今日は陸上自衛隊の降下始めを例によって最初からお話しします。
今回もとりあえず座って観戦するために、開門前に並びました。
毎年毎年言っていることですが、とにかく降下始めは面白いけど
極寒の中でじっと座っていなければならないという過酷なものです。
一年に一度この行事に参加するようになってから、わたしはこの日のために
今まで息子のものしか買ったことがなかったアウトドアのブランドで、
出来るだけ暖かい衣類を見つけては慎重に検討し買い集めるようになりました。
その結果、今年は、裏が「オムニヒート」という銀色の素材
(まあ魔法瓶の原理ですね)でできているコロンビアのジャケット、
上に一枚重ねるだけでまるで部屋の中にいるように暖かいオーバーパンツ、
(多分スキー用)、靴の中には羊毛の中敷きと足の甲には靴の中カイロ、
布製マスクに帽子を被ってジャケットのフードを被るという、歴史上
最も暖かい格好で臨み、おかげでほとんど寒さは感じませんでした。
確かに暖かいですが、例えば第一空挺団に彼氏がいる、
という未婚女性ならおそらく決してしない重装備です。
これも降下初めの時だけいつも投入する、椅子内蔵のバックパックに座って観戦中も
さらに脚全体をキルトでくるんで風を防ぎ、寒さ対策はほぼ完璧と思われましたが、
唯一じっとしていたせいで足先だけがジンジン冷えたのが今後の課題です。
去年ずっと座っていたせいで終わった時に脚の感覚が無くなっていたので、
今年は時々立ち上がって足首を回したりして血行を良くしました。
写真は開場前から並んで待つほどの熱心な方々ですが、
流石に全員防寒には大変気合を入れておられます。
やっとのことで開場となり、去年とだいたい同じような場所に落ち着きました。
朝一の演習場にはすでに散水車が出て、水を撒いています。
広大な会場なので水を撒くのは来賓が降り立つチヌークの着陸予定場所のみ。
この状況で脚立が必要なのかという気もしますが。
報道用の一角でも各社の間でいいカメラの位置を取り合ったりするのかな。
わたしのところからは報道席は遠く、こんなところまで不肖宮嶋氏が来られているか
確かめることはできませんでした。
水タンク車ではないかと思いますがわかりません。
かまぼこ型のバラックの近くには、水陸両用車AAVが。
隊員がもうすでに準備を始めているようです。
「74式だ」
近くにいる人の中から声が上がりました。
総火演にはついに出場せず、先日の観閲式にも行進しなかった
74式戦車がなんと元気に稼働しているではないですか。
実は先日、わたしはある陸自駐屯地で、始めて旅団長を表敬訪問したのですが、
その短い会談時間の中で、旅団長(陸将補)に
「74式戦車はもう終わってしまったのか」
と尋ねたところ、
「終わったどころか、まだはっきり言って実質主流といってもいい」
という衝撃的な返事を聞いたばかりでした。
この会談についてはまた話をする機会もあるとは思いますが、
ちょっと戦車というものの一般人の思い込みが払拭されるような
目からウロコのお話だったとだけ予告しておきます。
陽が高くなってきましたが、この日は向かい風が強く、寒さ的には
だんだん強くなってきているという感じでした。
向こうにデカ白レンズを高く掲げた三脚がありますが、
状況が進むうち、いつの間にか無くなっていました。
人垣越しに撮らなければいけないならともかく、降下はじめでは
航空機が目まぐるしく航過するので、三脚に固定するのは得策ではありません。
わたしも隣の人もそうでしたが、望遠を手持ちし、状況によっては
広角レンズのカメラに持ち替えるのが降下はじめの「基本」だと思います。
いつも来賓と場合によっては防衛大臣を乗せたヘリが降りる地点は
入念に現場を点検することになっています。
空自のペトリオットには専用カバーが掛けてあります。
開始までの間、会場では「本日は晴天なり」などのマイクのテストと
出演部隊の紹介などはありましたが、音楽がガンガン流れることもなく、
モニター搭載車が自衛隊紹介ビデオを流すこともなく、
何か粛々とした感じが漂って、規模のダウンサイジングを感じました。
11時ごろの指揮官降下に先立ち、まず「試験降下」が行われます。
この日の天候に問題がないか身をもって試験台となる降下員。
一体どんな人がこのお試し要因に選ばれるのでしょうか。
きっと部隊の中でもレンジャーとか持っているレジェンドなんだろうな。
まさかくじ引きで当たった人、ということはないと思いたい。
向かいから冷たい風が吹き付けていたこの日の朝方でしたが、
この頃にはほとんど降下に影響を及ぼすような風は収まっていたようです。
おそらくベテランの空挺隊員にとっては酔っ払って3階から飛ぶより
ずっと楽勝なコンディションだったのではないかと思われます。
この日の事前のアナウンスでも言っていましたが、このタイプの傘での降下では
2階から飛び降りるのと同じ衝撃があるので、楽勝といっても着地後は
こうやって一回転して衝撃を逃していました。
お試し降下の人はいつも一人で降りて一人で傘を素早く片付け、
一人で退場していくことになっています。
着地とほとんど同時に立ち上がって、索の根元を持ち、地面の傘が
索と絡んだりしないように捌く作業を。
そして背泳のような動作で索を手繰り寄せ、まとめます。
畳むのもそこそこに、傘を抱えて全力疾走。
そのあとしばらくして、迷彩の一団が演習場に駆け足していきます。
むむっ、この中に一人アメリカ陸軍軍人が混じっているぞ。
ということはあれだな。副官軍団。
広い演習場ですが、暇に任せて観察していると肉眼では見えないところで
何かと作業を行なっている隊員さんの姿が見えたりします。
この人は、藪をつついて蛇を出そうとしている?
いつの間にやら会場の隅にはMCVの姿が。
状況開始に先立ち、会場では説明が始まりました。
でも、アナウンスが風に流れ、しかもわたしの近くの人たちが
ものすごく大きな声で可笑しくもない話でえらく盛り上がっていたため
何をいっているのかよくわかりませんでした。(−_−#)
とにかくここが黄色です。
そしてここが赤です。見ればわかる。
第一空挺団長戒田重雄陸将補を皮切りに、指揮官降下の始まりです。
去年と同じく、今年も米陸軍空挺の降下が行われます。
在アラスカの第25師団第4空挺旅団戦闘団、そして在沖縄から
第1特殊部隊群の空挺団。
そのいずれかの指揮官が二番目に降下を行いました。
三年前から指揮官降下に大量の指揮官が投入され、
副官を持つような偉い人たちが皆の前で飛ぶことになりました。
もれきく話によると、かつては全ての指揮官が即応精強というか、
臨戦態勢にあるとは限らず、中には天候不良で効果中止となり
「天はわたしに味方した」
とのたまった指揮官もいたということですが、少し前から
陸自では指揮官率先をわかりやすく形にすることにしたので、
そういう立場に任命された自衛官は日頃から覚悟を決めて鍛錬を行なっているのでしょう。
そういえば、陸将や陸将補がジャージを着てランニングしていると、
日頃の「神」のオーラが消えているので、下々の隊員はつい
欠礼してしまうことがある、とトッカグンの芸人さんが言ってたな(笑)
「陸将はランニングするときに『今から走ります』とアナウンスしてほしい」
だそうですよ。
傘が一部開くのが遅かったりするとやっぱり心配になるんですね。
開傘の確実性には研究を重ねた藤倉降装の落下傘だから大丈夫ですよ。
アメリカ軍指揮官の傘が陸自の傘の合間に落ちていきます。
さて、最初に地面に到達した指揮官。
到達地点に向かってまっしぐらに駆けていく人影があります。
そう、先ほど指揮官降下前に一足先に会場入りして待機していた副官ですね。
広い会場のどこに落りるかわからない自分のボスの降下地点を見定め、
全力疾走していく姿こそが指揮官降下での見所だとわたしは思っています。
アメリカ陸軍の指揮官は随分向こうに流れていってしまいました。
副官の走距離はかなりのものになったと思われます。
これは確か第一空挺団長。
別のところでもボスの落下地点にまっしぐらな副官の姿が。
アメリカ陸軍の指揮官は観覧席のはるか向こうに降下するようです。
左のグラウンド端から現在副官疾走中(のはず)。
指揮官降下の際には一人一人の官姓名と年齢までがきっちりコールされました。
「こんなお歳でも頑張っています!」
というアピールの意味があるのかもしれません。
最初にランニングしていた支援軍団の数から見て、6人の副官付きが飛んだことになります。
そのほかにもコールされていた指揮官は一尉までいました。
支援の副官は、指揮官のお身体を気遣うためだけではなく、いやむしろ、
パラシュートを手早くまとめるために出動しているのです。
ですから、ボス本体には見向きもせず(ってこともないですが)彼は
傘の先端に向かって駆けていきます。
傘の先端から出ている器具をまず捕まえています。
傘が開くときに「錘」となって開傘を補助するものだと思われます。
そしてそれを持って時計と反対回りにぐーるぐる。
この傘は現在空挺団で696MI12傘と併用されている、25年度デビューの
13式空挺傘であろうかと思われます。
この傘は気流の強い部分を活用して形状を保持させるために、
エアーポケット機能、さらには万が一傘同士が接触した場合、
離反してから変形した部分が早期に回復するような仕組み、
「デルタパネル機構」を設けることでより安全性を確保しています。
この支援者は、指揮官落下の補助のお手本のような動きです。
指揮官は索を持って立っているだけで、副官がまとめた傘を持ってきてくれます。
一口に副官といっても、海上自衛隊のそれは「セクレタリー」という印象ですが、
陸自ともなるとこういう業務が入ってくるわけですね。
去年に引き続き今年も指揮官降下の数は結構多かったと思います。
6人の補助者が他の人の傘の片付けを手伝ったかどうかは確認していません。
こちらも13傘かと思われます。
13傘はたくさんの人員が降下する際の安全性確保のために改良されました。
人の傘とぶつかったときに急激な圧力変化を発生させないように、
12傘には孔がいくつか空いていますが、13傘は孔は最小限で、その分
空気透過度の異なる複数の布を用いて傘全体から空気を透過させているそうです。
(藤倉航装株式会社研究陣報告による)
お手伝いが来ない指揮官は自分で傘をお片づけします。
飛行機から降下したあと、無事に傘が開くまでの瞬間まで
何回降下経験のある自衛官も緊張するものなのに違いありません。
全ての指揮官が降下したのち、いよいよ地上展示を含む模擬作戦の開始です。
降下部隊の着上陸の前にその前段階として偵察が行われるのです。
次の準備が行われるその前に、来賓の入場があるわけですが、
その準備の間にフィールドから退場する指揮官とその副官たち。
手前を走っているのは降下後、ヘルメットを帽子に替えて
身軽になった指揮官です。
続く。