲1と2は、はっきり言って名曲です。
吹奏楽界では、古典作品として大変重要なレパートリーとなっています。

吹奏楽のための第1組曲 III- マーチ


「青春吹奏楽」レパートリーとして取り上げられるくらいですから。

当日は三曲続けて演奏されましたが、聴くと必ず
イングランドの荒野がイメージされる、(ちょっとウェスタン風でもある)
わたしも大好きなこのマーチの動画を上げておきます。


5♪ディズニー・クラシックス・レビュー

お子様も多数おられ、さらにはときおり赤さんの泣き声も聴こえるという
この日の観客にはこの選曲が大いに喜ばれたことでしょう。

ここからが第二部の始まりで、指揮者は隊長の北村一尉になりました。

曲の内容は、

ハイ・ホー ~口笛吹いて働こう ~星に願いを ~
ハイ・ディドゥル・ディー・ディー



6♪ 「アナと雪の女王2」より
「Into the unknown〜心のままに」

松たか子が歌う『アナと雪の女王2』より
「イントゥ・ジ・アンノウン~心のままに」 

オリジナルしか見ていないのですが、最初のバージョンの大ヒットを受け、
柳の下のどじょうを狙ってリリースされた「アナ雪2」。
ヒットしたんでしょうか。したんだろうな。

そちらの「レリゴー」に相当するメインの曲がこれだそうで、
中川三曹が日本語でこれを歌いました。

この日のアンコールには「レリゴー」が選ばれたのですが、
そのどちらのバージョンも、原曲が英語にもかかわらず、
日本語バージョンで歌ったのが色んな意味で大成功だと思いました。


7♪ ジャパニーズ・グラフィティXII

ジャパニーズグラフィティ12とはなんぞや。
それはほかでもない、日本の名作アニメ、「銀河鉄道999」と
「宇宙戦艦ヤマト」
のテーマソング三曲のメドレーでした。

生で聴く本チャンの(つまりある意味本家による演奏という意味)
「宇宙戦艦ヤマト」は、感動的ですらありました。
「銀河鉄道999」も、「ヤマト」も、すっかり日本人のスタンダードです。

ところで、なぜ「ヤマト」の曲を選んだのかというと、
この日の演奏会場が大和市だから。

異論は認めない。

8♪ マンボ No.5

ペレス・プラードというとマンボの王様が作曲したマンボの名曲。

なんてことを知っているのはきっとわたしだけにちがいない。
と思いつつ、なぜこの曲が選ばれたのか考えてみました。

今年は令和何年ですかー?
はい、年ですね。
で、マンボNo.5と。

異論は認めない。

この曲はボンゴなどラテンの曲に欠かせない打楽器がリードしますが、
ここでもう一度、会場の拍手による参加が強要されました。

サルサなど、アフロキューバン音楽でテンポを構成するリズムで、
クラーベ「clave」(スペイン語で鍵の意味)というのがあります。


拍手でこのリズムを取らせ、その上で
マンボNo.5の演奏が行われるというわけです。

ボンゴ奏者が途中でリズムを変化させ、頭をたたかせたりして
なかなか楽しいひと時でした。

ちなみに、No.5だけでなく、マンボNo.8、という曲もあります。

ペレス・プラード楽団 9/12 マンボ No.8 ( Mambo No.8 )

他は知りません。

9♪ スィングしなけりゃ意味がない
It Don't Mean a Thing (If it Ain't Got That Swing)

最後は、デューク・エリントンの名曲でした。
なんでもエリントンがシカゴの酒場での演奏の休憩時間に作ったとか。

この歌の歌詞ですが、タイトルをそのまま歌えばいいことになってます。

ちょうど横須賀音楽隊の演奏(@下総基地)が見つかったので
貼っておきます。

スウィングしなけりゃ意味がない /
海上自衛隊横須賀音楽隊 下総航空基地開設63周年記念行事

この曲は各自のアドリブソロが楽しめますが、
特に4:00くらいから始まるドラムのソロを是非ご覧ください。
この日も女性ドラマーが迫力のパフォーマンスで会場を沸かせました。

失礼ながら見た目は楚々としたヤマトナデシコ風の方なのに、
その気迫とのギャップに、つい萌えてしまいそうでした。

自衛隊音楽隊の人材の多彩さにはいつも驚かされます。


というわけで、ポピュラーで親しみやすい曲に包まれて、身も心も温まり、
「少しも寒くないわ」と(くどい?)会場を後にしました。

素晴らしい一夜を演出してくれた横須賀音楽隊の皆様と、
海上自衛隊第四航空群の皆様には、心から感謝を申し上げる次第です。








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2 Comments

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航空群 (Unknown)
2023-01-23 07:51:14
1~5航空群は固定翼哨戒機部隊です。

かつて、S-2Fという艦載型固定翼哨戒機(空母機)がいた頃は第3航空群がS-2Fで、それ以外の1, 2, 4, 5航空群が陸上機(P-2J)でした。いつの日にか、空母航空群が復活する日のために欠番にしているとまことしやかに言う人もいます(笑)

21, 22航空群は回転翼(ヘリコプター)哨戒機部隊です。以前は海峡防備用に陸上機部隊(大湊、館山、小松島、大村)がありましたが、現在はすべて艦載型になりました。

31航空群は飛行艇や電子戦機等、支援機部隊です。
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ラデツキー (ウェップス)
2023-01-23 11:15:55
何と言っても広島県民にとってラデツキーは「RCC(中国放送)ラジオ野球中継」の曲です。異論は認めません( `ー´)ノ
ニューイヤーコンサートを初めて見た広島県人は例外なく「何でカープの曲で盛り上がっちょるんかのお?」と思います。
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