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護衛艦「いずも」(と海自情報漏洩事件に思うこと)

2022-12-27 | 軍艦

さて、長々と語ってきたよこすかYYのりものフェスタシリーズも、
ついに最終回となりました。
最後はやっぱり日本国の旗艦たる護衛艦「いずも」シリーズです。



まずは遠景から。
横須賀基地入場前のヴェルニー公園からのショットです。
まだオープンして間もないのに、艦上に人影が見えていました。

わたしを誘ってくれた知人も、開門1時間前から並んで入ったそうですが、
皆根性あるなあ・・。


「いずも」ほどの大きさとなるともやいの張り方も複雑です。
艦首部分だけで6本をブイに係留しています。



この日は先日の観艦式の直後だったせいか人出は少なく、
岸壁に設けられた順番待ちの人のためのロープは出番がなかったようです。



こちらは艦尾側。
海上保安庁の巡視船「あしがら」の乗船待ちをしている時に撮りました。



ご存知の通り現在の自衛艦の中では最大級の「いずも」。

全長は248メートル、最大横幅が38メートル、
深さ23.5メートル、吃水7.1メートルというものですが、
「ロナルド・レーガン」は333メートル(見学した時に、これが
東京タワーと同じ高さと聞かされて忘れられない)
最大幅76.8メートルと3倍違います。

まあ空母ではないし、推進も違いますから比べても詮無いことですが。


しかしこれをご覧ください。
wikiに載っていたのですが、左が「いずも」。
真ん中がイギリス海軍の空母「クィーン・エリザベス」

「いずも」は「レーガン」といるとお兄ちゃんと弟みたいに見えますが、
これだとわりと同じサイズで安心しますよね(何が)



「いずも」「ひゅうが」などヘリ搭載型護衛艦は、
岸壁に向かって大きく開かれたハッチから乗艦します。
傾斜のある(ただし滑り止めがあって特に下りは歩きにくい)
ラッタルを渡るとそこはハンガーデッキです。

この日は見学者のために(なのかいつもあるのかは知りませんが)
巨大な艦のロゴマークが描かれたバナーが正面にどーんと飾ってありました。

ロゴマークは一般公募の中から選ばれたデザインで、
剣のバックに八匹の龍があしらわれた日の丸です。

八匹の龍ははご想像の通り“ヤマタノオロチ”であり、
剣はヤマタノオロチを討伐した“天叢雲剣(草薙の剣)”だそうです。


さて、デッキから右手(艦首側)には艦載機用エレベーター。


上から降りてくるのを待つわけですが、見学者があまり多くなかったので、
この時間は全く待ったり並んだりすることなく上にエレベーターに乗れました。


「一般見学」「艦載機エレベーター」というと、
わたしなどどうしても昔あった見学者の転落事故を思い出すのですが、
今は事故防止のために中央に柵を設け、対処しています。



写真を撮っている人もどうしても端っこに寄りがちなので、
柵とネットの設置は一般公開の際のマストです。



エレベーターを降りると皆艦首に向かって歩き出し、
最初にこのCIWSと対面します。

(実は最初これをSea RAMだと思っていてそう書いたのですが、
これはCIWSだ馬鹿者!とunknownさんのご指摘を受けました。
しかし流れとしてここでSeaRAMの説明を始めてしまったので続けます。

両者の違いは『レーダーが一体化されているかいないか』
このポイントも新たに知ることができました。
ありがとうございます<(_ _)>)

Sea RAMのシーは海、つまり艦載仕様と言う意味ですが、
あまり知られていないこととしてRAMとは

Rolling Airframe Missile

つまり「ローリングする機体状のミサイル」という意味です。

何がローリングするかと言うと、ミサイルそのもので、
周りながら飛翔していくのでこの名前があります。

RIM-116 Rolling Airframe Missile (RAM) は、
小型軽量、赤外線ホーミング地対空ミサイルで、
発射前に独自のセンサーを使用することができないため、
艦船の戦闘システムと統合し、ランチャーを目標に向けます。

西ドイツとデンマーク、ゼネラルモータースのミサイル部門が共同で開発し、
その後はデンマークが脱落し、GMは買収されて現在はレイセオンが製作し、
アメリカ海軍とドイツ海軍の軍艦で運用されており、
特にドイツ海軍では新型艦船すべてにRAMを搭載することになっています。

SeaRAMの開発は超音速海上スキミング対艦ミサイルに対抗するため、
ファランクスに付随する自衛システムとして設計されました。
(あーファランクスに似ているのはそのせいかー)

アメリカ海軍では

「ジェラルド・R・フォード」級航空母艦、
「ニミッツ」級航空母艦、
「ワスプ」級水陸両用攻撃艦、「アメリカ」級強襲揚陸艦、
「サンアントニオ」級水陸両用輸送艦、
「ウィドビーアイランド」級ドック揚陸艦、
「ハーパーズフェリー」級ドック揚陸艦、沿岸戦闘艦(LCS)


で運用されています。

ところで水陸両用攻撃艦の「アメリカ」級の一番艦「アメリカ」。
なんでこんなに主語が大きいの?
気になって調べたら、2番艦以降は「トリポリ」「ブーゲンビル」
「ファルージャ」
(予定)と普通に古戦場です。
命名基準などあって無きが如し。



これを撃ったらどうなるかというと。
空母USS「セオドア・ルーズヴェルト」から発射された
ローリング・エアフレーム・ミサイル(RAM)。


ところでシーラム(SeaRAM)兵器システムの概要ですが、
ファランクスCIWS Mk-15 Block 1B (CRDC) のレーダーと、
電子光学システムを11セルのRAMランチャーと組み合わせ、
外部情報を必要としない自律型システムにより防衛する武器です。

ファランクスと同様、あらゆるクラスの船に搭載することができます。
メーカーのレイセオンによると、SeaRAMは

「ファランクスと全く同じ船上設置面積で、同じ電力を使用し、
船上での改造は最低限で済む」

ということでこれからも運用は増えていくことでしょう。



ちなみにこれが「いずも」艦尾側ですが、
遠目にはCIWSとSea RAMが同じように見えたりします。

「いずも」はそれぞれを2基ずつ搭載しています。


2008年、USS「インディペンデンス」に搭載されたのが
最初のSeaRAMシステムで、現在は「インディペンデンス」級の各艦に
1つのSeaRAMが装備されています。



艦首近くから見た「いずも」甲板全容。
実際に上がったことがある方はご存知と思いますが、
艦載機を乗せる甲板の床は滑り止めのため新型艦ほどギザギザです。

このとき、わたしの近くにいた女の子が、はしゃいで走り出し、
(親が止めないんだこれが)たちまち床に足を取られて転びました。

瞬時にその辺を圧する彼女の泣き声が・・。

「あー・・・やっちゃった」

「ここで転んだらさぞ痛いことでしょう」


「けがもしてそう」

「しかしよりによってこんなところでで走りますか」


わたしたちがそちらを見ずにこんな会話をしていると、
わらわらと、という言葉がふさわしいくらいたくさんの自衛官が、
たちまち彼女の声に反応して集まってきてしまいました。

「あああだんだん大ごとに・・・」

昇降機の転落事故に通じることですが、自衛隊の艦艇というのは、決して
一般人にとってフレンドリーかつ安全に配慮されているわけではありません。

もしうっかり、あるいは今回のように親がちゃんと子供を監視せず、
怪我が発生すると、誰が迷惑するかと言うとそれは自衛官です。

一般人の理解を得るために公開した施設で、一般人のミスによって
一般人が怪我をしたとしても、責められるのは公開した自衛隊なのです。

わたしもかつて掃海艇の中で滑って転んで周りを一瞬騒然とさせたことがあり、
どんな注意していても起こる事故はあると理解していますが、
それでも、昇降機の端っこに立って下を覗き込んで落ちたり、
走る子供を放置していて転ばせてしまったりという事故は、
十分予測できるインシデントであり、心掛け一つで避けることもできるはず。

自衛隊施設を見学するすべての人に留意していただきたいものです。


構造物の下に列ができていますが、これはエレベーター待ちの人たちです。
たくさんいるように見えますが、これだけの人なら
全員が乗って降りることができると思います。



航空機を艦載する艦で重要な消火設備としての消防車。
正確な名称は

艦上救難作業車 P-25J

といい、「ひゅうが」にも搭載されています。
水を2840リットル、薬液を227リットルを搭載しており、
ターレット(自動噴霧)で約90秒 ハンドライン(手持ち)で約470秒、
同時に約76秒の射出が可能です。

作業車の近くには、銀色の消防服を着た乗員が立っていました。

アメリカ製なので、米海軍の空母にも搭載されているのと同じでしょう。


「いずも」の甲板は広いですが、見学するところはそうありません。
エレベーターを降りたら一周して終わり、ということになります。


構造物沿いに歩いていると、なぜかそこに艦長が降臨。
520名の「いずも」乗員を率いる司令官です。

現在の「いずも」艦長は5代目で、2022年1月着任された
防大38期の小城尚徳一等海佐です。



エレベーターを降りたらあとはハンガーデッキの見学です。
ここには作業車各種が展示してありました。


たとえばこの自走式クレーンもKOBELCOですし、
作業車は外注で民間から導入することになっているようです。



司令官旗は海将補を表す二つ桜が揚がっていました。
「いずも」の所属する第一護衛艦隊の司令官が海将補であることを表します。

ところで自衛隊に関心のある内にかかわらず、先日の
海上自衛隊一佐の機密漏洩事件について衝撃を受けた方は多いでしょう。

わたしもその一人ですが、詳細がわかってみると、
あれ?っという内容です。

井上1佐は情報業務群司令を務めていた2020年3月19日、
かつての上司で自衛艦隊司令官を務めて退職していた元海将に
安全保障情勢に関するブリーフィングをした際、
周辺情勢について収集した情報といった特定秘密のほか、自衛隊の運用状況、
自衛隊訓練に関する情報といった秘密を故意に伝えた疑いがある。

つまり1佐はもう一般人となった「元海将」に機密を漏洩してしまったと。

情報を受け取った元司令官は、安全保障に関する講演をすることが多く、
最新の情勢を知りたいと20年1月ごろに海自側に要望し、
ブリーフィングを受けたわけですが、その際1佐は

「(元司令官に)畏怖の念を抱いており、
通り一遍ではない秘密の情報を伝えたいと思った」


加えてそのブリーフィングが業務命令であるとの誤った認識が、
1佐の正常な判断をゆがめた、と周りでは見ているようです。

元海将が現役にブリーフィングを要求したというのも、引退してもなお、
本人は自衛隊に影響を持ち続けていると認識していたからこそであり、
事実元海将は1佐に対して
「自分は将来、海上自衛隊に助言する立場になる」
という趣旨の発言をしていたといいます。

助言って・・・影のフィクサー的な?
それは少なくとも公的にはあり得ない話のような気がします。

ニュースの第一報を聞いてすぐは、懲戒免職になるほどの事案ならば
それは外患誘致に通じるような決定的な情報漏洩だろうと思いましたが、
今回の漏洩事件、漏洩した方もされた方も、
情報を金銭に変えたり悪用するつもりではなかったのは確かです。

素人考えでは、当事者の1佐より、過去の階級意識のまま、当時の部下に
情報を求めた元海将の方が、罪は重いのではないかという気がします。

この場合、「退官した自衛官はもはや自衛隊になんの影響も及ぼさない」
(少なくとも法的な権利はない)という認識が元海将に希薄だったこと、
かつての上下関係が、部下であった1佐の規範遵守意識を曖昧にしてしまい、
則を超えさせてしまったことが不幸な結末に繋がったといえるでしょうか。

誰にも悪意はなく、誰も悪人ではなく、陰謀も計画もなく、
ただ各自の認識が甘かっただけの事件、とでもいいますか。

なのでなおさら、海自が苦渋の判断として当事者を懲戒免職という
大変厳しい処分を下さざるを得なかったことを残念に思います。