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アメリカのエース本 ACES HIGH より

2010-07-21 | 海軍


ボストンからサンフランシスコに移動するとき、ローガン空港の本屋でこのような本を見つけました。
戦闘機パイロットに詳しい方ならご存知でしょうが、二次大戦中のアメリカのトップエースは、
どちらも陸軍士官で、リチャード・ボング(40機撃墜)とトーマス・マクガイア(38機)の二人です。
この”ACES HIGH”は、この二人の撃墜競争スコアを各章の小見出しにつけ、
同時に日米航空戦を語るという方式で書かれたノンフィクション。

勿論、まだ全部読んでいません。

息子なら専門用語さえ分かれば読んでしまいそうなんですが、エリス中尉、恥ずかしながら
読むスピードは(も?)完璧に子供に負けています。
何しろ彼は辞書など要らないからねえ・・・。

それはともかく、察しのいい方、あるいはこれまでこのブログを読んで下さった方なら
もうお気づきかと思いますが、この本を買ったのは、立ち読みして確かめたところ

「笹井醇一中尉の名前があった」

というただそれだけの理由。

しかしながら、笹井中尉の名前が現れる部分「だけ」を抜き出すと一瞬で話が終わってしまうので、
ここは「アメリカのエース本において日本人搭乗員の出てくる部分をご紹介」ということにいたします。


さて、まずはアメリカ側から見た「ラバウル航空隊」


1942年のニューギニアにおける航空戦は誇張ではなくいわば
『魔女の大釜』(不安定で危険な状態)であった。
米国空軍にとってそれは最悪の時期と言えた。
対する日本帝国海軍(IJNAF)は最盛期にあったからである。

ニューギニア北海岸のラエ基地には、日本の歴史の中でおそらく最も有名なファイター・ユニット、
台南航空隊があった。
この名はもともとこの航空隊が台湾の台南を基地にしていたことから産まれた。
この航空隊は文字通り1942年のほとんどの間を通じて、南西洋の上空を制圧し、帝国海軍に貢献した。

台南航空隊はおそらく海軍の最も優秀な搭乗員を集めたもので、有史以来全ての戦争を通して
最も「エリートぞろいの航空隊」であったと言える。


特筆すべきは、台南航空隊は四人ものトップエースを擁していたことで―西澤廣義、坂井三郎、
笹井醇一、奥村武雄など―彼らは全員一九四二年から四三年の間に活躍している。

同時に、大型の航空隊が、大規模な日本軍守備隊に付随する形で
ラバウルや暫定的にラエに進出していた。
陸軍航空隊の第十一戦隊、そして海軍航空隊の五八二航空隊であった。
後者はラクナイに基地を置いたが、1942年の11月半ばからはラエから出撃した。
そのころボングがニューギニアに着任している。




あのですね。
坂井、西澤、笹井とくれば!
誰か一人忘れていませんか?
そう、太田敏夫一飛曹(最終飛曹長)です。
いくら坂井三郎中尉が「太田はまだまだだった(ダッシュなしのAクラス)」なんて対談で言ったからって、
いくら坂井さんが「皆さん太田の実力を高く買いすぎですよ」なんて語ったからって、
いくら控えめな性格だったからって、名前くらい出してあげてください!

さて、せっかく16ドル出して買った本なので、読みますよ。←ちょっと怒ってる
読みますが、笹井中尉の出てくるのは二か所のみ。
もう一か所は1944年、ボング21機、マクガイア16機のスコアだったころの記述に、
このように現れます。


日本軍の航空隊の南西洋での力は衰退の一路をたどっていた。
航空機の生産は米軍のそれに比べ全く追いつかいていなかった。
(中略)
さらに、優秀なパイロットの不足が日本軍航空隊の弱体化に追い打ちをかける。

1942年当時、米軍搭乗員は世界で最も精練の、
最も能力のある搭乗員と対峙せねばならなかった。
しかし、彼らが相手にしているのは今や二流といえた。


伝説の撃墜王たち―坂井三郎、笹井醇一、西澤廣義―はもう、そこにはいない。
坂井は1942年8月8日、米海軍のアベンジャー雷撃機との交戦で負傷し、
その18日後の8月26日、ガタルカナル上空の爆撃機直掩の際、
笹井は米軍海兵隊(Marine Corps マリーン・コーア)のマリオン・カール准将に撃墜されている。
カール准将自身、18機撃墜の記録を持つエースであった。


西澤は―人は彼を『悪魔』と呼んだ―ラバウルから生還するが、
台南航空隊が再編され二五一空と名称を変えて帰ってくるとき再びこの地にに送られる。
10月、二五三空に着任するも、すぐさま下士官に昇進し、日本に帰国している。



坂井氏を負傷させたのは、SBDドーントレスでした。
この喰い違いは、坂井氏の最初の著書(アメリカではSAMURAI!というタイトルで出版された)
にTBFアベンジャーと書かれていたことに端を発しています。

近づくや否ややられてしまった坂井氏が当初敵機を誤認していたわけですが、
後にSBDであると訂正し、今日に至っています。
この著者は、坂井氏の伝記の初板を参考にしたものと思われます。

このSAMURAI!ですが、ちょうど七月、最新版が発売になるところで、
今アマゾンに予約販売をかけています。
そろそろ届くと思うのでアメリカに送ってもらおうと思っています。



おっと、ドーントレスかアベンジャーか、でしたね。
私ならアベンジャー”復讐”より、ドーントレス”勇敢”にやられた方がましかな。なんて。
そもそも日付が一日間違っているので(実際は八月七日)この著者が一日違いの資料をもとに
機種を誤認しているのかもしれません。

我々がノンフィクション作家に要求するのは
「歴史をどんな小さなことでも正確に記し後世に伝えてくれること」で、
そうであるに違いないという前提で本を手に取ります。


こういう小さい喰い違いでも印刷という媒体に載せてしまうと、歴史という観点では
わずか六、七十年前のことすら事実にコーティングをするように本当のところが分からなくなっていく、
という実例を見た気がします。
「それがどうした」と言われるような瑣末なことですが、
歴史は「それがどうした」の積み重ねですから。







参考:"ACES HIGH" BILL YENNE, Berkley Caliber