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映画「深く静かに潜航せよ」〜秋風との対峙

2018-04-28 | 映画

映画「深く静かに潜航せよ」中編です。

今回冒頭に載せるゲーブルの絵を真面目モードで描いてしまい、
3カットこのタッチで描くのはキツいので、シリーズを2回で終わらせることにして
内容のペース配分を早めてしまったのですが、前編がアップされた後、
「続」編を楽しみにしています、という現役の自衛官からメールをいただき、
現役の声に弱いわたしとしては、もう少し細かく進めてみようかなという気になりました。

というわけで、今回は前、中、後編に分けることにして、
前回、「ナーカ」の艦長になるはずだった副長のブレッドソーに
艦長はごり押ししてきたリチャードソンに決まった、ということを告げにきた
人事の大佐その他について、ちょっと補足しておきます。

仏頂面でいつの間にかみんなの輪の外にいた大佐、
挨拶もそこそこに

「ギャレーにミルクはあるか」

「粉ミルクですが」

「構わん」

そしてギャレーでブレッドソーが粉ミルクを調合するのを待つ間、

「サブマリン・・・・肝臓を壊された。歳を感じてゾッとするよ」

などと軽口を叩き、

「君は潜水艦が好きか」

ブレッドソーが

「わたしは任務を志願したんです。もちろんです」

という言葉を聞きながらミルクを受け取り、一息で飲み干してしまいます。

 

実は今わたしは、行きつけのクリニックで体組織検査の結果勧められた
水溶ビタミンを朝晩摂取しているのですが、あまりにまずいので、
小さなコップに水溶液、横にチェイサーを置いて、一気に水溶液を飲み、
息をしないまま急いでチェイサーで匂いを洗い流す、という技を開発しました。

この大佐がミルクを飲む様子がまさにそれ。

ミルクが好きだから飲んでいるのではなく、肝臓を壊して医者に言われ、
仕方なく1日に三杯のミルクを飲んでいる人みたいな飲み方です。

ちょうどミルクの時間にブレッドソーに引導を渡す仕事をすることになったので、
この際潜水艦の粉ミルクでもいいや、とばかりにこれを所望したと思われます。

潜水艦勤務というのがいかに大変であるかを「身を以て知った」軍人、
ということが深読みすればわかる、なかなか印象的なシーンだったのですが、
冒頭の自衛官もここが

「この映画の”ツボ”だった」

と書いておられました。
何か思い当たる節がおありなんでしょうか(笑)

 

それから、作者のエドワード・L・ビーチは呉の潜訓に来た事があったとか。

実際に潜水艦に乗って日本軍と命の取り合いをしていた人なので、
その著書では日本人ディスりが激しい傾向にあるらしいのですが、
実際に日本に来て潜水艦施設を見るくらいですから、個人的な恩讐はなかったのでしょう。

たとえあったとしても、日本に来た後はそれも無くなっていたと信じたいですね。

もう一つ、映画について細かく突っ込んでおくと、陸に上がったリチャードソンと
ヨーマンのミューラー(ジャック・ウォーデンという名優)が
図演を行うシーン、テーブルの上にはご覧のように模型があります。

この模型は、ミューラーが

「施設のあっちこっちから盗んで来た」

図演用模型という設定ですが、模型に詳しい人に言わせると、
これは明らかにどれも

「レベル」Revell

というアメリカの模型会社の製品で、しかも50年台半ばに発売されたもの。
このうちUSS「ミズーリ」の模型でそれが顕著にわかるそうです。

 

そして、この脚本には大変な「穴」があることを知ってしまいました。

冒頭、豊後水道でリチャードソンの乗っていた潜水艦が「アキカゼ」にやられて
乗員は海に投げ出されます。

艦長のリチャードソンも、ヨーマンのミューラーも生き残ったということは、
このあと彼らは救助されて真珠湾まで帰還したということなのですが、
悲しいことに、1942年当時、まだ米国の艦船はこの区域に入って来ておらず、
したがってこの海域で艦を破壊され海上を漂流することになったが最後、
彼らは自動的に日本軍の捕虜になっていたはずだ、というものです。

いわばこの話の大前提なので、この決定的な矛盾は辛いものがありますね。

原作者のビーチ前川は軍人だったので潜水艦の操作運用については正確ですが、
残念ながら実際の歴史との整合性にはあまり拘らなかったようです。

 

さて、前回の続きと参りましょう。

かつての仲間を葬った宿敵「アキカゼ」に復讐するという、
ある意味軍人としてはあるまじき、私怨を晴らすという下心を持って
「ナーカ」の艦長に無理やり就任したリチャードソン中佐は、
打倒駆逐艦に特化した訓練を行い、これで駆逐艦「モモ」を倒します。

艦長の姿勢に士官連中は反発し、ついに造反の計画まで囁かれるに至りますが、
「ナーカ」は艦長命令により粛々と、「アキカゼ」のいる豊後水道に航路を向けるのでした。

海上航走の際の見張りはこうやって行います。
双眼鏡を見ながら肘が支えられる仕組みなんですね。

さて、その豊後水道で、「ナーカ」は日本の船団を発見しました。

「先導の船からやりますか」

尋ねる部下に艦長は

「あれは平底船だから(シャロー・ドラフトなデコイ)十発撃っても下を通過する」

とベテランらしい冷静な意見を。
こういう記述がいかにもサブマリナーだった作者らしいと思わされます。

この船団を護衛するのは艦長が遭遇を焦がれていた豊後ピート、駆逐艦「アキカゼ」でした。
どうして潜望鏡から見ただけで「アキカゼ」と特定できるのかはわかりませんが。

それをいうなら前回も遭遇するなり駆逐艦「桃」だ!と言っていましたが、
海上で見ただけでは艦種はともかく普通艦名までわからないんじゃ・・・。

 

それはともかく、艦長はまず船団の輸送船を攻撃することにし、
スピードがある「アキカゼ」は訓練通り正面から魚雷を撃つことにしました。

まず二本の魚雷で輸送船を攻撃。

いくら駆逐艦でもそのスピードはないわー、という信じられない速さでやってくる
我らが「アキカゼ」。
いくら速いと言っても、艦尾が完璧に浸水してるのはやりすぎと思うがどうか。

そして「アキカゼ」は「ナーカ」が照準をするより早く撃って来ます。

おまけにそのとき、空からも零戦隊が掩護にやって来て爆雷を落としてきました。
てかこれアメリカ映画には珍しく本当に零戦じゃね?

ギリギリまで「アキカゼ」を仕留めるにブリッジで頑張っていた艦長ですが、
航空機の攻撃があまりにも熾烈になったため、初めて潜航を命じました。

魚雷がこちらに向かってくるのを確認するや、隔壁の閉鎖を各所に命じます。

たちまち各区画の間にあるハッチがしめられていきます。
どこかに破損があって、そこが浸水しても被害を最小に食い止めるためです。

深く静かに潜航して、敵の攻撃をただ当たらないように祈りながら待つ、
潜水艦映画おなじみのシーンです。

この映画は、戦後に作られた潜水艦映画の名作中の名作と讃えられていて、
のちのいくつかの潜水艦映画にもこの映画へのオマージュや応用が見られるそうですが、
敵の攻撃を息を潜めて待つシーンについてはこれがオリジナルではありません。

この映画の影響は、「レッド・クリムゾン・タイド」「U-boat」などに顕著らしいので、
そのうち何かの機会に検証してみたいと思います。

一発目の魚雷は艦体を逸れて通過していきました。

ソナーマンが上に駆逐艦が停止したことを察知します。
「アキカゼ」が「ナーカ」の位置を特定したのです。

そして爆雷は雨あられのように撒かれはじめました。

そして、ついに・・・・・。

「ナーカ」の魚雷発射室に命中し、損害を与えました。

魚雷のスクリューが勝手に周り出したりしたとおもったら、
ハッチの鎹が損傷し、水漏れがしてきました。

ちなみにここにアフリカ系の水兵がいますが、1943年当時、潜水艦では
黒人は兵員食堂のコックか給仕としてしか乗り込むことはできなかったはずです。

よせばいいのに、魚雷発射室と連絡がつかないからと、わざわざ被害を見に行った
リチャードソン艦長、三発の爆雷が爆発した衝撃で床に転倒し、頭を打ってしまいます。

思ったのですが、どうせ見にいっても何の役にも立たないのだから、
艦長は本分を守って司令タワーから動かない方が良かったのではないでしょうか。

そして、乗員同士で賭けをしたとき、

「アンラッキー7」

に賭けて悪夢の第7海域を引き当て、掛け金を一人勝ちした若い水兵、
ジェシー君には惨劇が待ち受けていました。

爆発の衝撃で、留め金が外れ、そのショックでスクリューがぐるぐる回っていた
魚雷がラックから落下し、床に転倒していた彼を直撃したのです。
いやー、このシーン酷すぎて思わず声が出ちゃったよ。

艦長はジェシーの近くで倒れていたので直撃は受けませんでしたが負傷し、
ジェシー君を含む3人が犠牲になりました。

(-人-)ナムー

そして、トドメをさすまで諦めそうにない「アキカゼ」に対し、
これも潜水艦映画でおなじみの「死んだふり作戦」、つまり魚雷発射孔から
沈没したと見せかけるためにものを排出する作戦が取られることになりました。

「オイルを流出させ、毛布やギア、あらゆるものを射出しよう」

そこでリチャードソン、艦長として非情の命令を下します。

「さっき亡くなった者の死体を発射しろ」

潜水艦が偽装のために艦内のものを魚雷発射管から射出する、というと、
こんなシリアスな展開の時になんですが、1959年作品「ペチコート作戦」を思い出します。

日本の潜水艦ではないことを証明するために、アメリカ人女性の下着を射出する、
というこの時のクライマックスは、1年前に公開された本作のパロディだったのでしょうか。

だとしたらかなり不謹慎な気もしますが。

一瞬息を飲み、続いて「イエス・サー」と返事をするブレッドソー副長。

若い水兵の遺体をチューブに入れる時、彼らの表情にはえも言われぬ
苦衷と諦めの色が浮かぶのでした。

そして、遺体が射出されていく発射管の覗き穴を直視できないミューラー・・・。

あれ?この人ヨーマン(下士書記官)なのに何で魚雷発射室で仕事してるの?

魚雷チューブの独特の揺れと音を、潜望鏡の周りでただ黙って聴く艦長以下乗員。
今射出されているのはさっきまで一緒に戦っていた乗員なのです。

射出後、「アキカゼ」がこれに騙されてくれるか・・・・。

海上には射出された諸々が浮かび上がりました。
それを発見した「アキカゼ」の乗員、

「ヤッタ、ヤッタ、チンボツダ!」

だから日本語でおkっていってるだろ!(怒)

 

ところで、このシーンにおける「アキカゼ」艦長(中佐)の襟章、
なぜか金線が4本の土台に桜がついていますが、

こちらが本物ですので念のため。

潜水艦が沈没したと判断した艦長は、流暢な日本語で

「最大戦速、護送船に復帰せよ」

と命令、日本語でおkな部下が電話を取り上げて復唱する前に場面は切り替わります。
(きっと復唱できなかったんだと思う)

「スクリューの音が小さくなりました」

助かった!と皆でホッとするのですが、その時彼らは
何者かが発する不気味な通信音を耳にするのでした。(伏線)

というわけで最大の危機は去ったわけですが、ここでリチャードソン艦長、
懲りもせず、わざわざ「どうだ」と一言聴くために魚雷発射室まで出かけて行き、
そこで先ほどの負傷が祟って昏倒してしまいました。

だから艦長は司令塔で大人しくしていろとあれほど(略)

この時、魚雷発射室にやってきたリチャードソンが辛そうにしているのに
誰も気づかず、しかも倒れ込んだときも後ろの異変に御構い無しに
皆ぞろぞろと発射室(しかもまだここは修理が必要)を出ていってしまい、
艦長を支えるのがミューラーただ一人、というのが何やら切ない。


つまり艦長、乗員に基本相手にされてない(あるいは避けられてる)ってことでおk?

 

続く。